せん断応力下での核生成速度:アイソタクチックポリプロピレンとポリ乳酸について

 

                       立命大理工 河口 昭義、祐谷 大輔、菊池 敏則、岩井 義孝

 

緒言 高分子の加工においては、核剤の添加による結晶化の促進と並んで、せん断あるいは伸張流動の下での結晶化が重要な研究課題である。結晶化は核生成速度と成長速度が大きく関係しており、2つの因子の中、ここでは前者がせん断流動でどのように影響を受けるかを研究した。

実験 温度制御ができる銅のブロックに2枚のガラス板を置き、上側のガラス板がスライドできるようにして、その間に高分子融液を挟んで上のガラス板を滑らせて融液にせん断応力が発生するような装置を作製した。ガラス板が動いている間、CCDカメラで核の発生する様子をコンピュータに記録し、後で解析できる仕様になっている。

結果と考察 図1は、CCDカメラで記録した、せん断応力懸かっている下で核の発生する様子を記録した一連の光学顕微鏡写真を示す。時間とともに核の数が増えて行く様子がわかる。図2には、140℃でせん断速度を変えて、上のような測定を行い、時間を横軸にとり核の数が時間とともに増加する様子を図示したものである。S字型の曲線を描いており、誘導時間があって急激に核の数が増加し、頭打ちになっている。この図でdN/dt、すなわち勾配の一定の領域、この領域は定常状態であると考えることができ、この時の勾配をもって核生成速度とした。

  表1には、このような手続で得たアイソタクチックポリプロピレン(iPP)の核生成速度の、等方性融液から結晶化したときの核生成速度に対する比を示した。 表2には、同様な実験をポリ-L-乳酸で行った結果を示す。図2と表1,2から、われわれはせん断応力の下での核生成速度について、次のような重要な結果を得る。

1.せん断速度が大きくなると、核生成速度が急激に増加する。図2の140℃におけるiPPの結晶化を例にとって見ると、絶対値として、等方性融液からの結晶化では3x108 sec-1mol-1であるのに対し、せん断速度が14sec-1になると

3.3x1010 sec-1mol-1に増加する。

2.重要なことは、等方性融液の核生成速度(N0)に対する、あるせん断応力(t)下での核生成速度(Nt)の比を取ると、その比は結晶化温度が高いほど大きいことである。表2に示したPLLAの結果からも分かるように、この高分子の場合にも同様な傾向がある。iPPと比較するとPLLAの方が、せん断応力の効果が大きいことが分かる。

  S.Coppolaらは1)microrheological な観点に立ってモデルを設定し、流動場における自由エネルギ−を計算し核生成速度の問題を議論している。彼らは、Doi-Edwardのモデルを基に計算した方が、古典的なゴム弾性理論で求めた場合より、実験結果をよく説明するとしている。事実、われわれの実験結果も、彼らの理論曲線の延長上にあり、定性的には彼らの理論を支持している。ただ、このモデルからは、結晶化温度が高いほど核生成が著しく促進される、上の実験結果を直感的に理解すること難しい。

  この問題を別の面から考えてみよう。図3に、等方性融液(IM)とせん断応力下での融液(SM)の自由エネルギーの相図を模式的に示した。せん断変形により融液のエントロピーは減少すると予想され、SMの自由エネルギーはIMのそれに比して上側に移動し、しかも勾配(絶対値)は小さくなるであろう。結晶の自由エネルギーは変わるとは考えられないので、図に見るように、結果として平衡融点は上昇しているはずである。

  せん断流動下での融液と平衡にあるときの、結晶の融点上昇を考慮に入れて、古典的な核生成理論を適用すると、融点上昇による核生成速度の変化を模式的に表すと図4のようになる。図4に、2つの結晶化温度、T’ (低温側)、T(高温側)で核生成速度の変化の様子が図示してある。 この図から、高温での結晶化の方が、核生成速度の変化の割合は大きくなっており(矢印で示した)、実験結果を定性的であるが、理解できる。さて、このことを理解した上で、この考え方を上の実験結果に当てはめて見ると、iPPの核生成速度の増加は0.1~0.2の温度上昇で充分説明できる。

  ここで、われわれは、核がガラスの表面に発生しているので、本研究結果が‘流動場における均一核生成’として扱えるかどうかということに注意しておかなければならない。

1)       S.Coppora, N.Grizzuti and P.L. Maffetone, Macromolecules, 2001, 34, 5030-5036