建設保全工学研究室石森 洋行 講師
[2013/11/06]
私たちが日常出している廃棄物は燃やすと焼却灰が発生します。金属をつくる際にはスラグが発生し、また建物や道路を新しくする際には廃コンクリート等が発生します。これらの廃棄物は有効利用できるものは土木資材等として活用し、有効利用できないものは廃棄物最終処分場に埋立処分しますが、いずれにしても、これらの廃棄物には有害な化学物質を含むので、時間が経つにつれて化学物質が溶け出して環境汚染を引き起こしたり、また強度や支持力、透水性等の力学的性質の変化に伴い地盤沈下や破壊、排水不良といった問題を引き起こす場合があります。こうした性質を正しく認識し、将来的に発生し得る被害に対してそのリスクを最小にするための廃棄物等の扱い方を考えなければなりません。
実環境の中で廃棄物を管理するには?試験と実際の違い
皆さんが学習した圧縮試験やせん断試験等は強度を評価し、透水試験は透水性を評価できます。また材料中に含まれる有害化学物質の放出量は、環境省やJIS等から示されている溶出試験により評価できます。こうした試験は、試料粒径や温度、負荷、時間等の試験条件は規定された水準に合わせたうえで実施されるので、材料毎の特性の違いを明らかにでき品質管理を行う上では有効な手段になります。しかし、環境への安全性評価手法とするには工夫が必要です。なぜならば、廃棄物等の強度や化学物質の放出量は、廃棄物が利用される環境、例えば廃棄物が粒状なのか固化体なのか、好気性なのか嫌気性なのか、水なのか海水なのか、降雨や温度等に著しく左右されるためです。
図1 廃棄物の溶出試験(引用元)
利用形態や条件に応じた環境安全性評価
環境安全性は、利用形態や条件に合わせて評価しなければなりません。図1は、廃棄物が(a) ばら埋め、(b) フレコンバックに梱包した状態、(c) セメントで固化した状態を考慮して、それぞれの利用形態に応じて溶出量がどのように異なるのかを調べています。JIS等で示される標準試験を基本としていますが、廃棄物からの溶出量に及ぼす影響要因と影響度を見極めるために、試料形態や試験時間、試料量、溶媒等にアレンジを加えています。溶出量に及ぼす影響要因を把握することで、廃棄物の利用現場ではどのようなことに気を付けて廃棄物を扱わなければならないのか、どう対策するべきかが分かるのです。
模型実験・数値シミュレーション技術の意義
こうした室内試験は一般に24時間で終了するものがほとんどであり、長くても数か月です。しかし、廃棄物等が利用されている現地や廃棄物最終処分場では、現在から数十年後までの環境安全性評価が求められます。どうしたらよいのでしょう?そこで登場するのが、模型実験や数値シミュレーションと呼ばれる技術です。廃棄物等からの有害化学物質の溶出や輸送のメカニズムを把握し、時間や空間のスケールに左右されず、現象を支配している因子(相似則)や関係式(支配方程式)を見出すことで、模型実験の結果から実規模の現象を予測したり、実規模の寸法や時間を代入して計算によって直接予測します。
東日本大震災への貢献
東日本大震災が起こったとき、その1週間後には災害廃棄物の処理が開始され、その1ヵ月後にはその仮置き・埋立処分の方針が求められました。このときに発生した廃棄物には放射性物質が含まれていますので、埋立処分の安全性評価は強く求められていました。1ヵ月間の限られた期間でその方針を示すためには、悠長に長期試験や大規模試験はできませんので、24時間で評価可能な基礎実験により知見を集めて、それを使用した数値シミュレーションにより100年後までの放射性物質の動態を予測し、所要の安全性を確保するための埋立処分の方針を示してきました。図2は放射性物質が混入した廃棄物を埋立処分した場合の、廃棄物から溶出する放射性物質が雨水とともに流れて、最深部の集排水管に集められている様子を示しています。
図2 放射性物質混入廃棄物を埋立処分した場合の浸透水と放射性セシウムの流れ
図3は集排水管に集められた浸出水が水処理施設に流れ込んだときの放射性セシウムの濃度を示しています。放射性物質が廃棄物処分場内を拡散するのを防ぐためには、その上部に隔離層を設置すること、下部には土壌吸着層を設置することが有効であることがわかります。専門家ではない方々にもわかりやすい形で環境安全性を科学的に説明することが求められています。大学では知識の習得はもちろんですが、その使い方も現場見学等を通じて、是非学んでください。
図3 水処理施設に流れ込む浸出水中の放射性セシウム濃度