岩瀬さんと田本さんは、立命館大学理工学部の宗本晋作先生の研究室に所属し、「宮古復興プロジェクトODENSE（※1）」に携わってこられました。この春、建築都市デザイン学科から、理工学研究科へ進学。津波で失われた街を1/500の模型で復元し、地域の街並みや記憶の保存・継承していこうとする「失われた街　模型復元プロジェクト」の一貫として、岩手県宮古市田老地区の復元を担当されました。

　
模型の制作が本格的に始まったのは今年2月下旬。約1.5キロ平方メートル（1km×1.5km）に及ぶ田老地区を、研究室のメンバーや有志の学部生と共に完成させることができました。これまで建物の模型づくりは何度も経験していましたが、これほどの大規模な模型の制作は初めてでした。一番大変だったことは、復元するために必要な街の情報がほとんどなかったことです。そこで僕たちは、Google　Map（地図）やGoogleEarth（衛星写真）を利用して、震災直前の田老地区の映像から建物の高さを割り出したり、屋根の形や家の向きを確認しながら、できる限り忠実に再現していきました。しかし、模型づくりが進むにつれ、現地を見たことのない僕たちがつくっているこの模型がどこまで正確なんだろうかと不安を感じていました。
 

そして4月。模型とともに僕たちは田老を訪れ、模型に現地の方々の街の記憶を加えていただくため、「記憶の街ワークショップin田老」を開催しました。このワークショップでは、参加者に「ご自宅、見つけられました？」「屋根に色を塗っていただけませんか？」と声をかけ、模型を見ながら自分の家や地域の運動会などの想い出を教えていただきました。訪れた方は6日間で約800名。来場者が増えていくうちに、参加者の記憶とともに真白だった模型に色付けがされていき、街並みが蘇っていくのを感じました。そして「これは、復元された模型の街ではなく、地元の人たちが暮した本当の田老の街なんだ」と思うようになりました。

    
    

参加者の多くが「田老の海が好き」「またこの街で暮らしたい」と話されていました。「津波は街を流したけれども、住民の繋がりや絆は流せなかった」という言葉は僕たちの胸に突き刺さりました。津波が奪ったものの大きさを痛感するとともに、住民のみなさんのこの街に対する想いや人々の強い絆を感じました。「この高さまで津波が押し寄せたんだよ」と、震災の辛く悲しい記憶は、今もまだみなさんの心から消えてはいません。模型の街を見ることで遠足の話や居酒屋で飲んだ話、公園で遊んだ話など、田老での楽しかった記憶をたくさん思い出していただき、忘れないでいてほしいと思っています。

    
    


このワークショップを通じて、人にとって住む家や生活していた街の記憶がどれほど大切かということを感じることができました。この気持ちを建築に携わっていくかぎり僕たちは、これからも大切にしていかなくてはなりません。今年の9月上旬に、ODENSE2号の建設地である鍬ヶ崎地区でも同様の取り組みをすることが決まっています。次は、より多くの方の記憶をよび起こしていただくため、できるだけたくさんの方とお話しさせていただき地域のみなさんの想い出とともに街並みを再現できればと思っています。


模型制作とワークショップの模様はこちらをご覧ください。




(※1）宮古復興プロジェクトODENSEはコチラ