梅山 佐和

「理念と実践をつなぐ仕事にかかわりたい」

梅山佐和 さん

梅山 佐和

梅山さんの研究テーマは、子どもの虐待と非行の関連性、とりわけ児童自立支援施設(以下、「施設」)における処遇上の制限と子どもの権利保障についてである。現在、施設には、窃盗、恐喝、暴力行為、深夜徘徊、性非行など非行傾向のある子どもたちが入所している。しかし、この子どもらの背景には親からの虐待があることが多い。

梅山さんは本学産業社会学部産業社会学科発達・福祉コース(現・人間福祉専攻)3回生のときに、社会福祉士実習として複数の施設で住み込みの実習を行った。施設内での子どもに対する処遇の一部が権利侵害の可能性があるのではないかと考え、問題意識をもった。これについて指導教員らとやりとりをするなかで、全てが権利侵害に該当するのではなく、子どもの育ち直しにとって必要な制限があることを知った。この経験や学びが梅山さんの研究の下敷きとなっている。

学部3回生のときから10年余各地の施設に通い続け、子どもたちや施設職員との関わりを大切にしてきた。梅山さんは、施設に入所している子どもたちの権利、あるいは施設職員らの子どもたちに対するまなざしを、フィールドワークを通して社会へ発信していると言える。


現在、梅山さんは、NPO法人子どもの虐待防止ネットワーク・しが(=CAPNeS)で、1年間の任期付契約職員として働いている。CAPNeSは、「子どものための『児童虐待防止』学習資材作成事業」を滋賀県から委託され、それを担当している。国内で先行研究があまりないため、カナダのトロントで使用されている教材を取り寄せ、翻訳し、理念についてまとめるなどしている。そして、高校教員らで構成されたワーキンググループを立ち上げ、プログラムの具体化を進めている。子どもたちは、被害者になる可能性もあれば、いずれ自らが親となり子育てをするなかで、加害者になる可能性もある。

「子どもたちが、『感じて、考えて、印象に残る』教材を作りたい。」梅山さんは、CAPNeSでの仕事に大変やりがいを感じている。非行の背景にある虐待。虐待を防止できれば、子どもたちの非行を減らすことにつながる。つまり、今の仕事は自身の研究と深く関連しているのである。

梅山さんは、「理念と実践をつなぐ仕事にかかわりたい。外に発信することができない人の代弁者となり、外の情報を分かりやすい形で施設内に持ち込むような役割を担いたい。そして、そのような「研究者」になるためには、何かしらの現場経験を踏み、現場に関わり続ける必要があるのではないか」と考えている。


今の職場では異業種の方々と関わる機会が多く、ネットワークが自然と広がる。恵まれた職場環境に委ねるだけでなく、梅山さんは常に人とのつながりを大切にしている。近年、パソコンや携帯の普及により、他者とのコミュニケーション手段はメールがメインである。しかし、梅山さんは名刺を頂いた後に、お世話になった方にはできる限り自筆でお手紙を出すそうだ。「手紙だからこそ、自分の思いを伝え、やりとりするなかで相手の本音が聞けることがある。」手紙を書いたり、実際に会いに行ったりすることで信頼関係を築き、ネットワークを広げている。梅山さんの繊細な気配りが、相手の印象に残り心を動かすのだ。

このような気配りは、社会に出てから簡単に習得できるものではない。院生時代には、研究以外にプレゼンテーションや書類作成能力のスキルを身に付けておいたほうが良い。博士課程前期課程2回生のとき、学振の二次面接で不採用になった苦い経験は、「どのように伝えたら人の心を惹くのか」を考えるきっかけともなった。以降、読み手の立場に立って丁寧に文章を書くようになった。


「博士論文執筆も進路も、不安で一杯の方が多いと思います。振り返ってこそ言えることではありますが、その都度その都度精一杯何かをしていれば何らかの形になります。そして、常に人間関係を大切にし、関係性を継続する努力を心がければ、応援してくださる方から研究を続ける力をいただけると思います。」最後に、院生の皆さんに暖かいメッセージを頂いた。
  • 2011年2月4日(金) 13:00~14:00 衣笠キャンパスにて
  • 聞き手:櫻井浩子
  • 文:櫻井浩子

プロフィール

2006年3月 立命館大学大学院社会学研究科博士課程前期課程修了
2010年3月 立命館大学大学院社会学研究科博士課程後期課程応用社会学専攻修了、博士(社会学)
2010年7月~ NPO法人子どもの虐待防止ネットワーク・しが
「子どものための『児童虐待防止』学習資材作成事業」(滋賀県委託事業)担当

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