2002年6月13日(木)
<< 後悔? >>
午後一番の線形代数の講義と引続き行われる「蝸牛ゼミ」のため出勤。線形代 数は前回同様にメモを用意してせっせと講義した。置換や置換の符号の話を終 え、行列式の一般の定義までやって、2次と3次の行列式を導いて見せるところまで やりたかったのだけど、最後の3次の行列式の部分だけは時間切れで話せず。 「蝸牛ゼミ」では、4回生M君の方はどうやら蝸牛状態を脱出したようで、割 合調子良く発表をすすめられるようになってきたけれど、5回生I君は相変わ らず。彼の蝸牛ぶりにほとんどキレそうになるのをぐっと押える。

ところで、ワールドカップが始まってからのにわかサッカー・ファンが増 えているそうだけど、私もその一人になってしまった。試合をかぶりつきで見 ている事はあまり無いものの、ダイジェスト番組や夜の時間帯の試合は何だか んだと言っても結構見ている。5月の終り頃まではそんな気配もなかった。自 家養成サクラI君にイタリア出張の日程を聞かれて、「え?それじゃあ、先生、 決勝トーナメントが見れないんじゃあないですか?」と言われたのだけど、その時は 特に気にしてなくて「そんなん、別にええやん」とか返事してたのだ。しかし 今は彼の言葉の重みがわかってきた。まあイタリアでもワールドカップは放送 しているだろうけど、時差の関係でなかなか見られないだろうし、万一今夜イ タリアの予選リーグ敗退が決定したら、番組ががっくり減るかも 知れない。それに、日本が決勝トーナメントに進出しても日本のテレビ程も真面目に放送し ないかも知れないし。この時期の海外出張はまずかったのではないか、と少し 後悔し始めている。

今週末から来週一杯にかけてイタリア出張。次の更新は早くても6月24日 頃になります。

2002年6月12日(水)
<< 健全な数字>>
午後一番からのCプログラミングの演習と離散数学の講義のため出勤。Cプログ ラミング演習の出席者は前回の半分程度の30名ぐらい。そのうち半分ぐらい はただ遊んでいるだけであった。前回は初めての演習であり、様子見でやって きた学生も多かったようだが、一度自分でやってみて「こんなもんか」と思っ てやめてしまった学生も多いことだろう。

深谷賢治さんが以前どこかで書いていたけれど、学生時代に計算機演習に 出席して計算機の下品さにほとほと愛相が尽きて、二度と計算機など触るまい と決心したそうだ。私の学生時代でも理学部共通科目として計算機の授業があ り、2回生ぐらいの頃アセンブラの話を少し聞いたけれど、あまりの下品さに 「こんな話はもっと歳を取って落ちぶれた時に勉強すればよい!」と思ってす ぐにその講義を放棄した。その後図らずしも「歳を取って落ちぶれ」て大学院 入試に失敗し計算機メーカに勤めるという「転落の人生」を歩む事となり、この 際だから卒業までに何か計算機関係の講義でもという事で聞いたのが中島玲二先 生のスコット理論の講義。これで計算機科学も下品一本槍じゃ無い事がわかっ たのだけど。

結局数学科の1回生のせいぜい2割程度がCプログラミングを面白がってやっている 計算になるが、この数字は私個人としては「まあ健全なところ」と思っている。 数学科の学生の誰もがプログラミングを面白がるなんて、むしろ気持ち悪い。

2002年6月11日(火)
<<結果的に突然の来客>>
今日は数学者らしく昼食後まで自宅で過ごし、午後から夕方の会議のために出 勤。会議の途中に自家養成サクラI君から携帯メイルが届き、現在滋賀県内で 高校の数学教師をしている卒業生のT君が私を訪ねて来ているという。

どうやらT君は今日の訪問について昨日のうちにメイルをくれたそうなのだ けど、ここんところの迷惑メイル対策だのサーバーのダウンだののとばっちり を受けて、彼のメイルは読まれないままだったようだ。ということで、結果的 に私にとっては突然の来客。しかし、卒業後何年も経っているのに何かのつい でにふらりと遊びに来てくれる卒業生というのは、私にとって良い客であるこ とには違い無い。会議が終る夕方6時頃まで待ってもらって、それから南草津 近辺で夕食をともにしながら、色々話を聞かせてもらった。

2002年6月10日(月)
<< 夢見るパンドラの箱 >>
数日前からS藤先生管理下のサーバが激しくダウンしている。この日誌が公開 できるのは何時の事か。

本日午前中は烏丸四条の銀行でユーロの現金やTCを買い、午後 は自宅待機日であるにもかかわらず大学に来て海外出張の細々とした準備など。 夕方も算太郎君に「先生今日は早いですね」などと言われながらも比較的早く 帰宅し、自宅で荷物のまとめなど。そしてその夜は、夢見るH先生が夢に現れ て大暴れした。以下、内容は夢に出てきた通りとし、学問的にナンセンスな 用語、概念も夢に出て来たまま記載する。

夢見るH先生から宅配便が届いたのだが、それは夢見るパンドラの箱で、中 には3種類のとんでもないものが入っていたのだ。一つは、彼が宗教的修行生 活の一貫として打っている蕎麦のようでもあり、あるいはミミズ様の生物のよ うにも見えるシロモノで、とにかく特殊なパックを開けたが最後どんどん増殖 する。もう一つは彼が宗教的修行生活の一貫として作っているぬかみそのナス の漬物のようでもあり、あるいはグロテスクな蛸の赤ちゃんのようでもあるシ ロモノで、やはり特殊なパックを開けたが最後周囲の汚物 -- 何で周囲に汚物 があるのか知らないけど、夢の中では別に不思議な事でもなく存在していた -- を吸収して、どんどん大きく成長する。

蕎麦のお化けは部屋一杯に増殖するし、蛸の化け物は不気味に成長するし、 何なんだ?これは!たすけてくれー!とパニックになっていると、夢見るH先 生が現れ「これはカオスなのです。カオスは私の専門分野に深く関連します」 と言う。この化け物どもの成長を止める方法は無いのかと聞くと、「あらかじ めかくかくしかじかの手続きを取れば成長が止められるという決定性が支配す るのは古典的な解析学の世界で、私が研究している非決定性が支配する確率解 析学ではそのようなことはあり得ません」と涼しい顔をして答える。じゃあ、 このまま放っといたらどうなるのよ?と聞くと、「私もこれと同じものを『育 てて』みたのですが、ある程度のところで成長が止まるようです。でもあくま で非決定性の支配する世界ですから、何時どの段階で止まるかは予測できませ んが。」

うーむ、とうなりながら3つ目の包みを空けると、何だか立体絵本のよう なものであった。ページを広げると折り畳まれていた動物や乗物や建物の折り 紙が飛び出してくる作りの絵本があるが、それとよく似たものである。 これは何かと尋ねると、H先生また澄まし顔で「3次元Webです」と言う。 通常Webのブラウザは、サーバに入っているWebページをダウンロードしてくる。 サーバにある本物のコピーが手元に復元されるわけだ。3次元Webとは、 サーバに入っている『3次元の物体がダウンロードされて』ブラウザを持っている 世界中のあらゆる人が、それと同じ物を手に取ってみることができるのだ。 これは3次元画像データの転送などというニセモノではなく、 物体そのものが物質伝送器によって転送されるのである。

ということは、今私の手もとにあるこの模型の望遠鏡のようなロケットの ような不思議な物体は、どこかのサーバにあるものを『ダウンロード』してき たものなのか?と聞くと「そうです」という。ふーん、面白いもんだねえ。と ころでこの不思議な物体は何なの?と聞くと「それは○△■@→(意味不明)で、 宇宙空間に関係するものです。宇宙空間工学は私の専門と深く関連しています」 という。何!?確率解析学は宇宙空間工学とも関係しているのか。私は可換環 論とか代数幾何学といった「決定性の世界」の住人だけど、その世界に安住し ているうちにいつの間には外堀の「非決定性の世界」はどんどん埋め尽くされ、 確率解析学がその大元締めをやっているというわけか。まさに確率解析学恐るべ し!だな。

それにしても、自宅で修行に励むのはいいけれど、その成果だか 何だか知らないけど蕎麦や蛸の化け物を送りつけてくるのはやめてよ! などと言いながら目覚めたのであった。

2002年6月7日(金)
<< 偏見の注入 >>
午後から可換環論・代数幾何学ゼミなのだが、その前後、途中、合間にコマネ ズミのようにあちこち駆けずりまわったり電話を掛けたりメイルを出したりし て細々とした雑用を片付ける。来週末から海外出張するのだけど、ぼんやりし ていてそれまでにやっておかねばならない仕事がたまっていたのだ。

ゼミの方は、イデアルと代数的集合の対応関係の例、既約な代数的集 合と素イデアルとの対応、べき等元と環の直和分解、局所化や準素イデアル分 解の特殊な場合などなど。自家養成サクラI君は数学に完全復帰した模様。

ゼミの後、3回生F君は「将来、ホモロジー代数を専攻したい」などと言い 出すので、ホモロジー代数は道具なのであって現在ではもはやそれ自体は研究 対象にはならない。ホモロジー代数は代数幾何学や可換環論で道具として使い こなしてこそ意味があるのだよ、と(たぶん、無知ゆえの)自分の偏見を思いっ きり注入しておいた。

さらに、「代数関係で研究の第一線にたどりつくまでに必要な勉強量の順位」 なるものを聞いてくるので、1。数論幾何学、2。代数幾何学、3。整数論、 4。可換環論、の順じゃないだろうかという怪しげな事を言っておいた。 数論幾何学は代数幾何学と整数論の両方を知ってないとダメだろうから、一番 大変なのだろう。あれは頭が良過ぎてどうしょうもない人がやる学問に違いない。 代数幾何学は可換環論以外に解析や幾何も知ってないとダメ だから、可換環論よりも大変なのに違いない。整数論は代数以外にも複素解析だの フーリエ解析だの何だのかんだのと難しい事を言っているから、可換環論より 大変なのだろう。という、割合単純な比較なんだけど。

2002年6月6日(木)
<< 講義万能信仰? >>
午前中は事務的作文などを行い、午後は線形代数の講義、引続き「蝸牛ゼミ」。

線形代数の講義の進度にいよいよ黄信号が灯り始めたので、今回初めて講 義用メモを作り効率化を図った。今日の最低目標は教科書でたった3ページだ から余裕をもって終れるかに見えたのだけど、実際にメモを作ってみるとかな りの枚数になり、一部を省略しつつ息つく暇も無くせっせと話し90分で終る のがやっとであった。本当は毎回今日ぐらいのスピードで講義しないといけな いのだろうけれど、これは学生にとっては大変らしい。もう少し話す内容を大 胆に厳選して、少ない内容を丁寧に説明し、講義で切り捨てたトピックスを演 習の時間で補ってもらうとかいった工夫をした方がいいのかしら。

それにしても学生の方にも「講義で理解させてもらおう」という意識が強 過ぎるきらいがあるように思う。そもそも数学なんて講義を聞いてわかるもの ではないのだ。数学は自分で苦労して時間を掛けて本を解読して初めてわかる ものだし、講義はその手助け以上の力を持ち得ない。たとえ講義の内容を減ら しやさしくして進度を遅くしても、自分で苦労して本を読むというプロセスや 能力が欠落している限り数学をちゃんと理解することは難しいと思う。

だから講義万能信仰でもって「講義で全部理解させてもらおう」という意 識から抜け出せない学生は「落ちこぼ」さざるを得ないのである。そして私個 人としては、「(講義で)理解させてくれるのなら、理解してやってもいいけど、 そうでないなら理解してやらない」と考えている王様気取り学生なんか知るもんか、 という気分も無いでもないのだ。

2002年6月5日(水)
<< コラーゲン? >>
午後一番からCプログラミングの授業。今日から情報処理演習室で演習形式で 行うこととなった。演習形式に変わった事を聞き付けたからであろうか、今日 はクラスのほとんどの学生が参加していたようだ。私のテキストは元々演習書 のような書き方がしてあるので、学生はそれを各自のペースで読み進めながら 課題や作業をやっていく形になる。彼らは先週までの座学の欲求不満の解消と ばかりにまずまず楽しそうにやっていたようだし、私も退屈な講義をチンタラ やる代わりに学生の色々な質問に答えながら教室を回っていれば良いので気分 的に楽になった。 その後は離散数学の講義、さらに久々の教室会議と続く。

ところで、情報処理演習室はコラーニングハウスという妙な名前の建物に ある。以前講義中にリンク・スクエア(これも変な名前だ!)という建物名を 「リンクス」と3〜4回言ってしまったところ、早速学生のホームページでやんやの喝 采状態になっていた。しばらくしてからわかったのだが、これは通常「リンク」 と略称されているらしい。コラーニングハウスも、事務の人と電話で話していて 「コーラゲンの演習室に教室変更してください。あの、コラーゲンですので、お間違いなく」と 念を押して喋ったのだが、その時の相手の言葉の微妙な間を思うに、きっと 後で「あの先生、コラーニングのことを『コラーゲン』だって!」と大笑い していたに違いない。

くどいようだが、誰がこんな変な名前つけよったんじゃ!?と言いたいところ なのである。しかし、人々に笑いを提供できたのだから、これでよしとしておこう。

2002年6月4日(火)
<< お祭り好き >>
昨日は自宅待機日だったのだが、大学の研究室でやりたい仕事があったので、 昼過ぎにこっそり出て来て仕事が終った夕方早くにそくさくと帰宅した。本日 午後は教授会。当初は夢見るH先生式に会議の10数分前に出勤しようと思っていた のだが、諸般の事情で昼過ぎに出勤し教授会の時間まで個研室にて過ごす。

教授会+研究科委員会+学位審議委員会の3点セットの会議だったのだが、 驚異的な効率の良さで議事は進行し18時15分頃に終了した。夕方に行われた ワールドカップの日本 vs ベルギーの試合に間に合わせるべく、議長が密かに 努力したのではないだろうか。

私はサッカーも野球もほとんど興味が無いのだけど、ワールドカップ、ワー ルドカップと言って世間が騒いでいるのは好きである。それ以外にも京都だと、 やれ祇園祭だ時代祭だ五山送り火だと年中なんだかんだやっていて、お祭り好 きの私には住みやすい所である。実際にはそういう行事を見に行く事はほとん どないのだけど、周りが何となく浮かれた雰囲気になっているというのは、こ ちらも何だかウキウキしてくるので大変よろしい。 私にとっては、大学も「毎日がお祭り」みたいな感じに思えてくる。