2002年5月15日(水)
<< 演説 >>
さて、昨日は自宅待機(国立大学式に言うと「自宅研修」か?)モードで ゆったりとした静かな時間を過ごすことができた。とは言え、一日中 家に閉じ籠っていたわけではない。例えば、四条河原町の大丸百貨店 1階フロアーの椅子のある所は、照明の状態も大変良く数学の本を読 むのに絶好の場所であることが判明した次第である。

本日午後一番から「情報処理」と「離散数学」の講義。「情報処理」の方は、 前回の講義で演説をぶったおかげで、かなり人数が減っていた。その演説 の内容は大体以下のようなものである。

「だいたいプログラミングを講義を聞いて勉強する事自体、大変非能率的かつ限 り無く無意味な事である。意欲のある人は、こんな所で時間を浪費してないで、 プログラミングの本と、自分で作ってみたいプログラムのイメージを胸に抱い て今すぐ計算機との格闘を開始すべし。一方、自分は数学がやりたいのであっ て、計算機には全く興味が無い。でも、結局計算機関係に就職する事になるか も知れないからどうしようか、という風に思っている人はどうか。我慢して、 この退屈な講義を聞くのも一つの方法であるけれど、いっそのこと数学だけに 専念してみるのもいいかも知れない。計算機の勉強は就職して現場に放り込ま れてから勉強しても十分間に合うし、そのぐらい背水の陣でやらないと身につ かないし、そもそも世の中の多くのプロの計算機屋はそういうふうにやってき たのである。数学科なんかで片手間に教えている計算機科学なんて、「やらな いよりマシ」程度の誤差の範囲でしかないのだ。数学科に求人に来る多くの 計算機関係の会社は、「数学をしっかり勉強してきた人なら、計算機は全然 やった事が無くでも大歓迎です」と言っている。即戦力指向とか言って、大学 で勉強した数学の事は全然評価してくれなくて、C言語を知っているかどうかと か、インターネットが使いこなせるかとか、そういう事ばかり気にする会社は将 来性に大いに不安があるから、敬遠した方がよかろう。」

2002年5月13日(月)
<< パソコン >>
朝(というよりは「昼前」と言った方が正確だが)のバスで珍しく夢見る心の貴 族のH先生と一緒になる。滅多に会えない人なので、まだチェロの練習は続けてい るのか、「執事」とは実在の人物なのかそれとも架空のキャラなのか等々常々 一度聞いてみようと思っていた下世話な事を色々質問してみた。まだ聞く事が あったような気がするが、とっさに思い出せない。日頃から質問事項を 手帳に書き留めておいて、いつ何時にH先生と出会っても対処できるように しておかないといけない。

さて、 計算の方はとりあえず「お手上げ」ということで休止して、新しい方針のヒン トを得るべく少し関連する事を勉強してみようか、ということになった。

まあ、お勉強はどこでもできるのだが、今日は気分を変えて、面倒なのを理由に 伸ばし伸ばししていた個人研究室の新しいパソコンの整備をやることにした。 基本的なところはS藤先生に全部やってもらってあるので、あとは今まで使っていたパ ソコンから自分のファイルを転送することと、簡単なメイルの設定をするだけなのだ が、これが色々な特殊事情ゆえちょっと厄介な状態なのである。

特に、メイルの設定は今回のパソコン乗り換えの最大の理由なのだ。 韓国や台湾方面から字化け迷惑メイルが毎日10通以上届き、 ほとほと困っているので、それに対する対策を講じるというのが最大の 目的である。

2002年5月10日(金)
<<切れ味>>
6月のイタリア出張の準備のためあちこち連絡したりしているうちに、自家養 成サクラI君および3回生F君と可換環論・代数幾何学ゼミの時間がやってきた。 ゼミの後引き続きI君と携帯メイル演習問題について議論する。

一時はすっかり精彩を欠いてしまっていたI君は、ようやく少し復活したと見 えて、かつての切れ味が戻ってきたようだ。また、Reidの本のある物凄いギャッ プをF君も私も埋められず、とりあえず宿題として残してゼミを終了したのだ が、ゼミの後私とI君が演習問題について議論している傍らで独り考えていたF 君が「できちゃいました」とぽつり。彼がホワイトボードに書き殴っていた数 式だけでは何が何だかよくわからないので、「じゃ、来週説明してよ」という ことになった。この問題については、帰りの電車を待っている時に私も答を思 いついたのだが、来週のF君の発表も楽しみだ。ということで、金曜のゼミの 方はまずまず順調である。

ところで、イタリアでは「可換代数における最近の潮流」という会議に出席す るのだけど、研究発表をしに行くわけではない。自分が発表しない国際会議に わざわざ出かけて行くのはおっくうなんだけど、この会議はHerzog先生が主催 者のひとりになっていて、彼に「来ないか?」とか誘われた(招待講演の申し 出があったという意味ではない)ので何となく「うん」と言ってしまったわけ だ。 今日会議のHPを見てみたら、講演題目の一覧が出ていた。 何だか大御所系の人達の総合講演っぽい話が沢山あるみたいなので、専ら それを聞いて勉強し、できれば彼らと少し議論してきたいと思っている。

自分の研究の方はというと、3月半ばからやってきた計算がどうも思わし くなく「四方を取り巻く分厚い壁を確認しただけ」という感じで、ちょっと途 方に暮れ気味。まあ、たった2ヵ月の計算がうなく行かなかったからと言って 焼け糞になるのは早すぎるか。

2002年5月9日(木)
<< よろしい >>
午後一番から線形代数の講義をやり、引き続き卒研ゼミ。以前、線形代数を教 えている数理科学科1回生のクラスは「行儀が悪い」と書いたけど、それは逆 の見方をすれば反応がはっきりしていて元気が良いとも言える。今のところ、 彼らの特性が良い方に出ているようで、線形代数の講義は活発で良い雰囲気で 進行していると思う。ただし、Joran標準形や二次形式・二次曲面論まで 終らせるという「野望」はほとんど実現不可能な雰囲気になってきている。 前期は行列式まで、後期は線形空間・写像と固有値・固有ベクトルで終るという、 「ありがちな」パターンになりそうだ。

卒研ゼミの方だが、学生達の発表の進み方はやはり遅い。はなだは遅い。 何だか栄養失調気味の蝸牛が京都タワーの頂上を目指してモニョモニョモニョ ふう(一休み)、モニョモニョモニョふう(一休み)、モニョモニョモニョモ ニョ...と登っているような感じで、果てしない道のりのようなものを感じる。

卒研ゼミにオブザーバとして参加している、自家養成サクラI君は最近色々大 変そうなので、あまり刺激しまいとそっとしておいたのだが、ゼミの後で例の 携帯メイル演習問題のいくつかに進展があったので明日にでも聞いて欲しいと 言ってきた。よろしい。心が苦しい時でも、少しずつでも数学に取り組んで行 く事は良いことだと思う。

2002年5月8日(水)
<< 五里霧中 >>
連休明け最初の講義・会議日。「情報処理」「離散数学」と続き、大学院の推 薦入試面接を経て教室会議で午後一杯が終る。

連休前からの悪戦苦闘の計算の中でふと思ったのだが、問題を考えていて代数 的方法や組合せ論的方法で行き詰まった時、その問題を解析的あるいは幾何学 的にとらえ直す、あるいは、(ある意味で)解析的あるいは幾何学的な場合に限 定して、解析や幾何を使って解く、なんて事が出来れば楽しいだろうし、発 見へのチャンスが広がるだろと思う。しかし、私が今考えているような可換代 数の問題って代数的(あるいはせいぜい組合せ論的)にしか解きようがないよう な気がする。これだとは飛車角落しで将棋をやるような感じがして結構苦しい ものだ。

もっとも、純粋数学に転向したのが中年にさしかかる年齢だったこともあって、 代数、解析、幾何、組合せ論等の多彩な方法を自由に駆使して考えられる 分野は手が出せず、方法論が代数と組合せ論だけという可換代数を選んだ わけだから「自業自得」なのだが。 (可換代数が代数と組合せ論しか使えないのではなく、 お前自身が可換代数の問題の中から代数と組合せ論しか使いようの無い ものを選んでやっているのではないか、という批判は十分成り立ちうる。)

それにしても、方法論が限られているからやりにくいだの、代数・解析・幾何 と多彩な方法論が駆使できない分野なんて、そもそも深みに欠けるのではない かだの、という事は全て自らの非力を棚に上げた愚痴・戯言の類でしかない。 今の五里霧中を抜けだし、ささやかでも新しい発見ができればこういう事は考 えなくなるはずである。

2002年5月7日(火)
<< 努力をドブに捨てる >>
4日間の連休であった。この4日間を含めて今年のゴールデン・ウイークは主 に自宅でシコシコと計算をし、大学ノートをずいぶん消費した。それで何か新 しい発見や問題解決の糸口が見えてきたかと言うとそうでもなく、最近少し体 調を崩している事もあって、えらく憂鬱な気分になって終ってしまった。

色々計算をしていて、「こりゃあ、ダメそうだな。もうすぐ壁にぶつかって別 の事を考えないといけない事になりそうだなあ」と思っていると、予想してい た所には壁が無くて、もうちょっと先まで進めたりする。ところが、さらに恐 る恐るずるずる進んで行くと、ずっと奥にやはり壁が見付かる。しょうがない ので、もうちょっと別の事を考えてみる。そしてまた最後に壁にぶつかる。こ んな調子で連休が終ってしまったというわけだ。

K大学大学院に進んだ学生の話によると、超有名数学者である指導教官から 「大学ノートを一日一冊使い切るぐらいやれば、まともな修論が書けるでしょ う」というような事を言われたそうな。一日一冊はちょっと凄いな。私も一日 一冊ぐらいにペース・アップすればうまくいくかしら。いずれにせよ、数学っ てのは目の付け所の良さと、相当の期間の努力をドブに捨てられる覚悟という か、気力というか、無鉄砲さが無いとだめだな。

さて、私の場合今日はまだ講義も会議も無く、正しい数学者ならば断固として 自宅待機するところだろうが、何となく出勤する。自宅で陰々滅々としている のも味のある暮らしかも知れないけど、大学に来た方が気分転換が図れるので はないか。また、今日まで自宅待機を続けて、明日いきなり講義と会議の連続 という一日に突入するのは気分的にもちとキツイのではないか、と思ったから である。

図書館に本を返しに行ったり、手計算している間に気になってきた超複雑な式 を数式処理システムで計算してその意外な結果にちょっとびっくりしてみたり、 S藤先生やK川先生と雑談をして少し気分が晴れたりの一日。

2002年5月2日(木)
<< 何故切れた? >>
本日午後一番に「線形代数」の講義がひとつ。まずまず進む、と言ってもやっ と線形写像がほぼ終っただけで、行列の基本変形にはまだ入れず。昨日「ブチ 切れ」て居眠り学生どもを追い出したクラスなのだが、昨日の喝(!)が効いた のか、今日の彼らは講義中質問など気軽に発してきたりしてなかなか良い雰囲 気であった。

それにしても、大学において講義中に居眠りをしたからと言って教師に一 喝されるなんて事は普通無いのではないかと思う。私も私語で騒ぐ学生はビシ バシつまに出して来たのだが、居眠りについては「寝る子は育つ」と大目に見 てきた。工学部の一般教養の講義などでは、はっと気がつくとクラスの7割ぐ らいが「爆睡」していることがあったが、「あれあれ!ま、いいか」と澄まし ていられた。ところが、昨日は本当に我慢ならずにブチ切れてしまったのだけ ど、何でそうなったのだろう?と色々考えてみたりもするのだが、いまひとつ 良くわからない。

ひとつの推察としては、講義内容が「Cプログラミング」だったからだ、とい うのがある。私としては余り興味の持てない内容を教えているわけで、半ば無 意識に「かったるいなー。こんな下品な話なんか、どうでもええやん」とか思いな がらも我慢してせっせと講義しているらしいのだ。それでもって教師のそこは かとない倦怠感が伝染した学生達がひとりまたひとりと寝始めて、さらに世間 ではゴールデンウイークだとか言ってうかれていてという背景が付け加わると、 もう「切れる」しかないのではないかと思う。

2002年5月1日(水)
<< 切れる >>
世間はゴールデンウイークだと騒いでいるものの、我が立命館は暦通りの休み さえも取らず(29日は営業日)「ダイナミック・アカデミック」な日々を邁進 中である。で、昨日は太陽暦の上でも立命歴の上でも休日ではないのだが、講 義も会議も無いということで高飛車に自宅待機日をぶちかまし、数学者気分を 満喫する。こういう時に高飛車に構えないと自宅待機日にできないところが、 まだまだ私は未熟者と言わざるを得ない結縁であろう。

本日午後一番から「情報処理」と「離散数学」の講義。前から気になっていた のだが、今年の新入生は去年のそれと比べて少し行儀が悪いような気がする。 今日の「情報処理」の講義ではっと気がついたら4分の1近くがすやすや居眠 りをし、4分の1が意識を失いかけている始末。私は思わず切れて、以前から 「情報処理」でも「線形代数」でもいつも最前列に座っていて最も行儀が悪い K君をはじめとする数名を叩き起こし、炎の剣幕で教室から追い出してやった。

ところで、色々な情報から、自家養成サクラI君はいまや数学をやっていられ る精神状態でないこと、かと言ってカウンセラー等の専門家の手助けを要する ような大袈裟な話でもないことがわかった。要するにしばらく放っておくしか ない。