2003年5月30日(金)
<<自分を滅茶苦茶にする>>
午前中は山科駅前SBUXにて、ドイツ語の予習を少しやってから、懸案の論文を 眺める。”懸案の論文”とは、半年ぐらい前に「そういう問題を考えているの でしたら、私の論文が参考になると思いますよ」とある人から送られてきたも の。その時は読んでみてもさっぱりわからず、どういう風に私の研究の参考に なるのかも理解できなかったので、ずっと放置してあった。しかし、2,3日 前にふと、「もしや」と思い当たるフシがあって読み直す気になったのである。 まあ、ものになるかどうかは今の所全然わからないけどね。

午後から出勤。PC環境改善お下品プロジェクトでもやろうかと思ったが、 昨日が巨大雑用で潰れたから、今日は部屋でもやもやと数学を考えてすごすこ とにする。夜はゲーテでAndreas Dresenとかいう旧東ドイツ出身の監督の映画 祭をやっているので、"Halbe Treppe"(階段の途中で)という何だかスカッと しないストーリの映画を見に行く。

そういえば以前ゲーテの講座の中で、ドイツ映画「アメリカの友人」を見 せてもらったことがあった。腕のいい善良な額縁職人が、病気をきっかけに 妻の心配をよそに巧妙に悪い人達に騙されて犯罪にかかわるようになり、最後は追手から逃げな がら病死するという、思いっきり気分を落ち込ませて自分を滅茶苦茶にしてみ たい人にはうってつけの映画だったと思う。ゲーテの先生が言うには、ドイツ の映画は社会や人生の暗部を鋭く、かつ、ねちこく描いたもの、言い換えれば スカッとしないものが多いそうである。

2003年5月29日(木)
<<代数・解析・確率論>>
午前中は山科駅前SBUXにて、ヘビーなドイツ語の宿題に励む。午後から出勤。 今日は本来研究日のはずだが、巨大雑用に忙殺され、「自分が埋められる穴」 をせっせと掘り進める。

夕方やっと片付く。引き続き情報処理のレポートの整理作業。A4の紙に 「ディレクトリって何ですか?」とか「ls -a コマンドの意味がわかりませ ん」といったことが一行だけ書かれているような愚にもつかないレポートばか りであるが、情報学科時代に嫌という程採点したマル写しレポートよりもうん とマシである。実際、いつも変テコな疑問ばかり書いてくる学生もいて、 今週はどんな事を書いてきてるんだろうと、ちょっと楽しみだったりもする。

途中K川先生の友人にして丸刈り同盟のK氏がちょっとした問い合わせに 現れ、そのついでに、先日自家養成サクラI君に「K先生の専門 は、代数、解析、確率論のうちのどれですか?」と聞かれたという 話をしていった。何故幾何が抜けてるんだとか、何故確率論が解析とは別になって るんだとかパニックになるのは教師だけで、学生達からは案外そういう風 に見えているのかも知れない。実際、卒業研究の志望分布はこの通りだしね。

2003年5月28日(水)
<<宇宙の原理>>
本日午後一番は工系線形代数の講義。行列式の定義、サルスの公式、および行 列式の1,2の性質と実際の計算例など。150名規模のクラスを私語無しで 90分ぶっちぎるのは大変な仕事である。講義を放棄して後ろの方で騒ぐよう な真正アホ学生は今のところ皆無だが、近くに座っている友人とちょっと何か 言葉を交わしている学生は多い。大規模クラスでそういうのを放置しておくと、 全体にざわざわしてしまってどうしようもない。見つけ次第追い出すのも酷な 気もする(その温情が命取りになるかも?)ので、「そこの君たち!何か議論 してるみたいですが、質問でもあるんですか?」とすかさず詰め寄ることにし ている。本当に質問があればおずおずと質問してくるので丁寧に答えれば良い し、そうでなければ彼らは(しばらくは)静かになる。

2回生になるとぐっと大人びて頼もしくなっ てくるのだが、大学1回生というのはやはり子供である。子供の相手というの はつくづく大変だ。そもそも150名の子供を寿司詰めにして90分間大人し くさせておくというのは、何か宇宙の原理に反しているような気もするな。

少し間をおいて教室会議、ひきつづきカリキュラム改定委員会。いずれの 会議でも頭の痛い議題の目白押しであるが、カリキュラム委員会で、私が(あ まり真面目に考えたわけではないけれど)ひょっとして解決不能ではないかと 心配していた問題があっけなく解決したのはちょっと嬉しい誤算。

それから、私は立命館の在職中に一度でいいから3回生の講義科目を担当 してみたいという密かな夢を持っていて、今回のカリキュラム改定にほのかな 願いをかけていたのだが、その夢の実現はさらに遠のく事がほぼ確定した。3 回生の講義科目はその学科の基幹科目が並ぶのが普通だが、情報学科時代でも 数理科学科に移ってからでも私がそれらの担当にならないのは、私の専門がビ ミョウだからである。会社員時代からそうだったけど、私はどうやら「ビミョ ウな専門分野で物事の隙間を怪しく徘徊する」という星の下に生まれてきた ようである。それはそれで気楽な生き方だからいいんだけどね。

今まで1,2、4回生と院生に講義してきて、彼らがどんな感じ かは大体掴んでいる。(各回生それぞれずいぶん違った雰囲気をもっているもの だ。)しかし3回生だけは欠落してしまっている。すると、学生というのはどう いうものかという全体的なイメージを形成するのが何だか難しい。彼らにどう いった教育をしていけば良いかという考えも、いまひとつまとまらない。 ま、まとまらなくってもいいか!

会議と講義の合間はMathSciNetで論文検索したり、論文を読んだり。10 日ぐらい前から詰まっていたある論文のある箇所がやっとわかったので、その 先を読み進む。

2003年5月27日(火)
<<大人は皆emacs?>>
本日午後より2回生離散数学と1回生情報処理の講義。その直前にPC環境改善 お下品プロジェクトの一貫として、FFFTPをダウンロードしてインストール。 5分で完了。本日のプロジェクト作業はこれにて終了。これでファイル転送が グンと楽になり、あわせてFeeBSDマシン上で行っていた日誌の更新作業も Windows2000マシン上に移行しようかと思う。

こうやって着々とUNIX離れ(正確にはFreeBSD離れ)を進めている一方で、 情報処理の授業などで「何故大学の情報処理演習でUNIXをつかうんですか。 Windowsの方が便利じゃないですか」という質問に対して色々(歯切れの悪い) 答えを示しつつも、(それでも納得した顔をしない学生達に対し)基本的に 「うるさい。子供がごちゃごちゃ言うんじゃありません!」 というスタンスでいるのである。まあ、子供の時からハンバーグば かり食べてると歯が弱くなってしまうし、子供の時から便利な事ばかりに浸っ ていると馬鹿になっちまうよ、という程度の意味なのだが。 さらに、emacsよりもWordの方が便利だと主張してはばからない学生に 対しては「君も大人になったら、きっとemacsの方が便利だと わかります」という意味のことを答えるようにしている。

何か、こういうのって全然サイエンスじゃないな。

2003年5月26日(月)
<<自分が埋められる穴>>
午前中は厳しく再教育中の自家養成サクラI君の院ゼミ。ようやく多項式写像 云々を終え、アフィン代数多様体の定義へ。M. Reidの毒気の一貫としてさら りと示されているアフィン代数多様体のハイブローな定義でキリキリ舞いし、 アフィン代数多様体の関数体の定義の所で沈没。しかし、彼はこの一週間自宅 に籠って打つべし打つべし打つべし打つべし(以下5600回くらい繰り返し) の日々を送っていたらしく、以前より少しぴりっとしてきたようだ。この調子 で打つべし打つべし...

昼食はこれといった理由も無しに、La Pauseでカツカレーを食べる。 流石に夕方になっても胃がもたれている。先日密談のため味が 分からなかった天ざるセットの"敗者復活戦"にすればよかったと、少し後悔。

昼休みは某先生とカリキュラム改訂についての密談を少し。何だか、自分 が埋められる穴を自分で掘らされている気がしないでもないが、他人が掘った穴に 埋められるよりはマシかなって感じ。

午後は卒研ゼミ。ネーター正規化定理と整拡大の上昇定理をやっつける。4回生 としてはかな りの難所のため、流石のT君も苦戦気味。ま、この部分をサラサラと理 解されちまうようなら、教師の私は商売上がったりなんだけどね。

2003年5月25日(日)
<<愛着の一冊>>
野暮用の日曜日である。気がついたらもう夜。夜はドイツ語作文を少し。 その後、ぼろぼろになって壊れかけているBruns and Herzog "Cohen-Macaulay rings"を接着剤を使って補強修理する。この本の補強修理はこれで2回目である。

ぼろぼろになるまで読んだ本というのは愛着が涌くものである。学生時代にも そのような本が何冊かあったが、一番よく読み込んだのは何と言っても「可換環論」 (永田雅宜)である。べつに可換環論が好きでそうなったのではなく、 2回生の頃、3回生達がやっていたHartshorne "Algebraic Geometry"の 自主ゼミに参加したところ、皆「可換環論は常識ね!」って感じで議論している のにびっくりして、まず可換環論を何とかしなくてはと思って必死に読んだのである。

上記"Cohen-Macaulay rings"は95年の9月に買ったのだが、まだ計算機 屋だった当時としては猛烈に難解な本に思えた。昔読んだ永田の「可換環論」 に書かれているKrull流のイデアル論の世界が可換環論だと思ってたのだが、 その後ホモロジ-代数が大幅に取り入れられてこんなに難しい学問になってし まったのか、と溜息が出たものである。とにかくこんなものは自分には理解不 能だから、ただ眺めるだけにしておき、趣味の読書の一貫としては、暇ひまに 寝っ転がって読めそうなCartan and Eilenberg "Homological Algebra"で心温 まる思いでもしていようということになった。

しかし、1年後の96年の秋に、「色々ヤバくなってきたため」理解不能だろうが 何だろうがとにかくこの本を読んで数学者のフリをしなければならなくなり、 ちょうど数理研の長期研究員として半年遊んでいられるチャンスを手に入れたので、 半年間毎日朝から晩まで湯川記念館の3階に篭ってこの本と格闘した。

それやこれやがあって、今でもこの本の全ての部分がスラスラ分かるわけでもない けれど、なんとなくわかっちゃってる気分でいる自分が恐ろしくもあり、不思議でもある。 そんな色々な思いが一杯詰まった愛着の一冊、座右の書なのである。

2003年5月24日(土)
<<バトルとしてのドイツ語講座>>
あっぷあっぷのドイツ語講座は、今や私にとってバトルの場である。 先週も反省したように、ドイツ語講座がきっかけとなって毎日が 「明日のためにドイツ語を打つべし!打つべし!打つべし!打つべし!」 となってはいけないのである。普段は宿題、予習、独作文を細々と続ける にせよ、基本的には土曜日だけの短期決戦にとどめなければならない。 さりとて、例え苦戦を強いられようとも、「負けっぱなし」というのはお天道様が (本当は自分が)許さないのである。 嗚呼、ゲーテの講座と言えば、以前は平和そうな顔をして楽しく通っていたような 気がするのだが、「楽しさ」なんて言葉はとんと忘れてしまってるな。 「スリル」「サスペンス」「手に汗握る緊張感」といった言葉の方がよく似合う。

さて、本日の出席状況。先週”お試し”で受講して Ich ueberlege es mir noch einmal. (もう一度よく考えてみます)なって言ってた人は予想通り辞退 したようだ。お美人、ハンサム、哲学女史その1その2、ベルリン主婦はもう 来ないものと思われる。受講料は決して安くはないのに、もったいないお化け が出るぞ!殴り込み通訳は珍しく休み。そして、本日出席の数学者になりたかっ た技術者、謎のニコニコ主婦、ドイツ秘書、ロートレック嬢、謎の音大主婦、 硝子職人、ドラえもん、輝くフリータ、印哲、松下巨漢社員、清少納言、塾屋ら は、どうやら常連メンバーとして定着したようだ。

この中で清少納言がどうやら実力ダントツのようで、 嬉しがり屋の性格も手伝って、 うかうかしていると「はい、この問題わかる人!」という”競争入札” の時には彼女が全部真っ先に答を言ってしまいそうな勢いである。 私としては、「誰かそいつに猿轡をして柱にでも縛りつけておいてくれ!」 と言いたい気分である。

それ以外にも、自主留年してこの講座は2回目という松下巨漢 社員も油断ならない。休憩時間にはコカコーラ片手にケーキなどを バクバクほうばって元気一杯に怪気炎を上げている(私は彼の心臓、 肝臓、および動脈硬化が心配なのだが。糖尿病も大丈夫かなあ。 お互いもういいトシだから体には気をつけようぜ)。自主留年なんて余裕こい てないで、さっさと上級クラスでも行って(私のように)あっぷあっぷして ろ!と言いたいものだ。

さらに数学者になりたかった技術者氏は、こういう場所 で常に抑制のきいた立ち振る舞いができる立派な紳士であるが、 ドイツ語学習に対する気合の入り方が尋常ではなく、「何でそんな妙 な単語まで知ってるのよ!?」という状態なので全く油断ならない。 実力は清少納言に匹敵するものと思われる。

等々大変なメンバーが揃っているのである。

疲労困憊のゲーテの後は、山科駅前SBUXで頭を冷やし、夕食後 はラクト・スポーツクラブで再び疲労困憊。  

2003年5月23日(金)
<<甦る巨大雑用の悪夢>>
午前中は山科駅前SBUXにてドイツ語の予習。昼から出勤。イタリアからメイル が届いており、4月1日に日本から送った資料が今週届いたとのこと。何かこ ういう事ってよくあるような気がする。ドイツと日本の間も1週間ぐらいの 事もあれば50日ぐらいかかることもある。同じような郵便物を複数同時に送っ ても、他のものは1週間で着いても一つだけ2ヵ月ぐらいかかったこともあっ た。原因は郵便物が一旦ドイツやイタリアの郵便局内に入ると、税関だの何だ のでずっとそこに滞ったままになる事にあると思われる。

イタリアからのメイルでは、資料はメイルで送ってもらった方が処理がし やすいからそうしてくれとあった。何だ、そしたら始めからそうすれば良かっ たと思うのだが、私はgzip, uuencode, uudecode, tar 等は普段あまり使わな いので、色々実験して使い方を確かめたりしているうちにずいぶん時間を食っ た。

さてと、イタリアの件は片付いたし、じゃあ夕方まで読みかけの論文の続 きでも読むか、とお茶を汲みに学系事務室に行くと、ポストに教務課から雑用 の素が届いていて、思わず昨秋の巨大雑用の悪夢が甦る。かくして夕方まで、 せっせと雑用に励むこととなる。昨日座敷童S太郎君に手伝ってもらって整備 した、Meadow + 漢字環境が早速役に立つ。

2003年5月22日(木)
<<大学教授になった気分>>
午前中は山科駅前SBUXにて論文原稿の最終チェック。午後から出勤。生協レス トランLa Pauseで、図らずしもAr先生と密談をしながら昼食をとることとなる。 密談をしながら昼食をとるなんて、何だか本当に大学教授になった気分だな (ま、本当に大学教授なんだけどね)。La Pauseの昼はいつも数人で密談 --- 私には「歓談」とは思い難いのだが --- をしている教授達のグループがひし めいている。私はそこで(独り、あるいは誰かと歓談しながら)食べる時はいつ も「密談しながらメシ食ってうまいんかよ〜?!」と不思議に思っていたが、 自分が彼らのようになるとは思わなかったな。で、今日の昼食はうまかったか というと、「味がよくわからなかった」。

部屋に戻ってからは、昨日の夕方K川先生から依頼されたある種のイデアル の例が昨夜見付かったので、Macaulay2で確認してからメイルで送る。次に原 稿に少し修正を加えてHerzog先生にメイルで送ったり、昼の密談関係の雑用を したり。その後、PC環境改善お下品プロジェクトを再開。今日はMeadowのイン ストール。30分程で完了し、これにて本日のプロジェクトはひとまず終了。 その後はドイツ語の予習など。

夕方、メイルで連絡しておいた座敷童S太郎が現れ、Meadowの漢字環境の設 定ファイルを届けてくれる。ついでに、Macaulay2に付属していたGNUemacsと の厄介な不整合問題も解決してくれた。その後、消去理論についての議論を持 ちかけられて、しばらくああでもないこうでもないとやる。何だか知らないが S太郎は自分の疑問が晴れたらしく、ホクホクして帰って行った。ああ、学生 とこんな議論ができるなんて、(密談とは違った意味で)大学教授になった気分 だなあ。この過程で20年前の学生時代に卒研ゼミで読んだD. Mumford, Algebraic Geometry I Complex Projective Varietiesの一部分をもう一度読んでみたくなった。

2003年5月21日(水)
<<ラクチン>>
昼前に出勤。午前中は情報処理のレポートの整理など。午後は工学部1回生線 形代数。今日は置換の部分をほぼ終える。次週はおもむろに行列式の定義に入 る予定。行列式に入ってからはかなり丁寧に説明しているので、本日の進行は 2ページ弱にとどまる。とは言っても、置換のあたりからの高校数学とは毛色の 違った議論について行けなくなって、脱落する学生がちらほら出始めるようだ。今 日は150余名中数名がこらえ切れずに眠り込んでいた。

その後少し間をおいて教室会議。引続きカリキュラム改訂委員会。委員で はないけれど、K川先生も乱入して大騒ぎ!?大学で(私の言う意味での)野暮 で下品で野蛮な授業を行ってはいけないという共通認識が未だ形成されていな いので、「野暮で下品で野蛮な情報処理の演習を廃止せよ」などという意見の 提出は勿論見送り。

私にも身に覚えがあるけど、あのぐらいの年格好の子達に「頼むからオリ コーにしてて、ゆめゆめ阿呆面に見えてしまうようなみっともない真似はやめ てくれ!」と言っても無理だろうな。だから、せめてそういう場面を作らない ようにした方がいいと思うんだけどね。ま、世の中の流れが変わるのを、じっ と待つことにしよう。

Herzog先生から論文の最終提出版を書いたからチェックせよとのメイル。 共著論文の場合、実際に執筆作業をするのは普通は年の若い方じゃないかと思 うのだが、Herzog先生は60才を過ぎても自分でTeX打って論文を清書するんだ から、結構マメな人だな。(実験系の学問だとこういう事はまず無いと思うけど。) お蔭で私はラクチンだけどね。

2003年5月20日(火)
<<野暮で下品で野蛮>>
昼前に出勤。部屋で昼食をとりながら、MathSciNetで色々検索して遊ぶ。午後 一番から2回生離散数学と1回生情報処理の講義。情報処理の方は、今日は特 別に演習室で"プログラミング体験実習"。 C言語の内容はまだ何も説明してないのだが、 プログラミングというのは具体的にどういう作業かを さらっと一通り体験して、大体のイメージを掴んでもらおうというもの。 私の一週間は、月曜午前の 院ゼミにはじまり、卒研ゼミ、離散数学、情報処理、工系基礎数学、会議と流 れ、木・金が研究日となっている。院ゼミから会議への流れは、奇しくもこの 順番に疲労度が高くなるように並んでいる。

下品な情報処理とマスプロ授業の工系基礎数学のどちかが疲れるかは微妙 な問題である。情報処理はその下品さに気が滅入るが、回復は比較的早いよう な気がする。マスプロ授業の(精神的疲れが微妙に絡み付いた)肉体的な疲れの方 が後に引く。

情報学科時代から一貫して一番嫌いなのは(計算機の)演習の授業である。 演習は学生に課題をやらせておいて見張っていれば良いのだから楽で良いと、 好んでやりたがる教員も少なくないが、まったく気が知れない。

何故(計算機の)演習の授業が嫌いかというと、ずばり学生達の阿 呆面を見たくないからである。勿論演習に真面目に取り組む学生達 も少なくないが、多くはやってもみないうちからハナっから何もする気が無い。 そして、ネットサーフしたりお喋りしたりして遊んでいるだけである。これを 演習という状況の中で眺めると、これほど学生が(本当に阿呆かどうかは別と して)阿呆に見えてしまう場面というのはそうざらに無いのだ。そして、一時 的であれ「自分はこんな情けない連中の相手して人生を浪費しているのか?そ んなはずない!嘘だろ!嘘って言ってくれー!わーっ!」って気分になる。 (計算機という玩具の無い教室で行わ れる数学の演習の場合、学生達はただ石のようにちぢこまって死んだフリをし ているだけだから、阿呆面には見えないと思う(担当したことが無いから 詳細不明)。)

学生は一人の人間として色んな顔を持っているはずである。オリコーな顔 も、そして阿呆面も。そうした中で、ことさら阿呆面だけをきれいに露 出し、それを誇張し、そして全身これ阿呆面一色という異常状態を一定時間持 続させるような状況に学生達を追い込み、それを教師としてまじまじと見て いなければなら ない演習の時間なんて、悪趣味にもほどがあると言いたい。これは、起きがけ の寝惚け顔の絵だけを繋合わせて「寝惚け人間A氏の間抜けな日々」というビ デオを作るようなものであるし、太陽の黒点を拡大して「ほら、太陽って真っ 黒でしょ」と言うにも似ている。

どんな聖人君子だって醜い側面、愚かな側面を持っているだろうけど、そ ういうものはなるべく他人に見せないようにする、あるいは、見ないようにす るというのが紳士淑女の暗黙の約束事だと思う。それに逆行することは、露出 趣味あるいは覗き見趣味が支配する恐ろしく野蛮な世界である。

私は大学教育から一日も早く情報処理の演習などという野暮で下品で野蛮な ものが消滅して、学生諸君と紳士淑女としての麗しいおつき合いに終始できる 時が来るのを願ってやまない。しかし、残念ながら時代の動きはそれ とは逆の方向に向かっている。そして見たくもないものを職務として見なければ ならないのだ。

2003年5月19日(月)
<<打つべし!打つべし!>>
本日午前中は、サクラ質問ができずに要再教育!と判定された自家養成サクラ I君の院ゼミ。多項式写像のところからなかなか先に進まない。やる気が無い のならそのままそっとしておけば良いけれど、そうでもないみたいだから、そろ そろ「とろーりとろり」のペースを改めるべく努力させなければならないと判 断する。I君は"明日のジョー"にほんの少し似ているような気もしないでもな いので、「君はどうも予習の詰めが甘い。ゼミの予習の極意は『明日のために 打つべし!打つべし!打つべし!打つべし!』に尽きるのだ」云々との教育的 指導を行う。

午後は卒研ゼミ。ネーター環の準素イデアル分解の残りを片付け、整拡大 および正規環を終え、ネーター正規化定理とその応用の所に突入。代数的独立 性と超越基底の定義など。このあたりの話は難関なんだよね。

2003年5月18日(日)
<<眠り病>>
今日は野暮用と昼寝の日曜日。 夜寝る前に本などを読んでたりして、少しずつ夜更かしをしてたのが蓄積して、 それが昼寝パワーとして一気に噴き出したような感じであった。 うとうとと目が覚めかけたときには、横になったまま先日から読んでいる論文の よくわからない部分について考え、考えてもわからないのでまた眠ってしまう、 という事を繰り返す。結局今日は疑問は晴れず。眠り足りたかというと、まだまだ いくらでも眠れそうな気がする。

夜はドイツ語の宿題を淡々と、あくまで淡々と!、こなしたりする。

2003年5月17日(土)
<<ゲーテの罠>>
ゲーテとスポーツ・クラブの日である。 ゲーテの方は、本日とうとう20人目の受講生が入ってきた。 ただし、今日は”お試し”らしく、来週から続けるかどうか先生に 聞かれて, Ich ueberlege es mir noch einmal. (もう一度よく考えてみます) なって言ってたから、どうなるかわからない。  それ以外では、 数学者になりたかった技術者、 謎のニコニコ主婦、 ドラえもん、 ドイツ秘書、 ロートレック嬢、 謎の音大主婦、 殴り込み通訳、 塾屋、 輝くフリータ、 清少納言、 松下巨漢社員、 印哲が出席。 お美人、ハンサム、哲学女史1および2はGW前から休みっ放し。 硝子職人も珍しく休み。 なぜかベルリン主婦は、講座が終わってからやってきて宿題だけ提出していた。

小人数クラスでひとりずつ順番に当ててもらってゆっくり答えられた下級クラスと違い、 中級後半のこの大規模クラスでは一部競争原理が採り入れられており、 「はい、この問題わかる人!」と我先に競って答を言わねばならぬ場面もしばしば見られる。 自分でも分かっていた答を一瞬の虚を突かれて誰かに先に言われると悔しいし、 自分が分からない答を誰かが答えたとしてもやはり悔しい。どちらの場合も悔しい から、いつも悔しい。証明終り!という風に、場合分けによる証明が完成してしまう。 この背景には、無理矢理飛び級によってかなり背伸びを強いられている事がある。 いずれにせよ、こうなるともう完全に”罠”にはまっていて、くっそーお! 今晩から毎日ドイツ語三昧の必勝体勢を敷いて巻き返しを図るぞおー! なんて事を考えてしまっている。

はてな?お前さん、ドイツ語三昧なんかやってていいのか? 数学はどうするんだい。いかん、いかん! こういう所で煽られて熱くなっててはいけないのだ。 ドイツ語は生活の潤い、人生のごく一部と割り切って、 突き放して見るようにしないといけない。とはいうものの、 熱くなった気分はそう簡単に元に戻らないので、 帰りに山科駅前SBUXに立ち寄って頭を冷やす。

人生は有限だし自分の能力なんてたかが知れている。 だから、こういう”負けん気”の制御というのは大切である。 毎週京大で開かれている代数幾何学のセミナーに興味がありながら 参加しないでいるのは、ひとつには”罠”にはまって 「よし、代数幾何学強化月間だ!まずはMumfordのGeometric Invariant Theoryを読むぞ!」 「くっそーお!KodairaのCollected Papersも読まなきゃ!」 「トーリック多様体論と森理論も押さえておかなくっちゃ」etc. なんて事をやっているうちに、人生を棒に振ってしまうのを怖れるからである。

2003年5月16日(金)
<<野暮用>>
午前中は野暮用にて久しぶりに京大へ。 東山から京大正門前までのバスの中で、あれ!?オバケのQ太郎に出て来る小池さん が乗ってる!と思ったら、京大数理研の某教授であった。

野暮用の後、ルネ書籍部で「コホモロジーのこころ」(岩波)なる魅惑的な 名前の新刊書を見付けたが、たぶん読まないだろうという事でパス。あとがき のところに、アメリカには20才そこそこで博士号を取得する人が沢山いるが、 そういう人でその後世界をびっくりさせるような大仕事をする人は稀である、 というような事が書かれていて、へえーと思う。早熟の天才ってよく言うけど、 そうでもないのかしらね。あと、コホモロジーは現代数学の中で最も上品 (sophisiticated)な分野であると書いてあり、然らば下品のチャンピオンとも 言える計算機科学は さしずめコホモロジーとは対極の世界だな、と気づいて納得する。でも、 私はコホモロジーのユーザであって、開発者ではないけどね。

ルネで昼食を摂った後、これまた野暮用にてゲーテの図書室へ。午後の開館ま で1時間程間があったので、空き教室でドイツ語の宿題を済ます。ゲーテの後 は、昨日手に入れた論文を読みながら大学に移動。PC環境改善お下品プロジェ クトの一貫として、今日はpLaTeXのインストールと動作確認。30分余りで終 了。次はMeadowのインストールだけど、頭が悪くなるといけないので、今日は これでおしまい。その後、事務でお茶を汲みに行った帰りに立ち寄った院生室 で、再教育が必要な(サクラ質問ができない)自家養成サクラI君の質問につか まる。M. Reidの毒気に当てられ色々やっているうちに既に夕方になっていたので、メイルを出すなどの 雑用を少ししてから帰宅。