立命館慶祥中学校・高等学校

RITSUMEIKAN KEISHO JUNIOR & SENIOR HIGH SCHOOL

立命館慶祥中学校・高等学校

「ジブンゴト化」力を
伸ばす教育で
SDGsの達成に貢献する

01 SDGsを教育に取り入れて
「世界に通用する18歳」を育成

 立命館慶祥中学校・高等学校は開校以来、「世界に通用する18歳」の育成を教育理念として掲げている。今の時代において、それはどのような人物像を指すのか。「自分のことだけを考えるのではなく、自分の身の回りや、世界で起こっている困り事などに目を向け、さまざまな物事を自分事として捉えられる人。それこそが、『世界に通用する18歳』といえるでしょう」と話すのは、本校の岩倉衣梨奈教諭。岩倉教諭は問題を「ジブンゴト化」できる生徒を育むためにSDGsが活用できると考え、教育にSDGsを取り入れてきた。「SDGsは17のゴールがわかりやすく見える化されているので、問題を整理するときにとても役立ちます。あらゆる物事を一つひとつのゴールとひも付けて考えることで、世界と自分がどのように関係しているのか、自分はどのような分野に興味があるのかといった気づきが得られます。それが『ジブンゴト化』する力へとつながっていくのです」

岩倉 衣梨奈
立命館慶祥高校 教諭

02 課題の解決能⼒・態度を養う
独⾃の授業を実施

 ⾼校ではGA(Global Awareness)という授業が展開されている。国際的な視点で物事を捉え、課題を解決する能⼒を養うことを⽬的としたものだ。複数教科の教員が担当を務め、それぞれが多様なテーマについて5時間完結型で進めていく。

 岩倉教諭はこのGAで、SDGsのゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」への理解を促進するため、「⾝近なジェンダー問題を考える」をテーマに授業を⾏った。1時間⽬はまず「SDGsとは何か」の説明からスタート。その後、幼児期にした遊びや好きだった⾊など、それまでの⾃分の⽣活を振り返るとともに、ジェンダーに関するCMを⾒て、⾝の回りに存在するジェンダー問題について少しずつ認識を深めていく。2時間⽬には、⼦どもが⾒る映画・物語・昔話などで「ジェンダーバイアス」がかかっていると思うものを、その理由とともに挙げていき、⽣徒間で意⾒を共有する。3時間⽬・4時間⽬には、⼥性キャラクターが主役のアニメ映画を視聴。ストーリーの中で、ジェンダーバイアスがかかっている部分とジェンダーバイアスを乗り越えている部分を探すという課題に取り組む。5時間⽬には最終課題として「プリンセス物語のリライト」に挑戦。⽣徒各⾃がテーマとするプリンセス物語を選び、ジェンダーの切り⼝で物語を⾒つめなおしてストーリーを書き変え、スライド資料にまとめた。

 この授業を受けたある⽣徒からは、次のような感想が寄せられた。「これまでもずっとジェンダーやSDGsについて考えてきたが、こんなにも⾝近な映画からも問題点を⾒いだせたことから、私たちがジェンダー問題に違和感を抱くのは簡単なことではなくなってしまっていると感じた。⼀⼈の⾼校⽣としてできることに限界はあるが、普段の⾔動でジェンダー不平等を連想させる発⾔をしないように意識するなど、⾝近な⼈との間での格差や区別をなくすことはできるのではないかと考えた」。授業名にAwareness(気づき)とあるように、GAは多くの⽣徒に⼤切な気づきを与えている。

03 各教科の授業にSDGsを導入
多面的な視点を養う

 校内では、各教科の授業をSDGsとリンクさせていく動きが広がりつつある。一例として岩倉教諭が担当する国語科の授業では、教材となる文章を読み、その内容がSDGsの何番目のゴールと関連しているかを考えるといった課題を出している。「文章のテーマは文化や言語、ジェンダーなどさまざまです。多くの生徒が同じ番号を挙げる場合もあれば、生徒によって意見が異なる場合もあります。自分なりの視点を持ち、しっかり考えてくれていると感じますね」と岩倉教諭。現在はまだ各教科の教員が独自の取り組みを試行している段階だ。各教科で同時期に同じゴールを取り上げるなど、教員間の連携を強化していくことが今後の目標となる。「1つのゴールを各教科の視点から学ぶことによって、多面的な視点が養われます。生徒にとっては『国語の授業で習った内容が英語や社会にもつながるんだ』といった発見の喜びもあるでしょう。中学・高校のうちに教科を横断する学習を経験しておくことは、探究的な学びが中心になる大学においても大きな力となるはずです」

04 世界が抱える課題を
肌身で感じる

 SDGsの活用は各教科の授業だけにとどまらず、ホームルームや学校行事への展開も計画中だ。例えば高校の第1学年のイベント、夕張の課題について解決策を考える「夕張研修」でもSDGsを参考にして地域課題にアプローチすることを目指す。そして、高校の第2学年になると海外研修が実施される。本校の国際教育を特徴づける重要な教育プログラムだ。「この研修では、生徒自身が自らの考えや問題意識の観点からコースを選択。訪問先では、その地域がどのような課題を抱えているのか、また、どのように問題を解決しているのかを自分の目で確かめます。2020年度から、このプログラムにSDGsの視点を盛り込んでいこうとしています。生徒一人ひとりが自身の探究したいテーマ、関連するSDGsのゴールを決めて各国に足を運ぶ。そして、現地で見聞きした物事をSDGsと対応させながら理解していく。そうすることで、より洞察が深まるのではと期待しています」と岩倉教諭は話す。「SDGsという共通の物差しがあることで、これまでは単体で完結していた海外研修が、教科の授業や夕張研修といった他のプログラムとも結び付いてきます。SDGsによって『点』が『線』になり、より多くの学びが得られるようになると考えています」

 この海外研修は、生徒に大きな成長や変化をもたらしている。「これまでに参加した生徒を見ていると、現地の方と交流する中で、コミュニケーション能力や共感力が磨かれていると感じます。海外の大学に進学したい、海外の大学で働きたい、と将来の目標を見つめ直す生徒もいますね。ベトナムの孤児院で水頭症の子を目の当たりにして、医者になりたいという気持ちを強くする生徒もいました。この経験がきっかけで、大学に入ってからNPOやボランティアサークルを立ち上げたという話を聞くこともあります」と岩倉教諭。「海外研修に行くと、世界の人たちとつながりが生まれます。見たこともない誰かの課題を解決するために行動を起こすのはなかなか難しいかもしれませんが、実際に会っていればその人を思って動き出せる。海外研修の経験は、世界の問題を『ジブンゴト化』する大きなきっかけになります」

05 SDGsに対する取り組みを
個人から全校へ拡大

 SDGsに関する取り組みの展望について、岩倉教諭は次のように語る。「授業等でSDGsが取り上げられるとともに、学校の配付物や掲示物にSDGsのアイコンが使われることも増え、教員・生徒のSDGsに対する理解度は高まってきています。しかし、まだまだ認知度や理解度は向上の余地があると思います。一部の生徒たちは、学校祭でSDGsのアイコンを掲げてプレゼンテーションを行っていたり、SDGsを絡めた懸賞論文を書いていたりと、積極的にSDGsを理解・発信しようとしている。そうした事例をしっかりと校内で共有し、学校全体としてSDGsに対する意識をさらに高めていきたいです。それが、『ジブンゴト化』力を育む教育のさらなる充実につながると信じています」

東洋経済ACADEMIC 「SDGsに取り組む小・中・高校特集」掲載