2002年4月15日(月)
<< プレッシャーを与える >>
不要不急のちょっとした雑用以外は特に用事も無いのだけど、昼過ぎに大学へ。 個研室にて具体例の計算などをして過ごす。春休みに身に付けたはずのドメス ティック・パワー(自宅待機力)は何処へやらで、また元の黙阿弥である。

途中事務室にお茶を汲みに行ったついでに自家養成サクラI君のところに立 ち寄り、「先日のゼミでやり残した部分、ちゃんと理解したか?」とプレッシャー を与える。実は院生のI君と3回生F君と一緒にゼミをやらせているのもプレッ シャー作戦の一貫なのである。これからも、I君にはあの手この手でプレッシャー を与え続けることにしよう。

私は大学院で学んだ事が無いけれど、私の学生時代の記憶では数学科の院生達 は物凄いプレッシャーを自らに課しながら勉強していたようだ。これはほぼ全 員が数学者を目指している大学での話だけど、そうでない大学でもある程度の 緊張感を持って勉強することは大切だと思う。何故ならば、およそ数学という のはかなり根を詰めてやらないと深い事は何ひとつわかって来ないものだから だ。

思うにウチの学生達は一般にのんびりし過ぎている。修士の学生なんかも、 M1はとりあえず講義科目の単位などを取りながらゆっくりして、M2の前半は就 職活動。めでたく夏までに就職が決まれば、学生生活最後の夏休みをたっぷり 楽しむ。そして秋口からそろそろ修士論文のための研究を始める、というのが 一般的なようだ。修士出て就職する人はそれで別に良いのだろうけど、彼らの 書く修論は「もう半年、せめて3ヵ月早くからしっかりやっていれば素晴らし い成果になっていたのに」という中途半端なものが多く見られる。何度も言う が、修士出て就職する人はそれで別に良いのかも知れないけど、もう少し気合い入れ ればもっと良い修論が書けるのにと思うと、教師の目から見るとあまりにも勿 体無い気がするのだ。

夕方、K川先生登場。立命館と早稲田と京大の数学教室の(学生から見た)違い について議論する。立命館の先生はゼミの時もそれ以外の時も優しい。早稲田 の先生はゼミの時は鬼だけどそれ以外は優しい。京大の先生はゼミの時もそれ 以外の時も鬼である。だから立命館から京大に行った学生は苦労するだろう という結論に達する。

2002年4月12日(金)
<< 代数幾何学セミナー >>
15時から自家養成サクラI君の院ゼミ。可換環論自主ゼミの3回生F君もオブ サーバとして参加。テキストはM. Reid "Undergraduate Algebraic Geometry". 今日はネーター環の定義と特徴付け、単項イデアル整域、ネーター 環の剰余環のあたり。テキストとしてはたった1ページなのだが、細かいとこ ろにチェックを入れながらやっていくと案外時間がかかる。数学のゼミにスピー ドは関係ないけど、もうちょっと速く進みたいものである。

この4月から(某私大の)大学教員になった友人からメイルが届き、「大学とい うのは受講生の数の自乗に比例して雑用が増えるような感じで、全く体力勝負 の世界ですね」と書いていた。「まあ、慣れてくれば受講生数 n の対数関数 log(n)のオーダーに押えられるようになりますよ」と返事してベテラン教師風 を吹かせておくことにしよう。

2002年4月11日(木)
<< どっと疲れる >>
本日午後一番は1回生「線形代数」の講義。その場の気の迷いとしか思えない 全くつまらない嘘を喋ってしまい、「しまった!」という思いからどっと疲れ てしまう。疲れた気分をひきずりつつ、引き続き今年度初の卒研。今日はテキ ストを決めてコピーをし、簡単な打ち合せをしただけで解散。次週から本格的 に開始する予定。内容は永田「可換体論」で3回生レベルの代数を最初から勉 強すること、および、W.W.Adams & P. Loustaunau "An Introduction to Groebner Bases"でグレブナー基底とブーフバーガ・アルゴリズムを勉強する こと。自家養成サクラの院生I君もこのゼミにオブザーバとして参加する予定。

夕方疲れ切ってぼんやりしていると、K川先生登場。しばし密談する。

2002年4月10日(水)
<< 噛んで含めておかゆを炊いて >>
本日午後一番から1回生「情報処理」、2回生「離散数学」、教室会議と続く。

「情報処理」で「ログインの意味がわからない人!」と聞いたら8割の学 生が手を挙げたりする状態だったので、そのレベルから説明を始める。私はこ ういう街のパソコン教室的な授業は嫌いではない。「離散数学」では「たぶん 皆さんは、このまま放っておいたら『部分集合全体の集合』という概念や記号 の使い方がわからないまま卒業することになるでしょう」と、具体例や頻出間 違い例、自己チェック用の典型問題等を挙げて説明する。案の定、講義の後で 「やっぱりわかりません」と質問に来る学生が何名か現れる。まあ、少なくと も注意して理解しなければならない部分だという事は飲み込んでもらえたもの と期待する。私はこういう"噛んで含めておかゆを炊いて"式の講義をするのが 好きである。

でも、「明らか」と「容易」を連発し黒板と自己満足的対話をしながら粛 粛と進行する、思いっきり格調高く高踏的な講義をやって、連中をキリキリ舞 いさせてみたい衝動も無いわけでもない。

2002年4月9日(火)
<< 教授会 >>
今日は、助教授時代に「俺は助教授なのに何で出なければならないのだ?!」 と思っていた、教授会のある日である。例えば国会議員というのは「毎日が教 授会」みたいなもので、ああいう仕事を好きこのんでやりたがる人間というの は、3ヵ月毎にデタラメにバージョンアップを繰り返すOSを追いかけてシステ ム管理に人生の喜びを見出してしまえる人間と同様、明らかに私とは別の人種 である。私は今、計算機のお守は全て悪魔に魂を売り飛ばしたS藤先生におん ぶにだっこ状態であり、とても平和で幸せな状態である。(私はS藤先生が居な いと生きていけない。) ついで に国会議員のOBみたいな人が教授会に代理出席してくれるというのならいいだ ろうなあ。

昼頃大学へ。たまたま一緒になった院生M君とN君と昼食をともにし、その 後教授会の時間まで事務的な仕事を色々こなす。教務委員の年度始めの仕事は 一段落したような気配ではある。今年度最初の、そして何だか知らないけどま た先生の数が増えて超満員の教授会は、軽く2時間程度で終了した。

2002年4月8日(月)
<< 教務委員 >>
高校以下の学校では入学式である(多くの大学でもそうなのかも知れない)。入 学式とくれば桜と相場が決まっている。しかし、桜はもうかなり散ってしまっ ていて、立命館では既にガンガン講義が行われ、そして今日は初夏を思わせる 天気なのである。

さりとて今日は何も予定が入っていないので「街で数学を」と思ったのだ が、教務委員関係でひょっとしたら突発的かつ間発的に急な仕事が発生するの ではと思い昼前に大学へ。予感は見事に的中した。春休み中に「自宅待機力」 のトレーニングを積んできたつもりだけど、今しばらくは数学者らしく「講義 と会議が無い限り大学には寄り付かない」というふうには行きそうにない。事 務的な雑用以外は、終日個人研究室でメモを整理したり計算したり。

2002年4月5日(金)
<< 可換環論ゼミ >>
午前中はGoetheの新学期の講座申込などをやって午後から出勤。 夕方のゼミまで、ドイツ語の予習をしたり久々登場のK川先生と 密談したり。

夕方は3回生F君の可換環論自主ゼミ。可換環論の理解にまだ怪しさが残る自 家養成サクラ院生のI君もオブザーバとして参加して一緒に勉強することにし た。またF君はかなり力がありそうなので、I君の院生ゼミにオブザーバとして 参加してもらうことにした。これは私の趣味がかなり出ている。というのは、 私自身は可換環論だけで閉じてしまって「代数幾何学の事なんてわしゃ知らん!」 という風にはなりたくないと思っていて、可換環論をやりたい学生にも できるだけ代数幾何学との関連に目を向けさせようと考えているのだ。

彼らのテキストはM. Reidの二部作であるUndergraduate Algebraic Geometry と Undergraduate Commutative Algebra. この2冊を2人の学生に分担させて 読ませるというのは、実は昨年度の卒研でやろうと思っていたプランなのだ。 それにしても、私はいままで事実上院生を持った事はほとんど無かった。今年 から久々に院生を持ち、さらに自主ゼミの相手もするとなると、ゼミの数が一 気に増えてしまう。他の先生達の大変さが初めてわかるような気がする。

ゼミの後は生協で夕食を摂ってから教務委員の仕事、Goetheの予習の続き, etc. ああ忙し。

2002年4月4日(木)
<< こいつら大丈夫かよ?! >>
自宅の近所にある京都薬大は今日が入学式のようだ。しかし株式会社立命館は 他の会社と同様に4月1日に入社式を済ませ、今日から講義が始まるのである。 今日は数理科学科1回生の線形代数の講義。

線形代数の講義では、できれば毎年時間切れで教えずじまいで終るJordan標準 形の話まで進みたいと思っている。少し前の数学セミナーのインタビュー記事 で、京大の森脇氏(私の学生時代の2年後輩)が、我々の学生時代に行われて いた永田先生による伝説の線形代数の講義の話をしていて、「梅雨明けぐらい にはもう(Jordan標準形を含めて)全部終っていた!」という驚愕の事実を明ら かにしていた。梅雨が明けたら、加群だの可換環だのという話をしたらしい。 この講義に最後まで生き残れたのはおそらく森脇氏だけであろう。 この話にいたく感動した私は、梅雨明けまでに全部終るのは無理としても、前 期で行列式と線形空間・線形写像を全部終り、後期はJordan標準形や二次形式 論をやり、時間が余れば群の表現論でもやろうか、などと夢想している。

とは言うものの、今日は「さっぱりわからない人は『すぐわかる線形代数』か 『やさしく学べる線形代数』あたりを読んでみよ」「よりハイレベルを目指し たい人は佐武一郎『線型代数』に挑戦すべし」「講義では教科書全てを説明し ない。しかし、諸君は自宅にて教科書は隅から隅まで全部読むべし」「高校数 学と大学数学の違い」等々の噛んで含めておかゆを炊いて式のガイダンスをやっ てたので、講義の方は予定の半分ぐらいしか進まず。今日のところの学生達に 対する印象は「こいつら大丈夫かよ?!」。3日前に入学したばかりだからまだ教科 書を買ってないのは許せるとしても、教科書を持ってないだけにとどまらず、 ガイダンスのメモも講義のノートも取らないで、ただ口をぽかんと開けてぼん やり話を聞き流しているだけのような学生が約半数。「彼らを許し給え。彼ら は自分が何をやっているのかわからないのです」とキリストになったような気 分で講義を終える。

講義の後、何となく(雑用を捜し求めて)ぶらぶらしてしまうので、またもや生 協喫茶へ脱出。立派な個人研究室があるのに騒々しい生協喫茶でないと数学が できないなんて...病気だ!

2002年4月3日(水)
<< どかっと一発! >>
今日は「これといって大きな用事は無い」と思っていても突発的に雑用が発生 するのが新学期というものである。昼食が済んで「一応様子見のため出勤した けれど、今日は何も無さそうだし、たまには夢見るH先生の真似して『午後は 適当に過ごして早めに帰宅』しようかしら」などと考えていたら、どかっと一 発大きな雑用が発見されて夕方頃までせっせと働く。今年度は教務委員なので 年度の始めは忙しくなるようである。

夕方、例によって生協喫茶に雲隠れ。メモを整理しながら「何でこんなつ まらん事を考えたんだ!?」と我ながら撫然とする。まあ「これこれ、こうい うことを考えるのはナンセンスであることが明らかになった」という記録を残 すのも悪くないかも。

2002年4月2日(火)
<< サイン会 >>
新学期である。色々な雑用があるので午後から大学へ。あっちこっち動き回っ て、書類を書いて、またあっちこっち動き回って、その合間に昨日から大学院 生となった自家養成サクラI君の履修相談に乗ったり。夕方頃一段落したので、 雑用の館と化してきた個人研究室を脱出し、生協喫茶にて昨日の続きのメモの 整理をする。部屋に戻ってからは少し本棚の整理をし、再びあっちこっち動き回り。 明日もこれといって大きな用事は無いのだけど、「『あっちこっち』ときどき 『書類書き』ところによって(生協喫茶等に)雲隠れ」の一日を過ごすために 出勤することであろう。

午後、K大大学院に行ったはずのY君が来ていた。私の 本を買うために立命館に立ち寄ったとは立派!としか言いようがない。お まけにサインまでしてくれとは全くオジサンを喜ばせるツボを熟知した良い言 動である。(当然大サービスでサインをした。) そういえば、数学会に行った 時も初対面の数学者から「あなたの本を買いました。サインをしてください」 と頼まれた上に(当然大喜びでサインをした)、ドイツ談義で一瞬盛り上がって しまった。いっそどこかでサイン会でも開こうかしら。

2002年4月1日(月)
<< またこの日がやってきた >>
天国ドイツから帰ってきてちょうど一年が経ち、平和な3月の進々堂窓際特等 席と京大中央図書室極楽ソファーの日々も終り、また4月1日がやってきてし まった。一体私はこの一年間何をやってたのだろう?進歩があったような、た だバタバタしてただけのような。それにしても、学校というのは毎年一回大規 模な学生の新陳代謝があるため、そのたびに気分が一新される。そして、何だ か「人生何度でもやり直せるんだ」という気分になってきて元気が出て来るのだ。

さて今日は事務的な仕事をするために大学へ。雑用は断続的ではあるものの分 量は少なく、講義は4日から始まる。だからまだ時間的余裕はあるのだけど、 気分はもう十分臨戦状態である。無意識に雑用を捜し求める心を静めるために、 新しいノートを買ってきて、3月にシコシコやっていたゴミのような計算やら 間抜けた考察やらを書き散らしたメモをせっせと整理する。つまらない結果ば かりで何の実りにも結び付かないかも知れない。けれども本格的に新学期が始 まり忙しくなって、それまで何を考えていたのだかわけがわからなくなって、 そのまま忘れ去られてしまうのはちょっと勿体無い気がするのだ。