立命館大学
食マネジメント学部　天野ゼミ

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• 担当教員： 　天 野　耕 二　教授　(Prof. Koji AMANO)
  　
  
• 専門分野： 環境システム分析
  
• テーマ： フード・エコロジー（食と社会の総合的な関わり）
  
  　食をめぐる社会全般の課題は、ただやみくもに「温室効果ガスを減らそう！」「水をきれいにしよう！」「ごみをリサイクルしよう！」という単純な問題ではありません。この地球で人間が生きているかぎり、生きるために食べているかぎり、温室効果ガスは排出されるし、水は汚染されるし、ごみも増えます。また、食のもと（食材）をたどって行くと、全てが自然生態系、地球環境そのものです。
  　大切なのは、どうやってバランスを取っていくのかを考えることです。いろいろな問題について、ライフサイクル（いわば、ゆりかごから墓場まで）全体を考えて評価するライフサイクルアセスメント（ＬＣＡ）という重要な考え方があります。食に関わる地球環境への影響や資源の循環を総合的に評価する仕組みや枠組みが求められているのです。
  　天野ゼミでは、このようなＬＣＡ的な手法を用いて食の総合的な課題解決を目指します。ゼミのテーマは「フード・エコロジー（食と社会の総合的な関わり）」。特定の専門性にとらわれず、必要な学問分野は全て取り込んで、社会や経済の現実をとらえながら文理融合型のデータ分析に取り組んでいます。
  
  ーーーーー2022年度の卒業論文テーマーーーーー
  
• 米からみた環境に優しい食事
• フードバンクの現状・課題と新たな可能性
• 食習慣・生活習慣の変化がもたらした人体への影響
• エシカルな消費意識の醸成に関する研究
• アスリートにおける嗜好品の多様性
• 日本のフードデリバリー市場における各プラットフォームの研究
• 食品ロスから見る新たな食材の可能性
• 外食やテイクアウト商品の食べ残しのなくならない要因
• 官能評価を用いたタバコの嗜好性に関する研究
• マヨネーズに関する嗜好の分析
• withコロナを見据えた飲食産業における従業員満足と顧客満足
• ラグビー選手と食行動
• 食品ロスやその動機・食品消費量から見る今後の食における持続可能性
  
  ーーーーー2021年度の卒業論文テーマーーーーー
  
• 福井県の将来発展可能性についての検討
• 米からみた環境に優しい食事
• ヴィーガン思考が与える地球環境への影響
• アスリートの食事形態によるパフォーマンス及びコンディションの変化
• 間食の摂り方に関する研究
• 人々の食行動が環境に及ぼす影響の分析
• 長期保存食品の食品ロスに関する研究　
• エシカル消費と今後の消費者意識の在り方
• フードバンク活動からみえる福祉・環境問題
• マーケティングによる持続可能な社会の形成
  
  　世界最大の食料輸入国と言われている日本の食システム。食料供給の約60%（熱量ベース）を海外から輸入していることから、長距離輸送によって地球環境に相当の負荷を与えていることが想像されます。食料の輸送過程において排出される二酸化炭素などの温室効果ガスに着目して、現代の食システムが及ぼす環境負荷を分析する試みがいろいろと進められています。
  ガストロノミアのコラム「環境にも健康にもやさしい食を探す旅」
  
  天野ゼミ「食と社会に関わる研究発表一覧」（理工学部（旧）環境システム研究室からこれまで）
  
  
• スパゲティは二酸化炭素排出量が親子丼の2倍？（2004年度立命館大学卒業論文，学内端末限定公開）
  　大学生協食堂における人気メニューを対象として、食料の生産・加工過程および輸送過程における二酸化炭素排出量を推計してみると、ミートソース・スパゲティは親子丼の2倍程度の排出量を示しました。スパゲティの原料であるヨーロッパ産小麦やオリーブオイルの輸入による長距離輸送と、食品加工度の高まりによる多頻度配送が主な要因と思われます。
  　また、食というサービスは「栄養」のサービスと考えることもできます。ふつうの一食分では親子丼のほうがミートソース・スパゲティよりも熱量（カロリー）・タンパク質ともに少し多いため、カロリー当たりやタンパク質当たりの二酸化炭素排出量の差はもう少し大きくなります。食を比べるときには、食べる量そのものだけではなく、食が提供しているサービス（機能）も重要になってきます。
  
  
• 食の消費形態(外食･中食･内食)の違いによる二酸化炭素排出量はこんなに違う？（2005年度立命館大学卒業論文，学内端末限定公開）
  　日本人の食生活は戦後大きく変化し、「豊かな食生活」、そして「便利な食生活」を求めてきました。現代は、同じメニューでも手作りやレトルト食品、外食など、その時の都合に合わせて食の消費形態を選択することができます。それに伴い、「食の外部化」も進んでいます。これら消費形態の違いにより生じる環境負荷（例えば、二酸化炭素排出量）の差異を確認することも大事になってきます。
  　試しに、スパゲティセット（ミートスパゲティ＋サラダ）について、家庭で生鮮食材を調理する『内食』、レストランなどで食事をする『外食』、調理済み食品や少しの調理で食事できる『中食』という３つの消費形態において、�@生産・加工段階�A輸送段階�B調理段階�C廃棄段階に排出される二酸化炭素を算出して合計してみると、中食が内食・外食の1.3〜1.5倍の二酸化炭素排出量となりました。理由としては、中食の場合はレトルトパウチに入ったミートソースとパック詰めサラダをそれぞれ使用していることから「プラスチック容器包装」に伴う排出量が大きいことが考えられます。
  　中食については、ソースを湯せんで温めるか電子レンジで温めるかについても比較を行いましたが、電子レンジを使用したほうが調理（加熱）段階において二酸化炭素排出量を半分程度にまで削減できることが明らかになりました。
  
  
• 温室栽培では3倍近い二酸化炭素排出量？（環境システム研究論文集, Vol.34，pp.245-252, 2006）
  　大根や白菜は冬、トマトは夏が旬とされている野菜です。旬でない時期にもこれらの野菜はいまの日本ではどこでも手に入りますが、温室栽培に伴う光熱動力や肥料等の投入による環境への負荷は小さくありません。トマトについては、夏秋の露地栽培に比べて冬春の温室栽培では3倍近い二酸化炭素排出量になります。
  
  
• ビタミンＣ摂取量あたりの二酸化炭素排出量は、「炒め調理」よりも「ゆで調理」のほうが大きい？（環境システム研究論文集, Vol.35，pp.499-509, 2007）
  　青果物については、調理方法による栄養面でのサービス水準の違いにも注意が必要です。ビタミンＣ摂取量あたりの二酸化炭素排出量を計算してみると、多くの品目で炒め調理と比較して、ゆで調理のときの排出量が大きくなります。これは、ゆで調理の方が調理時間が長いのでエネルギー消費量が多くて、かつビタミンＣ成分のゆで水への溶出分があるためです。
  
  
• 食料と自動車燃料が競合する？（環境システム研究論文集, Vol.36，pp.255-263, 2008）
  　近年、気候変動緩和策やエネルギー自給率向上策として食料資源由来のバイオエタノール利用が進められていますが、途上国における食料需要の増加と相まって、食料とバイオ燃料の競合問題が顕在化しつつあります。そこで、社会経済発展やバイオエタノール需要増等の影響を考慮した上で、将来の地球規模の食料需給構造および作物増産に必要な土地利用改変に関する分析を行った結果、将来の作物需給が逼迫する要因として、食用および飼料用需要の方がバイオエタノール用需要よりもその影響が大きいことが示されました。また、2015〜2020年頃まで現状の可耕地（休閑地含む）で供給可能ですが、それ以後は耕地が不足し、2050年には2005年の耕地面積から約11〜15%の耕地拡大が必要になると予測されました。
  　
• 飼料米で食料自給率向上、しかし温室効果ガス排出量増加の懸念が・・・（2009年度立命館大学大学院修士論文，学内端末限定公開）
  　日本の食料自給率はカロリーベースで40％程度と先進国の中で最低水準であり、中でも畜産業界においては濃厚飼料の大部分を海外産のトウモロコシなどの輸入に依存しています。一方で、国内の耕作放棄地（遊休農地）及び休耕地を利用した飼料米の作付けによる輸入トウモロコシの代替も着目されています。確かに、飼料米導入により食料自給率を数パーセント向上させることができそうですが、飼料米の作付けに伴う水田からのメタン放出による地球温暖化影響が輸入トウモロコシの海上輸送による二酸化炭素排出よりも大きいことがわかりました。メタンは二酸化炭素に比べると約25倍の温暖化効果を持つ物質です。なかなかに悩ましい問題です。同じような話が「米粉パン」普及に向けて検討されています。環境負荷と炭水化物自給率を考慮した米粉パン普及可能性の検討（2010年度立命館大学卒業論文，学内端末限定公開）
  　
• 環境保全型栽培米の環境・経済影響に関する総合評価（2011年度立命館大学大学院修士論文，学内端末限定公開）
  　食の付加価値向上のため有機栽培、減化学肥料栽培等の環境保全型農業の普及が全国各地で進んでいます。しかしながら、環境保全型農業は生態系や水資源などを保全することを主たる目的としており、温室効果ガス（GHG）排出量削減効果が検討されているケースはあまりありません。また、環境保全型農業は慣行農業に比べ栽培に関わるコストや作業時間等が変化することから、環境保全型農業の導入には環境・経済両面の持続可能性を検討することが不可欠です。環境保全型農業の事例として、緑肥栽培米（肥料の代わりに窒素固定作物を肥料として栽培する減農薬無化学肥料栽培米）と減化学肥料栽培米（肥料中の化学由来窒素を慣行栽培の50%以下で栽培している米）について栽培用資材調達〜玄米栽培・玄米出荷準備までの農業生産段階を対象に、GHG排出量、栄養塩負荷量、生産コストを算定し総合評価を行いました。化学肥料を緑肥に置き換えることでメタン発生量増加により外部費用（環境費用）が増加するが、生産コストは抑えられるため総費用で考えた場合は緑肥栽培米が優れており、環境負荷による被害を考慮した外部費用では減化学肥料栽培米が優れていることが明らかとなりました。
  　
• 植物工場と露地栽培、環境影響が少ないのはどっちだ？（2012年度立命館大学卒業論文，学内端末限定公開）
  　異常気象による野菜価格の変動や食材の安全性への関心、光源などの技術革新により植物工場に参入する企業が増加しています。植物工場は、気象条件の影響を受けず安定生産、無農薬化が可能であり、露地栽培に比べ水資源消費が少ないという利点があると言われています。その反面、生産におけるエネルギー消費が大きいとされていることから、完全制御型植物工場で生産される野菜を対象とし露地栽培と植物工場のそれぞれでリーフレタスが生産される際のライフサイクル温室効果ガスと淡水資源消費量を比較評価してみました。露地栽培のリーフレタス可食部1kgあたり温室効果ガス排出量は0.63kg-CO2eq/kg、植物工場のリーフレタス可食部1kgあたり温室効果ガス排出量は14.19kg-CO2eq/kgとなり、植物工場の値が露地栽培の約36倍と大きな差が見られましたが、エネルギー、特に電力の使用が主な要因と思われます。淡水資源消費量については、露地栽培のリーフレタスが405L/kg、植物工場のリーフレタスは12L/kgとなりました。植物工場の値が小さくなったのは、水の循環システムにより淡水消費を少なくすることが可能なためです。
  　
• 大学生協食堂におけるライフサイクル温室効果ガス排出量分析および削減評価（2015年度立命館大学卒業論文，学内端末限定公開）
  　立命館大学びわこ・くさつキャンパス（BKC）構内のユニオンカフェテリアで提供されている下記の献立について、生産・流通・調理・廃棄までのライフサイクル温室効果ガス（GHG）排出量を推計し、特に流通における排出量に着目してモーダルシフト（トラック輸送から鉄道貨物輸送への輸送手段変更）を行うことで温室効果ガス削減の可能性を検討してみました。
  
  献立間では、上記�A若鶏醤油揚げ定食のGHG排出量が�Dかけうどんセットの約2倍になっていることが目立ちましたが、これは米の生産に伴うGHG（メタン含む）排出量と調理時間による差が要因として考えられます。また、ライフサイクル全体のGHG排出量の内訳は、生産段階で約60%〜70%、流通段階で約20%〜30%、調理段階で10%未満、廃棄段階で約1%でした。モーダルシフトによる流通段階の削減効果としては、約4割〜8割のCO2削減が期待できる結果となりました。また、ササミチーズカツ以外は国産食材を使っている�@と、ライスと味噌汁以外の食材が海外産の�Aとでは、削減効果に約1.8倍の差があり、食材の国産比率とモーダルシフトによる削減効果との関連性が見られました。
  　
• 食料消費に関わる世界の淡水資源需給バランスに対する国際貿易の影響評価, 日本LCA学会誌，Vol. 14, No. 1, pp.21-35, 2018
  　食料消費に関わる灌漑用水（農業生産に使用する水）消費に焦点を当て、水ストレス指標（水資源需給がどの程度逼迫しているかを表す指標）により、世界全体の淡水資源需給バランスに対する国際貿易の影響を評価しました。淡水資源消費量については、ウォーター・フットプリントにより、各国の国内生産による淡水資源の直接消費量と、当該国の他国からの国際貿易に伴う淡水資源の間接消費量に分けて評価しました。さらに、灌漑効率を用いて、淡水資源消費量を淡水資源取水量に換算しました。淡水資源利用可能量は、農業において最大限利用可能な淡水資源量として定義しました。2010年時点において、41ヵ国が高いストレス（28ヵ国、19億人）または中位のストレス（13ヵ国、18億人）に直面している可能性が示唆されました。このうち8ヵ国では、他国への食料輸出により水ストレスが強まっている可能性があります。Thailandの場合、輸出向け食料の生産に要する同国の灌漑用水取水量の86%（26.7km3）を占める米の輸出によって、同国の水ストレスが強められている可能性が示されました。
  　
• 食品残渣堆肥を活用した野菜栽培の環境・経済・社会影響評価, 第13回日本ＬＣＡ学会研究発表会, 2018
  　ホウレンソウ栽培を対象に、食品残渣堆肥を活用した栽培と市販有機質肥料による有機栽培について、環境負荷・生産波及効果・雇用効果の比較を行いました。食品残渣は、近隣施設（立命館大学びわこ・くさつキャンパス）より輸送し、大学近隣にて堆肥化することを想定しました。食品残渣堆肥を利用した場合、生ごみ処理機による電力消費が環境負荷に最も寄与し、堆肥化による生ごみ焼却の回避と有機質肥料代替の効果を上回りました。生産波及効果では、慣行有機生産資材や廃棄物処理に由来する一次波及効果が高くなりました。一方で、コスト削減による二次波及効果を考慮した場合、 食品残渣堆肥利用の生産波及効果が高くなることがわかりました。雇用効果においては、機能単位の取り方により結果は逆転するものの、その差は小さくなりました。経済効果に関しては食品残渣堆肥を用いた場合が優位であることが示唆されましたが、結果は単収（面積あたりの収穫量）に大きく依存することから、今後は施肥設計と収量についてより詳細な検討が必要です。
  
  
  　食材・食品の生産、輸出入、自給率、調理、廃棄、という一連の流れと社会全般の課題は密接に関わり合っています。生きていくために欠かせない「食」を持続的に支えていくために、消費者である私たちの“食と社会”に関する認識が重要になってきます。地場でとれたものを食べること、旬の食材を食べること、環境負荷の小さい調理で栄養がとれるメニューなど、社会全体と私たちの健康を良好に保つことにつながる道筋は果てしなく続いています。社会にも健康にもやさしい食を探る旅はまだ始まったばかりです。
  天野ゼミ「食と社会に関わる研究発表一覧」（理工学部（旧）環境システム研究室からこれまで）