2月21日(月)
今日は修士論文発表会。昨日は「すりおろしリンゴ・角切りリンゴ」と麻 婆豆腐で英気を養ったとは言え、まるで興味の無い広域ネットワークがどうだ、 グラフィカル・ユーザインタフェースがどうだとかいう話に終日付き合うのは やはりしんどいものである。「私は数学者だ!んなもん知るか!」と吠えたい とこどだが、そうも行かない。まあ今年が最後だからいいようなものの。

朝と帰りは何故か同僚H氏と一緒になる。朝のバスの中で先日頂戴した論文 の内容について聞き少しわかった気になり、帰りはきれいな数学 v.s. 根性の ある数学、および殺人会議で生き延びる方法等について雑談する。

溝畑「ルベ―グ積分」は微分の概念の章に入ったが、このあたりからいさ さか苦しくなってきた。寝る前に夢半分状態でチンタラチンタラ読んでたのが いけないのか、このあたりの記述がそもそも荒いのか、読んでいてよくわから ない部分が散見するようになってきた。証明にけっこうギャップがあるような 気がするのだ。もう一寸進めばHilbert空間の話に入れるのだが。

昼休みに、昔読んだ堀川頴二「複素代数幾何学入門」や、買っただけで読 んでないRudin "Functional Analysis"などを眺めて、(もう)一度読んでみ たいなあと思ったり。いかんいかん、しっかり「趣味の数学モード」になって 興味が発散してしまっている。あとは金曜日の卒論発表会と殺人会議が1〜2 回あるだけである。そろそろAvramovに戻らねば。

2月22日(火)
久しぶりに何も無い平和な日であった。午前中に少し雑用をして、午後は Avramovの再精読に復帰する。射影次元3以下の射影分解における次数付 き微分代数構造についてのBuchsbaumとEisenbudの論文を図書館で探し、Avramovのある 命題の証明を解読。要するに以前は次数2の対称代数の構造をよく理解してな かっただけだとわかる。原論文の方は、そのあたりが丁寧に書いてあって助か る。通勤の行き帰りはHartshorn "Algebraic Geometry"を読む。 しばらくはAvramov, Hartshorn並行で行こう。

Hartshornの本は、読めば読むほど解かねばならない演習問題が増える仕掛 けになっている。当面は問題文を読んで心に留めておいて、4月になったら真 面目に解こうと思う。また、このレベルの演習問題は、殺人会議の内職には最 適である。

帰りのバスの中で、Kunz "Introduction to Commutative Algebra and Algebraic Geometry"をちょっと眺めてみる。Hartshornの本よりもはるかに薄 手の本だが、かなり可換環論寄りの内容であるところが私の趣味に合う。学部 レベルの予備知識で読めるように書いてあるようなので、再来年の卒研のテキ ストに使って読んでみたい気もするが、ちょっと難しいかも。何せ数理科学科 の学生のレベルがわからないので、迷うところである。ゼミの方法として、い ちいち学生を吊るし上げて答えるのを待っていたら(それが正しい教育用ゼミ の姿なのだが)日が暮れる。学生が詰まったらこちらがどんどん黒板の前で進 めてしまうという手もある。これだと学生のレベルをあまり気にせずに、卒研 にかこづけて自分が勉強できるという利点がある。

週1回卒研の時間には必ずゼミ室に行ってその本を読むようにする。就職 活動とか何とか言って、学生の出席者がゼロでも一人で読む。どんどん読む。 就職活動が終って学生が現れた時には読み終っていて、「え?卒研はもう終っ たよ。単位は出しとくからね。」と澄まし顔で言う。 なんてことをやってみようかしら。

2月23日(水)
今日も何も無い平和な日であったのでAvramovの再精読。昨日にひきつづき加 群の自由分解の次数付き微分代数構造の部分を考える。しかし用事があったの で、夕方4時過ぎには大学を出て家へ。まだ陽が照っている間に帰りのバスに 乗るのは久しぶりで、変な気分だ。昔「お日様が沈む時社長さんは帰る。はは〜 んいい気持い〜。どうしてお日様が昇るのか?電信柱に聞いてみなっタラタッ タ。はあ〜は〜ん。社長さんはのんきだね〜。」という妙な歌があった。何か のテレビドラマの主題歌だったように思う。「落下傘部隊」というタイトルの ドラマが放送されたり、どういう訳かひと昔前のパチンコ屋でもあるまいに軍 艦マーチと戦艦大和が出てくる(「宇宙戦艦大和」ではない!)テレビドラマ かCMが白黒テレビで放送されたりして、まだ戦後の香りが残っている時代、植 木等のスーダラ節が流行る少し前だったように思う。そういう、十分変な気分 で家路についた。

夜はドイツ語を少し。ここんところ寝る前の読書は「ルベーグ積分」をサ ボり、「日本の司法文化」に続いて愛読書「人生を半分降りる -- 哲学的生き方 のすすめ」(中島義道)を読み直し始める。私は十分「人生を半分降りた」気分 でいるのだが、この魅惑的なタイトルの本によると、そうではないらしい。と いうよりも、全く逆らしい。うーむ、そうだろうか?という疑問が晴れないの で、折りにふれて読み返している。

2月24日(木)
今日は午後から3回生M君とグレブナー基底のゼミ。卒論発表会のOHPを見て欲 しいという学生が2名いたが、ビデオ上映会が効を奏したのかほとんど問題無 し。発表会の練習も全然やってないが、彼らの卒論を見る限り、今年の学生は 割合要領が良いから、そうひどいことにならないだろう。例えひどいことになっ ても笑って済ませばよろしい、とたかをくくる。

あとはAvramovの精読を続行。夜はドイツ語を少し。

2月25日(金)
今日は朝早くから夜まで延々と卒論発表会。我々のセッションは、高山研と佐 藤・原研の学生でほぼ独占状態である。その中でも私は佐藤・原研の学生も何 人か面倒見ているので、結局半分近くが自分の学生である。こうなると、修論 公聴会と違って(!)真面目に聞いて真面目に質問しないわけにいかない。 Javaグループの学生達も、何だかんだと言って皆うまいこと発表していたので 感心した。

卒論の発表の中で、数学のジャーナルに投稿しても良いような内容のもの があったのには大変驚いた。H先生の弟子によるもので、内容的には大道具を 駆使した「きれいな数学」ではなく、何となくH先生の趣味に近い(?)「気合 いの数学」の系列に入るのではないだろうか。思わずMITのフィールズ賞数学 者で組合せ論の専門家ランボー教授が、掃除夫の不良少年Will君の天才を見出 す"Good Will Hunting"という映画の事を思い出した。(ちなみに実際は組合せ 論でフィールズ賞を受賞した人はいない。ランボー教授は、昨年亡くなったカ ルロス・ロタ教授か、リチャード・スタンレイ教授をモデルにしていると想像 している。) 彼は既に数学者の心を持っている。発表を聞いていてとても気持 が良かった。

2月26日(土)
京大ルネで少し余っている予算を消化するための本を品定めした後、昼食を取 り、中央図書館で少し予習をした後、Goethe Institutへ。春のドイツ語短期 講座2回目だ。夕方帰宅。

夜はグリコの「すりおろしリンゴ・角切りリンゴヨーグルト」のCMを再び 見る機会に恵まれた。床屋のオヤジがリンゴ頭の妖怪人間(?)に言っているの は"Qu'est-ce belle tete voulez vous?"(直訳:どんなきれいな頭をあなたは 望みますか?)ではないかという気がしてきたが、自信がない。何で Qu'est-ceであってQuelでないんだろう?とか、teteは女性名詞だったから Quelleの方が正しいんだっけ?とか。あーあ、もうフランス語なんてすっかり 忘れてしまったなあ(元々あまり知らなかったのだけど。)

寝る前の読書はHartshorn "Algebraic Geometry"のスキームのファイバー 積の例を2つ読んだ後、「人生を半分降りる」に移行。体上の代数多様体だけ ではなく、可換環上の代数多様体を考える必要があるらしいということは、ず いぶん昔から知っていたが、それが代数多様体の変形(deformation)の事を言っ ているのであり、スキームのファイバー積でそれが自然に表される事が初めて わかった。

2月27日(日)
「亜麻色の髪の少女」「沈める寺」「水の精」ときたら... そう!ドビュッシー です。2日程前ドビューッシーの名前をど忘れし、ずっと思いだそうとしてい た。私は人の名前をよく忘れるので、そのたびにウンウン考えて思い出してい る。大抵芸能人の名前である。昔「山城シンゴ」(漢字忘れました)を思い出す のに1週間考えた事がある。今度も思いだそうと頑張っていたのだが、どうし てもドビュッシーを聞きたくなって、MDを取り出しカンニングをしてしまった。 これは後味が悪い。今度は挽回してやるぞ!(何を「挽回」するんじゃ!?)

個人研究費が少し残っているので、ドビュッシー騒ぎの気晴らしに、夕方 河原町の丸善に行ってEisenbud & Harris "The Geometry of Schemes"を買う。 丸善に行く途中御池Zestの広場が騒がしいので、のぞき込んでみたら、京都パー プルサンガの選手の握手会。「うお!本物のカズや!」と思わず叫んでしまっ た。思ってたよりも小柄な人であった。帰りは丸善地下の喫茶アサヌマでひと 休み。Hartshorn "Algebraic Geometry"の演習問題を眺める。アサヌマでは Beautiful Sundayがかかっていた。なんじゃこりゃ!?Beautiful Sundayなん て、私が中学生の頃(25年以上前!)の曲だぞ。そういえば、街に出ると私が 学生時代(20年ぐらい前)に流行ったポップスやロックが流れている事はよく あるものだ。

2月28日(月)
朝から京大ルネに行き、個人研究費の残りの消化に努める。予算が余っている とはいえ、つまらない本は買いたくない。代数幾何関係の洋書・和書を5冊、 科学技術英語の本を2冊、あと初等微分幾何の和書を1冊。前から目をつけて いた本がほとんどだ。まだ4000円ちょっと残っている。

大学に戻って3月末に早稲田大学で開かれる数学会年会の出張手続き。今 回なぜか余り気が進まない。何故だろう?関東大地震の前ぶれの予感だろうか? (予感が当たらない事を祈る!) 一番大きな理由は、ここんところずっと忙し くてまとまった研究時間がとれない事がある。人の話を聞きに行くよりも、籠っ てじっくり研究したいという欲求不満がたまっているからだと思う。

その後学系会議。あすの午後はまた殺人会議だ。

2月29日(火)
殺人会議の合間にAvramovをすこしやる。また中山の補題だ。「中山の補題に より明らか」というのは、魔法の呪文である。大抵どこにどう中山の補題を使 うのかを理解するのに苦労する。結局今日は答が出ず。簡単な話だと思うし、 これに時間をかけすぎるのも考えものだ。しかし、「中山の補題強化月間」の つもりで、今度はとことん考えて見よう。

と、言いながらもきのう買った小林昭七「曲線と曲面の微分幾何」を眺め る。微分幾何は私のウイークポイントの一つである。学 生時代に松島「多様体入門」をほとんど読んだけれど、今は何も頭に残ってい ないし、曲率とか測地線とか言われると頭の中が白くなる。しかし、代数幾何 でも数理物理でも大域解析でも微分幾何は常識のように使われているみたいだ し、(代数的)代数幾何でも微分幾何から輸入された概念が多いようだ。 てな理由を口実に「逃避行動」しているだけなのだが。

殺人会議は奇跡的に18時に終了。種を明かせば、通常15時50分から やっているのを、今日だけは14時から始めただけのこと。しかし議長が18 時に会議の終了を宣言すると、教員達から軽い歓声のようなどよめきが起こっ た。みんな死ななくてよかったね。

偶然見つけた数学科の学生のホームページに、”純粋数学至上主義者、怨 念の高山幸秀先生”とあった。うーむ。「純粋数学至上主義者」はともかく、 「怨念」はスゴイですねえー。ロウソク頭につけて丑の刻参りでもしようかし らん。

4月から数理科学科に移籍する私を含めた3名の送別会をしてやるから、 都合の良い日を報告せよ、との紙がポストに入っていた。私は送別会には出席 しないから、他の2名の先生の都合だけ考えてもらえれば良い旨を丁重に書い て返しておいた。