歩く乱闘人間


温厚な善人を絵に描いたような人であります。暴力的な人物でも、乱暴な言葉 を使うわけでもないのですが、にもかかわらず、この人の言動には「乱闘」を 感じさせるものがあります。リングのかぶり付き席で悪役レスラーの場外乱闘 を見るような、わくわくした気持ちにさせてくれます。

あらゆる鬱積した場面に、注意深くねじを巻いた彼をセットしてスイッチをポ ンと押せば、たちまちその物静かな騒々しさで、業も、輪廻も、狡猾に準備さ れた悪魔の企みも台無しになってしまいます。あらゆることを「台無し」にす るすばらしさを教えられるのは、まさにこの人をおいて他にありません。

とくに腕を「巾」の字のように緊張させて、例えば「子供は作るものなんです!」 ーーー これは高山が「○社の安月給で子供を2人も3人も作るなんて、文字 通り”貧乏の子だんさん”ですね。」と悪態をついたことに対する反応 ーーー と力を込めてわめかれたらもうたまらない。たちまち私の脳裏は、巾級数(冪 級数)の無限個の項のようなこの人のクローンたちによってふくれ上がり、巾級数 たちの乱闘場面の白昼夢が私を襲います。

<<註>> 今でも巾級数の計算をするとき、時おり彼の事を思い出してしまいます。