研究最前線

Vol.3
壊さずに社会基盤施設の健康状態を知る「非破壊試験」

建設保全工学研究室内田 慎哉 講師

[2014/02/04]

2012年12月2日に起こった笹子トンネルでのトンネル天井板落下事故に代表されるように,老朽化した構造物の問題が社会的に注目されるが機会が増えつつあります。社会基盤施設の維持管理に充てられる予算が十分とは言えない状況の中で,如何にして効率良く合理的に維持管理していくべきか喫緊の課題となっています。社会基盤施設としてのコンクリート構造物を,長期にわたって適確に維持管理し続けるためには,人間と同じように定期的な健康診断が欠かせません。壊さずにコンクリート構造物の健康状態を知る「非破壊試験」が今後ますます重要となります。

非破壊試験

「非破壊試験」は,弾性波,電磁波,電気化学的性質などのさまざまな物理現象および物理エネルギーなどを利用して,物を壊さずに内部の情報を得る試験方法です。

弾性波法

弾性波を利用した非破壊試験を「弾性波法」と呼びます。弾性波法は,弾性体(コンクリート)を伝搬した波形から,伝搬特性として,「伝搬時間」,「最大振幅値(波形エネルギ)」を抽出するとともに,受信波形の周波数分析から「周波数スペクトル」を算出し,これらを評価パラメータとして,非破壊でコンクリート内部の情報を得る方法です。

弾性波法における評価パラメータ

図1 弾性波法における評価パラメータ


この方法は,「超音波法」,「衝撃弾性波法」,「打音法」および「AE法」の4つに分類されます。

弾性波法の分類

図2 弾性波法の分類


電磁パルス法

衝撃弾性波法の一種である「電磁パルス法」は,コンクリート内部にある鉄筋やシースを磁気的な方法で加振し,生じた弾性波をコンクリート表面に設置した振動センサでキャッチすることにより,鉄筋の腐食,PCグラウトの充填状況,鉄筋破断箇所などを非破壊で評価することができます。

弾性波法の分類

図3 電磁パルス法の概要


電磁パルス法 鉄筋加振


解析を援用した弾性波法とその評価事例

弾性波法は,コンクリートの品質や内部欠陥の評価など,適用範囲が広いことから,特に実構造物での調査において活躍が期待されています。しかしながら,実際の現場においては,対象とする実構造物の条件(形状・材質など)や評価対象(ひび割れや空隙など)ごとに,弾性波法における測定条件を適切に設定しないと適確な評価を行うことができず,非破壊評価結果と削孔などにより調査した実態が一致しないケースがあります。このような背景から,コンクリート構造物の内部欠陥を効率よく適確に評価するため,対象構造物での計測を実施する前に弾性波動シミュレーション解析を行い,コンクリート中での弾性波の伝搬挙動を把握した上で,予め,対象とする構造物および内部欠陥に応じた「評価に適した弾性波の入力や受信の条件(計測条件)を決定」,「評価パラメータを選定」および「検出性能(適用範囲)」を把握した後に計測に移行する形の「解析を援用した弾性波法」に関する研究を行っております。

解析を援用した弾性波法の概要

図3 解析を援用した弾性波法の概要


解析により把握したシースに作用する磁気的な力(電磁力)の分布

図4 解析により把握したシースに作用する磁気的な力(電磁力)の分布


上記アイディアを活かし,トンネル天井板を支えるために使用されていた接着系あと施工アンカーにおける接着剤の充填状況を対象として,弾性波法(電磁パルス法)により定量的に非破壊でこれを評価するための「計測条件」などを,弾性波動シミュレーション解析により把握した上で,適切な計測装置の開発を行っております。

開発した接着系あと施工アンカー用計測装置(NEXCO西日本,大阪大学,アミック,立命館大学の共同研究成果)

開発した接着系あと施工アンカー用計測装置(NEXCO西日本,大阪大学,アミック,立命館大学の共同研究成果)

教授プロフィール

建設保全工学研究室 講師

内田 慎哉うちだ しんや

2001年に岐阜大学を卒業し,同年大学院修士課程に進学,非破壊でフレッシュコンクリートの凝結硬化過程のモニタリング手法に関する研究を行いました。大学院終了後,株式会社ピーエス三菱に入社,2005年には岐阜大学大学院博士課程に入学をしました。日本学術振興会の特別研究員にも採用され,弾性波法により道路橋RC床板の内部に生じる水平ひび割れや,鉄道橋PC桁のPCグラウト充填状況を評価するための非破壊評価手法に取り組みました。2009年~2011年 大阪大学大学院および2011年~2013年 佐賀大学大学院においては,磁気的な方法(電磁パルス法)によるコンクリートの非破壊評価技術の開発,非破壊評価技術に基づくコンクリート部材の劣化予測手法の構築にも力を注いできました。2013年立命館大学に着任し,現在は,解析を援用した弾性波法の構築,非破壊試験装置の開発,非破壊試験結果を可視化するためのツール開発などにも取り組んでおります。
研究や教育を通じて,学生には,論理的思考能力,コミュニケーション能力,何事も最後まで諦めない精神力,情報収集能力,文章作成能力およびプレゼンテーション能力を高めてもらいたいと願っております。特に研究においては,学外の産官学との共同研究やプロジェクトへ参加する機会を学生に持ってもらい,物事を多角的に,そして柔軟に考察する力を付与し,実社会で活躍できる人材育成に努めたいと考えております。
これからの我が国の社会基盤施設の維持管理において,立命館大学が日本や世界をリードするような人材を育成することが目標です。
学生の皆さん,明るく,楽しく,元気に,そして,自らの夢に向かって様々なことに挑戦していきましょう!

http://research-db.ritsumei.ac.jp/Profiles/104/0010309/profile.html

内田 慎哉 講師

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