冗長ロボットの機構と制御に関する研究 [説明用PDFファイル]

象の鼻や靭のような多数自由度を有する多関節ロボットは, アーム全体の姿勢 も制御できるため障害物を回避しやすく, アーム全体としての運動性能を改善 しやすいなどの特異な機能性を持っている.このようなロボットは, 原子炉内 や化学プラント内など機器が錯綜する複雑な環境での検査, 点検作業や高速道 路点検メンテナンスなどにおいて非常に有効である.実用的な超冗長ロボット を実現するため, 新しい機構及びその機構特有の制御手法の提案を行なってい ます.
  1. 冗長ロボットの機構
    冗長ロボットアームを実現するための新しい機構として,「干渉型腱駆動アー ム」、と「強力な推力を生ずる基台部スライダーを装備するアーム」の構成法 を提案している.干渉型腱駆動アーム(CTアーム)とは、ある関節を駆動するた めの腱(ワイヤ)を根本側の節に設置したプーリに巻架しながら基台部の駆動 系に伝達するという機構を導入したアームである.先端節駆動用の腱張力を根 本側の節に発生させようとするもので、単純な機構で構成でき、堅牢・安価に 製作できる特性を持つ.また、強力な推力を生ずる基台部スライダーを装備す るアーム(モレイアーム)とは、アームの運動を行う際に、できる限りスライダー 駆動力を利用し、冗長ロボットアームの関節機構の軽量化に寄与するものであ る. 機構重量に関する問題を解決するには、特にアームの軽量化に適する干渉型腱 駆動アームが、高トルクを発生することができ、冗長ロボットアームを実現す るには有効であることを結論づけた.
    CT-ARM (Movie1, Movie2)
    Moray Arm (Movie3, Movie4)
  2. 冗長ロボットの制御
    冗長ロボットの制御法として従来から提案されているローカルなトルク最小化 手法を改善するため7つの手法を提案している.第1の手法は、DSTO (Damped Squared Torque Optimiza-tion)法と呼ばれるもので、ラグランジェ乗数法を 用いて関節角加速度の最小化と関節トルクの最小化をできるだけ同時に実現し ようとするものである.第2の手法は、DNTO(Damped Null-space Torque Optimization)法と呼ばれるもので、関節角加速度を最小化する解を、関節ト ルクを最小化するヤコビ行列のゼロ空間によって調整する方法である. 第3の手法は、RDC (Re- dundancy Decomposition Control)法と呼ばれるもの で、冗長な節を非冗長な数の節の組み合わせと見なし、その他の節が等速運動 を持続するという条件下で最適な非冗長な節の組み合わせを選択し、その運動 計画を作成する手順を提案している.なお、本手法を用いて動力学も考慮でき る冗長マニピュレータの障害物回避方法を提案している.第3の手法が関節ト ルクの制限を考慮することのできないことや不連続な関節トルクを生じること などの問題を解決するため、「トルクベース定式化手法」を提案し、それを基 づいて実時間制御を可能とする第4の手法を提案した.この手法は、冗長自由 度に応ずるすべての組み合わせについての非冗長な運動学と動力学の演算を行 うことができ、よって並列処理に適し現状のままでも冗長マニピュレータの実 時間動的制御に応用できる.第5の手法は、終運動時の関節回転速度がゼロと なるように、運動学的な評価基準(関節回転角速度の最小化)を最適化する動的 冗長性制御手法である.関節回転速度を制限できる運動学的な評価基準を最適 化することで、動的冗長性制御法における不安定性の問題や終運動時の関節回 転速度がゼロでない問題などを解決し、系全体を安定化することができる.第 6の手法は、終運動時の関節回転速度をゼロにし、しかも関節トルクを最小化 するものである.この手法は、トルクベースとする定式化手法を用い、関節ト ルクの最小化を行うと同時に関節回転速度の最小化も行う.関節トルクの最小 化解と関節回転速度の最小化解をうまく合成することで、終運動時の関節回転 速度をゼロにし、しかも関節トルクの最小化時における系の安定化を図る.第 7の手法は、終運動時の関節回転速度をゼロにすることができる定式化手法を 用いて、終運動時の関節回転速度をゼロにする冗長マニピュレータの動的制御 方法である. さらに、今まで不明であった冗長マニピュレータのローカルなトルク最小化制 御法における不安定性の原因を突き止め、それは基本定式化のところにあるこ とを指摘した.また関節トルク最小化制御のための正確な定式化手法を提案し、 ゼロ空間におけるアームの運動を解析することにより、本定式手法の妥当性を 示した.また、冗長マニピュレータの逆運動学解を求めるための計算量を減少 できる効率的な手法を提案している.逆運動解をそのまま求めずに、冗長マニ ピュレータのような冗長システムを非冗長システムに分解後、非冗長マニピュ レータの逆運動学解を基にして冗長マニピュレータの逆運動学解を求める方法 である. 干渉型腱駆動アームは、アーム先端座標に対する関節座標の運動学的な冗長自 由度と関節トルクに対する腱張力の力学的な冗長自由度(干渉駆動)を持ってい る.干渉型腱駆動アーム特有の制御法として張力のみ生成できない腱駆動系の 制約を考慮しつつ、干渉駆動の効果を最大限に発揮させ消費パワー最小化など の評価を満たす動力学効果も考慮した制御法を提案している.また、位相平面 解析と線形計画法を用いて、腱の張力限界を考慮したときの干渉型腱駆動アー ムの最小時間軌道追従制御手法を提案している.さらに、干渉型腱駆動機構を 用いて超冗長自由度を有するロボットアームが構成でき、その実時間制御問題 をも検討した.アームの姿勢形状を決定するパラメータからなる形状空間を構 成し、それによる新しい障害物回避手法や、形状空間変数に基づく動力学モデ ルによる動的な軌道追従制御手法などを提案している. 強力な推力を生ずる基台部スライダーを装備した冗長ロボットアームの制御法 として、スライダーによる高速なアームの伸縮運動と、それに同期した各節の 曲げ運動によってマニピュレーションを行うモレイ駆動と呼ばれる制御法を提 案している.モレイ駆動は、従来のアームを振り回すタイプの運動制御法に較 べて、狭い環境での作業性や流体抵抗を受ける水中での作業性が向上できるこ と、関節で発生すべきパワーが軽減でき軽量化できることなどを論じている. また、モレイ駆動を拡張した2自由度慣性モレイ駆動と呼ばれる制御法も提案 している.2自由度慣性モレイ駆動は、モレイ駆動と振り回す動作を組み合わ せ、より適性の高い動作を実現している.さらに、モレイ駆動と2自由度慣性 モレイ駆動によるモレイアームの障害物回避制御手法や、アクチュエータの駆 動特性を考慮したときのモレイアームの最短時間軌道追従制御手法などを提案 している.