立命館中学校・高等学校

Ritsumeikan Junior & Senior High School

立命館中学校・高等学校

世界の課題を自分事と
捉えられる若者を育成し
未来の社会をよりよいものへと
変えていく

01 SDGsに欠かせない
「考え方」を養う教育

 立命館中学校・高等学校は、文部科学省の「平成26年度スーパーグローバルハイスクール(SGH)事業」指定校だ。SDGsが国連で採択されるより前の2014年から、SGH事業の中で世界的な課題について考える教育を展開してきた。

 「SDGsが全世界で取り組むべき目標として明示されたことで、生徒たちの意識が変わりました。これまで自分たちには関係ないと思われていた問題が実は複雑に絡み合った地球全体の問題で、だからこそみんなで取り組まないといけないと、理解してくれるようになりました」

 そう語るのはGlobal Learning(GL)コースを担当する、英語科の中西美佐教諭。17のゴールとして明確に可視化された分、中高生にも浸透しやすくなったと言う。

左:中西 美佐(立命館高校 教諭)
右:神野 哲次(立命館高校 教諭)

 中西教諭の授業では、通常の教材以外に最新の世界情勢に関する英文記事を扱い、積極的に生徒たちがディスカッションする場を設けている。

 「生徒たちは、いつも『もっと知りたい!』と反応してくれます。英語力はもちろん、世界が抱える課題に対して自分の考えを持ち、仲間と協働する力を養ってほしい。そう考えると、扱うテーマも自然とSDGsに関連するものになりました」

 英語科以外にも、生徒たちがSDGsを考えるヒントとなる授業がある。例えば、神野哲次教諭による社会科の授業では「人の行動を変えるにはどうしたらいいのか」を考える。その狙いについて、神野教諭は次のように話す。

 「SDGsに対する考え方は、どうしても『教育格差はよくない』『プラスチックゴミを減らしましょう』といった優等生的な意見にまとまってしまいがち。しかし、『なぜ社会は変わらないのか』というもっと生な部分に向き合わないと、いつまでたっても課題を解決できません。生徒たちが周りを巻き込むための考え方を教えるよう意識しています」

 授業では、行動経済学や社会学的・哲学的なアプローチ方法などを、具体例を用いて解説する。行動に移すための手がかりをつかんだ生徒たちは、将来社会を巻き込みながら、SDGsを体現する大人になるだろう。

02 学びとリンクした体験で
世界の問題が自分事になる

 GLコースでは、授業だけでなく、さまざまな年間行事を通して社会課題への理解を深める。

 「大事なのは、授業やイベントだけで完結せず、それらを関連づけること」と話す中西教諭。生徒たちのモチベーションを一時的なもので終わらせないためには、授業間の連携や授業と行事の関連性が必要だと考えているのだ。

 2019年度の海外研修の行き先は、プラスチックゴミ問題などの課題を抱えるバリ島。その事前・事後学習として「プラスチックゴミ」をテーマに教科横断型授業を実施した。また、環境先進国スウェーデンでの研修や、全国でも早くからレジ袋の廃止に取り組んでいる亀岡市への訪問なども行った。

 海外研修や国内研修などを経て、授業で学んだ社会的な課題は、遠い世界の出来事ではなく自分に関わりのある現実的なものになる。その結果、日々の生活の中で自分たちができることを考える習慣が生まれていく。実際に、研修を終えた生徒たちからは「学校の食品廃棄を堆肥として活用できないか」「文化祭で大量のゴミが出てしまうのはエコと言えるのか」という意見が自然と出てくるようになった。

03 授業や研修での学びはやがて
社会を巻き込むアクションへ

 生徒たちの1年間の学習の集大成とも言える行事が、2014年度から毎年秋に開催している「RSGF(Rits Super Global Forum)」だ。海外の高校生を招いて、世界的な課題について約1週間ディスカッションするという取り組みで、事前準備やテーマ設定、期間中の海外生のおもてなしなど、すべて生徒主体で行う。第6回を迎える2019年度は11カ国・地域から14校の生徒が参加した。

 これまでテーマに選ばれたのは、難民問題や貧困問題、環境問題など年によってさまざまだ。生徒たちは、授業や研修での学びを総動員して、世界各国の高校生たちと、地球の未来について話し合う。

 RSGFで協議されたことは毎年さまざまなアクションへと実を結んでいる。例えば、2018年度はキャンパス内でのポスター掲示、PV制作を通じて全校生徒に向けた普及活動を実施。コースの特性上、SDGsに触れる機会が豊富なGLコースの生徒たちが、「学校全体を巻き込みたい」と自らの学びを発信し、よりよい社会実現への行動を全校生徒に呼びかけた。

 また、2019年度はバリ研修での交流をきっかけに、ワイゼン姉妹が創設した、プラスチックゴミ廃止を目指す世界的な環境活動団体「Bye Bye Plastic Bags」の京都支部として活動を開始。卒業した現在もSNSを通じて若者への発信を続けている。

 「私たち教員の役目は、生徒たちの“やりたい”を尊重して、形にする最初の一歩を後押しすること。立命館の他の附属校や海外協定校、企業、地域社会などいろいろなステークホルダーとも連携しながら、取り組みを広げていきたいですね」

04 SDGsを学んだ若者たちが
持続可能な社会を創る

 世界の課題を自分事として捉えられるようになった生徒たちは、卒業後もそれぞれの新天地で周りを巻き込みながら挑戦を続けている。一人ひとりにできることは小さくても、それが集まれば世界を変える可能性を持つ。

 「中等教育段階での原体験や、難しい問いに向き合ったり、多様な仲間と対話・協働したりする経験は、将来社会を担っていくうえで大きな糧となるはずです。SDGsの学習を生かして、世界を1ミリ動かすchange makersになってほしい」と中西教諭は期待を込める。ものの見方や考え方を広げ、自分自身の生き方を見つめさせる。子どもたちの意欲や行動を引き出す教育が、やがて持続可能な社会の実現に大きく貢献していくこととなるだろう。

05 コロナ禍におけるRSGF
~オンライン国際フォーラムへの挑戦

 2020年春、新型コロナウイルスの流行によって、全国の小中学校・高等学校は一時的に休校へと追い込まれた。立命館中学校・高等学校も例外ではなく、4月からの約1カ月が臨時休校に。子どもたちの学びを止めないために、ICTやオンラインを活用した教育が進められた。「生徒たちの適応力には驚きました。いち早くツールの使い方を吸収して、教員よりも使いこなしていましたね」と中西教諭は振り返る。

 中でも、大きく変わったのが国際交流だ。海外渡航が簡単にできない状況下で、海外研修や講演会参加はオンラインへ切り替え。いかに充実した学びとするか、いかに体験を実感してもらうかが課題となった。

 2020年度のRSGFもオンライン開催が決定。昨年度参加校に加え、より多くの参加者や新たな海外校が参加を希望し、前回の2倍以上の約150人の海外の高校生が参加することとなった。例年は海外生と生活を共にしながらSDGsについて語り合う5日間の濃密なプログラムだが、期間を延ばし、事前事後学習を含めた国際交流ができるよう工夫がなされた。

 「時差の問題があるので、限られた時間の中での交流となりましたが、例年以上の参加数と聞いて生徒たちはとても張り切っていました。今年のスローガンは“Be Proactive!”。コロナ禍をネガティブに捉えるのではなく、今ある環境を生かして何ができるか、自分から動いて考えようという思いが込められています。『こんなツールがあるよ』と私たちがヒントを与えると、その活用法や交流の仕方を自分たちで考えていました」

 事前学習として、生徒たちはSDGsと新型コロナウイルスを関連付けて考察し、動画を作成。オンライン掲示板上で、海外の高校生たちに意見を募った。「生徒たちの考察はとても面白く、示唆に富んだものでした。コロナ禍を経験して得た気づきが多くあったのだと思います。まさにピンチはチャンスですね」と中西教諭。生徒たちの柔軟で意欲的な姿勢のおかげもあり、例年とは異なる環境が思わぬ学びの機会をもたらした。

 刻一刻と社会状況が変化していくポストコロナ時代。これからの求められる教育は何だろうか。中西教諭は3つのポイントを挙げる。

 1つ目は、新しい価値観を養う柔軟な教育。予測不可能な時代だからこそ、自由な発想でさまざまな事象を関連付けて課題を解決する力が求められる。

〈生徒たちが作成した事前学習動画〉

4B Economies and Clinical Environment +COVID19

Environment + COVID-19 - Natural Disasters and Climate Change -

 2つ目は、人と人とのつながり方を考えた国際交流。人や物の行き来がなくなって、グローバリゼーションとは何かを改めて考えさせられた。対面でしか得られないものの重要性や人と人とのつながり方を再認識することになった。

 そして3つ目は、「誰一人取り残さない」というコンセプトに基づいたSDGs教育。コロナ禍は、それまで見えていなかった人々の差別や偏見を露呈させた。SDGsの根幹にある社会包摂性は、新型コロナのような地球規模の課題に向き合うための重要な考え方となる。

 「若者の持つ可能性には本当に驚かされます。コロナが流行りだした頃は“できない”ことばかりが目に付いたと思いますが、生徒たちは発想の逆転で新しい形のRSGFを作り上げました。この経験はきっと、彼らの自信と成長につながり、ニューノーマル時代の新しい挑戦を自ら開拓していく大人へと成長すると確信しています」

東洋経済ACADEMIC 「SDGsに取り組む小・中・高校特集」掲載