バックグンモ


元もと、漫画の「グーグ・ガンモ」が大好きだったから「ガンモ」と命名され たとか。この命名法の安直さは、ゲームのバックギャモンが好きだったから 「バックギャンモ」、それが転じて「バックグンモ」となったことに受け継が れている。「グンモ」というのは、”グングン実力が付く旺文社の参考書”の イメージと、何となく彼のクローンを大量に発生させたらどうなるか?という 思考実験ーー 私はこういう思考実験が大好きであるーー から生まれた「群藻」 というイメージから来ている。 「群藻」という言葉とともにバックグンモ氏の事を思い浮かべていると、

およぐひとのからだはななめにのびる
およぐひとの心臓はクラゲのように透きとおる

という朔太郎の詩を思い出して夢見心地になれるので、我ながら良い命名であると 思っている。

ちなみに、「赤尾の豆単」とか「研究シリーズ」とかいった旺文社の参考書や 模擬試験で「ぐんぐん」実力を付けたのは、団塊世代とその後のシラケ世代ぐ らいまでではないだろうか?私の年代あたりから始まった「新人類世代」では、 何と言っても数研出版のチャート式シリーズ、青春出版のシケ単・シケ熟、そ れに増進会とオリオン(これは今は絶滅したのか?)の通信添削、駿台予備校の 模擬試験が受験界を凌駕していた。その後私の出身校である、当時名古屋の一 ローカル予備校に過ぎなかった河合塾が、東京に進出し”お茶の水界隈大学受 験予備校大戦争”に発展し、駿台予備校の講師が「河合塾の生徒を見たら石を 投げてやりなさい」と言ったとか言わなかったとか。。。なんて20年近い昔 の話を蒸し返すのはやめておこう。

ついでにその昔「面白くてためになる旺文社の参考書」ってコピーがあったよ うな気もする。最近では何事にも「面白くてヤクに立つ」というのが受けるよ うだが、「ヤクに立つ」ことをあからさまに言うのは、何となく下品な感じが してよろしくない。「ヤクに立つ」事が唯一の存在意義である工学部でも、あ まりに「ヤクに立つ」ってな事ばかり言いたがる教授は、三流研究者だと思う ことにしている。(本当は「人間のクズ」ぐらいの事は言いたいのだが、そこ まで言うとカドが立つので抑えている。)

それはともかくとして。

バックグンモ氏は、「計算機を遊ぶ」人である。コンピュータの普及によって 「計算機で遊ぶ」人は今や世にあふれ、コンピュータを専門にする人の中の優 秀な部類の人の多くは「計算機と遊ぶ」。しかし、「計算機を遊ぶ」ためには、 目の前のパソコン、目の前の色々なソフトといった、モノとしての計算機とそ れが提供する現世御利役や遊びの世界だけでなく、それらの彼方に計算機の動 作メカニズムや計算原理が持つ形而上学的広がりを見出す強靭な知性が必要に なる。この「形而上学的広がり」というのは、職業的研究者の世界では計算理 論、離散数学、プログラム理論、アルゴリズム論とかいった名前で呼ばれる研 究分野の論文ネタ の宝庫になっている。しかしながら「論文ネタを探そう」といった、職業研究 者的オゲレツな心性からも、全く自由なところがバックグンモ氏の偉いところ である。(実際彼は、論文を書くことには何の興味も無いようである。) 彼はただその「形而上学的広がり」の中で、数学パズル解法プログラムや定理 自動証明プログラムや、独自のプログラミング言語処理系などを作って、楽し い遊びの日々を過ごしているのである。俗な言い方をすれば、コンピュータを 手に入れた偉大なるアマチュア数学愛好家といったところであろう。

<<註>>
当時は、情報系の大学なんて、バックグンモ氏みたいな「計算機を遊び」たい 学生であふれかえっていているのだと思っていた。しかし大学教員になってか ら、何百人という学生を相手にしているが、そういう学生にお目にかかったこ とはない。そもそも工学部の学生は、モノが全てで、モノの先に形而上学を見 てその世界で遊ぶという考え方はしないのだろう。
じゃあ、形而上学の本家本元である理学部の数学科な どはどうかというと、ここでは計算機はその存在自体がオゲレツなものとして、 注意深く排除されているから、「計算機で遊ぶ」人は育っても「計算機と遊ぶ」 人や「計算機を遊ぶ」人は出て来そうにない。数学科も最近は、Cプログラミ ングの入門とか、数値計算とか、我々からみてつまらない部分だけはカリキュ ラムに取り入れているところは多い。こういう計算機科学のつまらない部分を つかまえて「情報処理教育なんてつまらない」と言っている数学者というのも滑稽で もあり悲しくもある。 たまに計算機代数とか、計算論理学が、これまた伝 統的数学者から見てオゲレツと判定される部分を注意深く取り除いて取り入れ られているが、これとてごく一部の気の利いた大学のみの話である。 私は、ガウスが計算機を手にしていたら、きっと「計算機を遊ぶ」ことに夢中に なっていたであろうと思うのだが。
ちなみにバックグンモ氏は、理学部情報科学学科出身である。