今田教授から

*はじめに
 この研究室では、物質の性質(物性)を理解するために、物質内の電子の状態を解明する研究を行っています。 特に興味を持っているのは、電子のスピン(自転)が関わる物性(磁性や電子相関など)です。いい実験をして、 実験結果に基づいてよく考え、理論の専門家と議論したり自分で理論計算をしたりもして、新しい物理を見出していくことを目指しています。 基礎的な力(勉強でも実験でも)を大切にし、一人ひとりが役割を果たしつつ協力して研究を進めています。

*物質の性質の物理=物性物理と「変わった物質」の魅力
 『物質の性質ってもう全部わかってるんじゃない?』と思うかもしれません。確かに金属と絶縁体の違いとか、熱の伝わり方の違いとか、 いろんなことの一番基礎的なことはずいぶん前にわかっているし、そのあともずいぶんいろんな物質のいろんな性質が実験的にも理論的にも解明されてきました。
しかし、というよりも、だからこそ、変わった(ヘンな)現象を示す物質はよけいに不思議さを増します。 研究が進むにつれて、その現象の仕組みがまだきっちりわかっていないことがはっきりしてくることも多いのです。 今も、新しい物質、新しい現象が、ひとつ、またひとつ、と発見され続けています。 「たった100個程度の元素しかないけれど、その組み合わせは無限にある」ことを改めて思うと、これからも新しい物性物理が生まれてくるに違いありません。

*「役に立つ物質」の魅力
 『役に立つ(立ちそうな)物質』は、上の『変わった(ヘンな)物質』に勝るとも劣らず魅力があります。 『役に立つ』には、何かに役立つような性質(機能)が他の物質より際立っていなくてはなりません。 『なぜそんなに際立っているのか』を解明したいと思うわけです。それが解明できれば、物質を開発するのを手助けできるかもしれないという期待もあります。

*スピン物性とは?
 「スピン物性」と我々が呼んでいるのは、電子のスピンに深く関係している物性です。一番馴染み深そうなのが、 磁石や磁石にくっつく性質(強磁性と呼びます)で、これは物質内の電子のスピンの向きが揃っていることに起因します。 関連する現象をまとめて「磁性」と呼び、スピンの向きが交互に並ぶ反強磁性やそのほかの多様な現象が見られます。
もうひとつの「電子相関」はあまり馴染み深くないと思いますが、様々な変わった物性の宝庫ともいえる分野です。 物質中のたくさんの電子は、お互いに反発力を感じるため、お互いの位置や速さに影響されながら運動しています。 この効果が「電子相関」です。特にこの30年ほどの間に、電子相関が強い物質がたくさんあって、 そのために変わった性質が出てくることが次々とわかってきました。電気を通さなかった絶縁体が、 温度を変えると金属になる「金属絶縁体転移」や、従来は考えられなかったくらい高い温度(100 K 以上)で超伝導になる「高温超伝導体」がその例です。

*どんな実験をするか --- 目指すは世界レベル
 興味深い物質が見つかったとき、私たちは「電子の状態をなるべく直接的な実験で観測する」ことを目指して、 「光電子分光」をはじめとした実験を行います。光電子分光では、アインシュタインが原理を説明した 「光電効果」(物質中の電子が、光子(光の粒)を吸収することでエネルギーが高くなって、物質から飛び出す現象)を用いて、電子が物質中で持っていたエネルギーが求まります。
研究室での実験だけでなく、SRセンターや、さらには学外のSPring-8やUVSORを幅広く使って、充実した世界レベルの研究を展開することを目指しています。

*実験には地道な努力が要る
 我々は「実験家(じっけんか)」ですから、いい実験をすることがとても重要です。いい実験にどうしても必要な条件は、正しい(間違っていない)実験をすることです。 さらに、出来る限り「精度が高い」ことや「様々な条件を変化させて詳細に行う」ことを追求したいと考えます。 そのために、新しい装置を立ち上げたり、既にある装置を改良したりという地道な努力も重要になります。

*基礎学力と、「充実した卒業研究を送るために」
 物性物理の研究をするには、当然、物性物理学(固体物理学)の基礎的な勉強が必要です。 そのためには、量子力学と熱統計力学が必要です。これらの科目を途中であきらめずにがんばって修得してください。 また、卒業研究にしっかり時間をかけられるように、つまり卒研配属されたときにはほとんど授業を取らなくてもよいように、 その前までに多めに単位を取るように心がけましょう。そうすれば、より幅広い物理の素養が身につくので、きっと社会でも役立つはずです。

*卒業後の進路と大学院進学の勧め
 卒業研究につづいて大学院の修士課程まで進むと、「研究力」という意味で成長しますし、 論文を書いて成果も刈り取ることができます。そうすれば、企業で研究の仕事に就くことも夢ではありません(*卒業生の進路)し、 博士後期過程へ進むこともできます。もちろん卒業してすぐに就職する道(*)、教員として活躍する道(*)もあります。

*さいごに
 意欲のある学生さん、物性物理が好きな学生さん、実験が好きな学生さん、装置作りが好きな学生さん、一緒に研究しませんか? ぜひ研究室見学にきてください。歓迎します。
スピン物性分光研究室 今田 真