立命館守山中学校・高等学校

RITSUMEIKAN MORIYAMA JUNIOR & SENIOR HIGH SCHOOL

立命館守山中学校・高等学校

ボトムアップで広げた
SDGsへの取り組みが
校内のあらゆる活動をつなぎ、
さらなる推進力を生み出す

01 学校が抱える悩みの解決策として始まった
SDGsへの取り組み

 立命館守山中学校・高等学校に「SDGsを学ぶ」という授業はない。あらゆる教科の学びに「浸透」しているからである。

 14年前の創立以降、新しい学校ということでさまざまなことに貪欲にチャレンジしてきた。しかし、それらの多様な取り組みがお互いにひも付いておらず、体系的になっていないことが、校内で課題になっていた。「教職員たちが抱える悩みを打破する鍵になるのではないかと考えたのが、SDGsでした」。本校でSDGsへの取り組みを牽引する田辺記子教諭は語る。「中学・高校では教科間の壁が厚く、他の教科では何を教えているかわからないということが問題だと感じていました。幅広い分野を目標に掲げるSDGsは、全教科をつなぐ横串になると考えたのがきっかけです」。最初に行ったのは、教員への啓発だった。インターネット上で公開されている資料や教材の共有から始め、外部のセミナー情報の発信や校内の教員向けワークショップを開催。まず「教える側」にSDGsを浸透させ、理解を深めた。「トップダウンで指示されるのではなく、ボトムアップだったのがよかった。 3人程度の小さなグループから情報共有を始め、輪を徐々に広げていきました。『やりたい』と思った教員から自発的に始めたことが、校内に自然と広がった理由です」と田辺教諭は振り返る。

02 教科間の学びを接続する
橋渡し役を担うSDGs

 教員への意識づけと並行して、授業への導入も行った。最初は授業内容とひも付けてSDGsの目標を紹介することから始めた。そこには田辺教諭の思いが込められている。「SDGsありきで考えてほしくなかったのです。SDGsのための授業をするのではなく、授業の内容とSDGsが自然にリンクし、他の教科での学びともつながるという流れをつくっています。例えば、英語で扱う『国境なき医師団』というトピックに『SDG10:人や国の不平等をなくそう』のアイコンを付けたとします。世界史で学ぶアメリカの独立宣言や、保健体育で学ぶ高齢者の福祉などの内容にもSDG10のアイコンが付いていると、これらはひも付けて考えられる問題だということが、視覚的にもわかりやすくなります。SDGsを通して、全ての学びが横断的になることを狙いました」。授業でSDGsを扱った教員は報告書を作り、校内で共有。取り入れ方がわからないと悩む教員は、校内事例をヒントに自らの授業での取り組み方を考える。この報告書は「SDGs+R」という冊子としてまとめられ、今も継続されている。

 アイコンを付けるだけでなく、全教科での学びを探究活動として結実させる「グローバルAP」という授業も今年度から新たにスタートした。学校法人立命館のSDGs推進本部と連携した、高大接続プログラムである。担当教員は複数教科から選ばれ、分野の枠を超えた学びが展開される。生徒たちは日々の授業で扱うテーマを手がかりに、身の回りにある疑問を取り上げ、解決策を模索する。この授業では、SDGsが身近な問題と学校での学びの橋渡し役を担っている。どの教科の教員であっても本授業を担当できるようになり、生徒たちの考えの幅をさらに広げることが今後の課題だと田辺教諭は語る。

03 「社会に貢献したい」
生徒の思いを実現する課外活動

 課外活動でも生徒たちは気を吐いている。有志が集うユネスコ委員会がその例だ。 2012年のユネスコスクール認定とともに発足し、以来8年間活動を続けている。「世の中には問題が山積している。自分も何か行動を起こしたいが、何をすればいいのかわからない」。そんな思いを抱えた生徒たちが集まり、JICA等が主催する外部ワークショップへ参加。そこで身に付けた知見を生かして学外コンテストに参加し、さまざまな提案を行っている。活動を見守る田辺教諭は語る。「本活動は、まるで子供が補助輪のない自転車に初めて乗る時のようなもの。考えるきっかけは私たち教員が提供します。途中、悩んだりつまずいたりしながら徐々に取り組みの方向性が見えてきます。そうなると、あとは一人で走るだけ。生徒たちは自由に考えや活動の幅を広げていきます」

 そういった活動の中で、通常の学校生活では出会うことができない、多様な人々との交流が良い刺激になっているという。他者から自分たちの取り組みが評価されることで、生徒たちに自信も芽生えさせているようだ。「こういった活動を続けていると『コンテストで選ばれること』が目的になってしまいがちです。生徒たちには折に触れて、課題に挑戦する中で多くの人に出会ったり、新たな知識を得たりすることが大事だと伝えています」と田辺教諭。

04 生徒の持つ「社会を変える力」を
目覚めさせることが使命

 中学・高校生がSDGsについて考える意義は何なのかという問いに対して、田辺教諭はこう語る。「生徒は、自分たちが単に2030年を『生きる人』ではなく、『創る人』であることを意識しなければなりません。『自分の強みは、将来社会でどのように生かせるのか』を考え、試行錯誤しながらも、今できることを行動に移してほしいと願っています。また、生徒たちには若者だからこそ持つ『大人を変える力』を発揮してほしいという思いもあります。我々にはない素直さと柔軟さを生かしたアイデアが、大人たちの資金力を含めた実現力と組み合わさることで社会が変わると信じています。そういったチャンスを生徒たちに提供することが本校の使命だと考えています」

田辺 記子
立命館守山高校 教諭

The Next Move of RITSUMORI

既存の課外活動をSDGsが繋ぐ。
文理の枠を超えた切磋琢磨が
新たな思考の広がりを生み出す
“インパクト・ゼミ”

新たな風を吹き込み、生徒たちを活性化させる「文理融合」を課外活動で実現

 高校生ならではの視点を活かして、様々な社会問題の解決に挑むユネスコ委員会。ロボット工学や生物化学を学び、自らの興味・関心を追求するサイテック部。別々に活動していたこれらの課外活動を結び付け、文系・理系の垣根を越えた活動を行うべく生まれたのがインパクト・ゼミだ。生徒たちの思考の幅を広げることが狙いだと、仕掛人の田辺教諭は語る。「ユネスコ委員会の活動を続ける中で、文系の生徒が多いことが気にかかっていました。どうしても考え方が似通ってしまうという状況の突破口としてとった手段がサイテック部との文理融合。それぞれ考え方が異なる生徒たちが互いを補い、刺激し合うことでチームとしての力が高まっています」

ユニークなアイデアと行動力で活性化するインパクト・ゼミ。コロナ禍という逆境をチャンスに新たな取り組みに挑む

 インパクト・ゼミに所属する「チームGENIE」が初めて挑んだのが、日本最大級の高校生を対象としたビジネスアイデアコンテスト「キャリア甲子園」だった。地球上から全ての交通事故を無くすというアイデア「ANSHIN」でエントリー。既存の電柱に赤外線カメラやセンサーを設置し、交通に関するビッグデータを収集させる。集めたデータを自動運転システム及びアプリと連動し、事故を回避するというシステムだ。文系メンバーの持つ現代社会における課題意識と、理系メンバーの持つ技術の知識を掛け合わせた斬新なアイデアは全1090チームを勝ち抜き、ファイナリスト7チームの1つに選ばれた。ところが、決勝に向けて準備を進める生徒たちをコロナ禍が襲う。感染拡大防止のため、大会が中止になったのだ。目標としてきた舞台に立つことができない悔しさが、彼らを更なる挑戦へと後押しする。それが、コロナ禍を乗り越えるための高校生主体のイベント「ビヨンド・コロナ・コンテスト」だ。パンデミックによる自粛の中で、できることや新たに得た学びを全国の中高生が発信するオンラインコンテストを企画・主催した。自粛期間というまとまった時間ができたことを逆手に取り、新たなことへ挑戦する「チャレンジ」部門。経済活動の停滞によって生じる食品ロスの削減への貢献を目標とし、コロナ禍の影響で余剰が生じた食材を使った料理を競う「ゴハン」部門。そして、コロナウイルスによって苦しむ医療従事者や感染者などを応援しようという「オウエン」部門。3つの部門に寄せられた多くのエントリーからグランプリを選び、オンラインでの表彰式も全てGENIEのメンバーが行った。主催メンバーの一人は「このコンテストが、コロナ禍でインターハイや文化祭、海外研修など様々な機会を奪われた日本全国の中高生の学びや挑戦のきっかけになってほしい」と語る。

SDGsLink

中高生ならではの目線を活かす。身近な人々をSDGs達成へと巻き込む新たな挑戦「SDGsLink」

 様々な活動を行うインパクト・ゼミだが、SDGs実現を目指した取り組みも活発だ。関西SDGsユースアイデアコンテストにエントリーした「SDGsLink」というアイデアには、高校生の自分たちが社会を動かしたいという熱い思いが込められている。「SDGsをジブンゴトに」というテーマを掲げ、「生徒をSDGs貢献にLinkさせる仕組み」を考案。立命館学園内の生協と協力し、時間によって食品の販売価格を変動させるダイナミックプライシングの導入を提案した。繁忙時間帯である昼休みと放課後は商品を定価の5%増しで販売。逆にラッシュ時間外は5%引きとし、消費期限間近の商品は10%引きで販売するというこの仕組み。収益は、生徒たちのSDGs達成のためのアクション支援に充てることを想定している。ダイナミックプライシングの活用によって、食品ロスの削減というSDGs達成への一歩に無意識に巻き込むことから始め、SDGsへの関心を高めるのが狙いだ。「同年代を活動に巻き込みたい」という思いに、ダイナミックプライシングという方法を結びつけることができたのは、生徒たちの間にこれまでにない化学反応が起きたからだろう。本アイデアは一般投票で多くの票を獲得し、オーディエンス賞の準グランプリに輝いている。

インパクト・ゼミは学校全体での文理融合の第一歩。枠組みにとらわれない人材の育成を目指す

 田辺教諭は今後の展望をこう語る。「SDGsを達成し、持続可能性を実現するためには文系や理系などの枠組みにとらわれないマクロな視点が必要です。とは言え、授業を急に文理融合に切り替えるには、カリキュラムの調整等負担が大きい。まずは課外活動を、文理融合のメリットを具体的に示すことができるロールモデルとしたいです。成果を可視化することで、学校全体が文理融合へと舵を切ることができるのではないかと考えています。インパクト・ゼミはその第一歩です。」SDGs達成を実現する人材を育成する立命館守山の挑戦は続く。

東洋経済ACADEMIC 「SDGsに取り組む小・中・高校特集」掲載