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2017年度 立命館西園寺塾 5月20日講義「平安貴族と宮廷文化」を実施

2017年5月20日(土)
 ・13:00~14:50 講義
          講師:東京大学 教授
                     田島 公
 ・15:00~15:20 グループワーク
 ・15:20~17:00 ディスカッション


【指定文献】
 『近衞家名宝からたどる宮廷文化史―陽明文庫が伝える千年のみやび』
                     田島公 他【著】笠間書院
 『文庫論』田島公【著】岩波講座 日本歴史 第22巻 岩波書店(抜刷)
 『週刊朝日百科 新発見! 日本の歴史 15号 平安3 天皇と平安貴族の24時間365日』
                               朝日新聞出版社

 

▼受講した塾生のレポート(A.M.さん)▼
 現代の民主主義・資本主義社会において、これらの歴史・史実をどのように位置付け、文書保存・解析にかかる費用を正当化すべきか、という疑問について、分類学の考え方が一つのヒントになった。
明らかになった史実は、主として次の3つの点で(能動的な)活用が可能であろう。
 ①歴史的な経験則、古代の知恵の承継と現代社会での活用(地域の伝承など)
 ②民族帰属意識・アイデンティティの醸成
 ③史実に基づく対外的な広報活動への活用(観光業など)
 *このほか、受動的な活用として、他国・他民族による自国・自民族の歴史的背景や価値観の理解・受容を促す、という側面もある。

 「分類学」や「目録学」では、歴史的な背景や当時の関係者の考え方を知るうえでは、文献に記載される史実そのもののみならず、その文献のセット(分類)も大変重要であるということ、これらが物納など引き渡しが行われる際に、関係者によって全く異なる分類に基づき再整理され、歴史家の批判を受けた事実を知った。一方で、これが物納された当時の関係者の価値観に基づき再分類された、と考えてみれば、能動的に分類の切り口を変えてみることで、新たな「価値化」ができるのではないか、という思いに至った。例えば、上述①で示した「歴史的な経験則」として伝承される「知」を活用する上では、例えば、苦境に陥った際の人々の心理や行動、主導者による打ち手の成否などに関連した史実が注目されることが想定される。
 また、上述②で示した民族の帰属意識を高めるうえでは、自民族の過去の栄華や承継されてきた価値観に焦点が当てられるシーンが想定される。
 ③の外国人に対するインバウンド情宣にあたっては、より近隣外国との繋がりが深い史実を全面に打ち出すなど、彼らの時代背景認識との関係性を結びつけることで親近感を覚えてもらうことが効果的かもしれない。
 こうして、多くの先生方の膨大な努力により分析・蓄積されてきた史実は、その切り口を変えることで、様々な局面で異なった「価値」を生み出すことができるのではないかと考える。その際に肝となるのが、アーカイブされた膨大且つ貴重な史実を使い道(価値観)に応じて如何に引き出し易くするか、ということであり、これこそが「分類学」の一つの重要性でなないか、と思った。
 上述のような用途に応じたユーザーへの訴求力を高め、新たに生み出し得る「価値」を「見える化」していくことにより、文書保存・解析にかかる費用の正当化に向けた一助となるのではないかと考える。

 


▼受講した塾生のレポート(M.U.さん)▼
 私たちが商活動を行っていくうえで全く影響のない活動に思える歴史を解き明かしていくという作業の意義はどこにあるのだろうか。
 例えば、企業が社史を編纂することも、直接生産性に寄与しない企業活動のように思われる。しかし、その活動により企業が過去に経験した失敗や輝かしい経験などを従業員が知り、その企業に対するアイデンティティが生まれる。従業員が帰属意識を強めることはその企業のコアとなる部分を創造する作業といえる。そして失敗から得た教訓、誇りを従業員が共有することで、たとえダイバーシティの推進などで異なる文化が企業内で共存しても、企業としてまとまることができる。
 そう考えると、歴史を解き明かしていく作業は、日本の過去を共有し、日本人が国民としてまとまることを促進させる作業といえよう。今回の講義のグループディスカッションで、「自然科学でいう基礎研究にあたる作業ではないか」という意見があり、非常に腑に落ちた。基礎研究は必ずしもビジネスに結びつくものではないが、日本の国力をあげる、ひいては世界文化に寄与する仕事として誰かが担うべき仕事といえるのではないか。
 古文書を研究・データベース化することは膨大な苦労を伴う作業である。しかし、その知識の解法により、私たち日本人はこれまで以上に日本人であることを感じることができる。そこから得る新しい知見は私たちの知る喜びを満たし、縁(ゆかり)のあるところを訪れた際には3次元でなく時間軸もいれた4次元で、ロマンをもってその場所を楽しむことができるなど、私たちの生活を豊かにしてくれる。
 さらにグローバルな視点でみると、その知識の解法は、関係が悪化している中国・韓国といった東アジアとの過去のつながりを得て、歴史を共有することで、東アジアとしてまとまっていくことも可能ではないだろうか。また、各国に日本をさらに深く知っていただく契機にもなり、そのことはビジネスにもいい影響を及ぼすだろう。
 企業に勤めていると、我々の仕事にどういった影響があるのかといった生意気なことをつい考えてしまうが、今回の講義を受け、もはやそういった一企業がどうこうという話ではなく、歴史を解き明かしていくことは、日本の国力をあげる仕事であることを改めて認識することができた。所有者の閉鎖的な保管状況、その原本を保管するのにかかるコスト、分類の問題、社会的になかなか認められづらい環境など、課題が山積していることも今回の講義で知ることができた。しかし、誰かがやらなければならない必要な仕事であり、私たちがそのために何が出来るか、ということも考えていかなければならない。

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