小林 久人

「後期課程で学んだスキルを活かして、自分のやりたいことを実現してほしい」

小林 久人

小林 久人

理工系の修了生インタビュー第一弾として、1995年3月に本学理工学研究科博士課程後期課程を修了され、現在は東洋紡績株式会社でご活躍中の小林久人さんにお話をうかがった。

小林さんは学生時代、有機機能化学研究室に所属し、中村尚武先生の下で長鎖状化合物の構造物性に関する研究をされていた。後期課程に進学されたきっかけは中村先生からの勧め。卒業研究や修士課程での研究をさらに進めたいというご自身の思いもあり、進学を決められたという。進学されたときから、アカデミックな世界ではなく、「具体的な製品開発を通じて社会に貢献したい」との考えから、民間企業に就職しようという思いがあったそうだ。後期課程進学時のキャリアに対する考え方について、「アカデミックに進むか、民間企業に進むかは早めに決めておいたほうがよいと思います」とアドバイスいただいた。博士に限らず、就職が厳しい時代である。後期課程は研究が忙しく、自分のキャリアについてじっくり考える時間を取りにくいであろうが、早い段階からしっかり考えておいたほうがよいだろう。

小林さんは後期課程修了後、東洋紡績株式会社に就職された。最初に取り組まれたのは繊維研究所での合成繊維の研究で、これまでの製品の問題点を解決し、改良する仕事である。学生時代とは違うテーマの研究だが、「上司からの指導と自分で勉強することでマスターしていきました」とのこと。東洋紡績株式会社では、研究のトレーニングは集合教育ではなく、OJTで実施されている。OJTは就職してから10年くらい続き、その間は担当の上司の下で研究を進めていくそうだ。小林さんは繊維やフィルム等、高分子の成形加工に関する研究開発を担当され、テーマリーダー、グループリーダーとマネジメントする立場に進まれた。学生時代の研究活動において、企業で役立つマネジメントスキルを学ぶことはできるのだろうか?小林さんは、「マネジメントは対象があってのもので、経験も必要だと思います。ただ、学生時代にもご本人の捉え方が重要と思いますが、自身の研究テーマの推進を通じて、あるいはこれを進める上での先生方や他の研究者とのコミュニケーション、さらには後輩の指導などを通じて、広い意味でマネジメントについての考え方は学べると思います」とおっしゃっていた。

大学での研究と企業での研究の違いについてもうかがってみた。「大学では新しい現象を発見し、これらの発見を体系的にまとめていくことが重要と考えます。最近は幾分変わってきてはいると思いますが、経済性はあまり問題視されないでしょう。一方、企業での研究は利益につながる具体的成果が求められ、研究期間も決められています。ここが大きな違いだと思います」とのこと。また、「研究の進め方自体はどちらも共通しています。基礎研究に携わる人も、企業の研究に対する考え方は頭に入れておいたほうがよいと思います」ともおっしゃっていた。

後期課程で研究以外に取り組んでおくべきことについてたずねると、2点挙げられた。ひとつ目は「語学」。グローバル化する社会の中で、研究者にとってもやはり語学力は欠かすことができない。もうひとつは「他人の仕事に興味を持つこと」である。小林さんが在学されていた頃は、専攻の人数も少なく、研究室間のつながりが深かったそうだ。違う分野の研究についてお互いに興味を持ち、語り合うことがいい経験だったという。民間企業への就職を考えた場合、自分の専門分野をそのまま続けられるとは限らない。むしろそうではないケースがほとんどだろう。「専門分野への強いこだわり」が、企業が博士号取得者の採用を敬遠する一因であるという意見も聞かれる。自分の視野を広く持ち、専門分野以外にも興味を持てることは、強みというより基礎的な力なのかもしれない。現在は大学院の規模が大きくなったこともあり、残念ながら同じ専攻であっても隣の研究室については分からないというケースも少なくない。「いろんな分野の大学院生が集まるコミュニティーなどあれば、ぜひ積極的に参加してほしい」というアドバイスをいただいた。

後期課程の3年間は自分の研究に専念し集中できる貴重な3年間である。小林さんのお話から、専門分野の研究を通じてどのような力をつけておくべきかを意識し、それらを身につける努力をすることの重要さが伝わってきた。

自分がやりたいことを持っておくことは大事です。どのような世界に行っても、やりたいことは出てきます。後期課程で学んだスキルが活かせるかどうかは本人次第です。社会や周りの責任にせず、ぜひ「自分でやるぞ」という思いをもって、実現してほしいと思います。」最後に後輩たちへの温かいメッセージをいただいた。
  • 2011年10月26日(水) 10:00~11:30 BKCにて
  • 聞き手・文:松村初

プロフィール

1995年3月 立命館大学大学院理工学研究科応用化学専攻博士課程後期課程修了、博士(工学)
1995年4月 東洋紡績株式会社に入社 総合研究所 勤務
2007年4月 〜 現在 同社 事業開発企画室 勤務

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