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2017年度 立命館西園寺塾 6月3日講義「トランプ政権と日米関係 緊迫する東アジア情勢」を実施

2017年6月3日(土)
 ・13:00~14:30 講義
          講師:立命館大学国際関係学部特別招聘教授・元外務事務次官
                     薮中 三十二
 ・14:45~17:00 ディスカッション

【指定文献】
 『日本の針路―ヒントは交隣外交の歴史にあり』 薮中三十二【著】岩波書店
 『世界に負けない日本―国家と日本人が今なすべきこと』 薮中三十二【著】PHP新書

 

▼受講した塾生のレポート(K.H.さん)▼
 これまで4回の講義のなかで最も親しみやすい内容であり、世界における日本の位置づけを考えさせられる非常に内容の濃い講義であった。
 ここ最近の世界情勢においては、トランプ大統領就任から目まぐるしく日々いろいろな問題が噴出している。そのようななか、ドイツと日本では、貿易赤字額が同じくらいであり、かつ国防経費のGDP比もたいして変わらないにもかかわらず、メルケル首相と安倍首相の対応によって、トランプ大統領の圧力が変わっているあたりの見解は、新聞を読んでいるだけでは見えてこないところであり興味深く聞くことができた。
 トランプ大統領のアメリカ第一主義実践に対するアメリカ国内世論の状況については大変興味があったが、やはり国民も国内優先であり、「アメリカは世界の警察ではない」といったトランプ氏の発言に賛同していることなど、なぜそうなるのかといった背景含めて説明いただいた内容が特に印象に残っている。
 また東アジア情勢においては、中国の南シナ海における横暴な主張やASEANにおける日本の信頼感の高さを知り、もっとアジアのリーダーであることを自覚した言動が求められていることを改めて認識した。先般行なわれたサミットでのトップ外交では、やはりアメリカと中国の二大国家を中心に世界が動いており、今後の日本の立ち位置を高めるためにも安倍首相のリーダーシップには大いに期待したい。
 グループディスカッションでは、北朝鮮との外交問題での解決策を考えた。問題の背景をしっかり認識しておくこと、さらにはそれに伴う各国の主義主張や思惑などを理解しておくことの必要性を痛感した。我々のグループでは答えまでたどり着けなかったこともあり、各グループの発表を聞いて、なるほどと感心するばかりであった。北朝鮮の核の脅威に晒されている日本にとっては、決して他人事ではなく、自分ごととして捉えなおし、改めて考えてみたいと思う。
 新聞ではこれまで経済面を中心に読んでいたが、今回の講義に向けて指定された藪中先生のご著書を読了して以降、海外情勢や外交に関する記事が興味深く読めるようになった。こういった問題への距離が縮まったと肌で感じることのできた大変有意義なテーマであった。

 


▼受講した塾生のレポート(A.M.さん)▼
 講義前半では、トランプ政権と日米関係、緊迫する東アジア情勢についてのご高話を頂いた。
 世界中が、トランプ大統領の今後の動きに関心を高めつつも、間合いを測りかねていた大統領誕生直後に、他国に先んじて安倍首相が会談を持つなど、積極的なアプローチを展開することにより、瞬く間に安全保障条約5条が尖閣諸島に適用される旨の言質を取るなど、世界で先んじて両国の距離感をグローバル社会に示せた我が国政府の初動は、個人的にも見事であったと感じている。
 対比的に他国の初動として、早々にOne China Policyを打ち出しつつ出鼻を挫かれた中国が、経済政策に焦点を切り替え信頼関係構築と協調の路線を模索している点、独メルケル首相が、米国への牽制と対立を全面に出してきている点、シリアに対する「瞬間芸」に対してロシアがこれまでのところ表立った動きを見せていない点など、対米を取り巻く相関図が刷新されつつある状況も興味深く目が離せない。 
 ただし、ホワイトハウスの布陣が固まっていない現時点において、トランプ大統領からは一貫性に欠く言動が散見されている点にも留意する必要がある。その一例が先のOne China Policyに関連した中国とのやり取りであり、一度は同政策に同調したトランプ大統領が、台湾総統とコンタクトした際には「level playing field」を主張し正当化を試みている点などを見ても、当初より熟慮された戦略的な対応であったとは考えにくい。
 こうした中では、現時点の主要国との関係相関図も、今後、些細なきっかけで瞬く間に翻る可能性も十分にあり、当面の間は、対米関係の行方はいずれも余談を許さない。
 特に初動に成功した我が国としては、山積する二国間の課題解決は急ぐことなく、両国にメリットがあるアジェンダをチェリーピックしながら、合意と協調の実績を積み上げていくことで、当面は現在の距離感を保つことが良いように思う。
 同時に、従来は、強力な日米同盟を前提として、中国・ロシア・北朝鮮など周辺諸国に対する政策が検討されてきたが、今後はより自律的に、これらに対処していく必要性があると感じた。
 私は外交の専門家ではないが、一国民としての目線から愚見を述べると、今後米国トランプ政権との間では遠からず、コンフリクトが生じるアジェンダを議論せざるを得ない局面が想定される。そこで米国に迎合することなく、一定の緊張感をもって議論に臨むためにも、中国との距離感を縮めておくことで、3国間での牽制関係が働くようにしてはどうかと考える。日中関係は、経済・技術面で既に相当な相互依存の関係にある。政策面でも中国は、これまでの日本の経済政策や金融システムの成否などを研究し、教訓としている面もある。安全保障の面では韓国の存在により直接的なコンフリクトが生じ易い状況にはない。このように、協調路線をとったとしても、両国に然したるデメリットは想定されない。とすれば、両国政府が、それが実質的ならず、表面的なものであったとしても、緊密関係を打ち出すことができれば、相互の国民感情の融和が促進され、より一層の協調関係が生まれるはずである。両国の関係性が緊密化していることを世界に打ち出すことができれば、対米関係における一定の牽制として機能し、また協調分野の拡大や我が国のプレゼンス向上にも資するのではないか。
 他方、ロシアについては、米ロ関係の距離感が見出しきれない状況にもあり、また現実的には、短期間での北方4島の完全決着も容易ではないと考えられる中、昨今の安倍政権によるロシアに対する接近は、十分な効果・メリットが期待できるとは思い難く、むしろその後の日米関係の不確実性を高めるファクターにもなりかねないのではないかと危惧する。少なくとも当面は、米ロ関係の着地点を見極めた上で対ロ関係の深追い是非を検討すべきであり、タイミングがそれを許さない場合には、4島問題については相互の主張が異なる点を共通認識とした上で、平和条約の締結を優先し、それ以上の深入りを求められる可能性のある議論については、一旦、クローズしておく方がよいのではないかと考える。


 

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