昆虫みたいな人


彼に次の言葉を贈りたい。

あの空虚に見開かれたまなざしは
仮面に隠された水脈を越え
邪教の教えの秘密にむけられた。
彼は、明日を質問攻めにする。

<<註>>:かつて同僚に「○○さんって、誰?」と聞かれて、 「あの昆虫みたいな人」と答えたらすぐに了解してもらえた。 別に彼に足が6本生えている訳ではないが、当時私は「メタファー としての昆虫」という考えに取りつかれており、彼の顔を遠くから ながめては、彼のクローンが「むううううん。むうううううん。」と 鳴きながらイナゴの大群のように襲ってくる想像を楽しんでいたので ある。
当時彼は人工知能の学習理論の研究に取り組んでいた。 研究者の世界には近親憎悪の原理があり、似て非なる二分野の研究者 は互いに他を(あるいは一方が他を)「邪教」呼ばわりし、時に宗教戦争 戦争ゴッコ、はてまた本当の宗教戦争をすることがある。 私およびM博士はプログラム理論屋として論理学を扱い、学習理論グ ループは非単調推論なる、プログラム理論屋から見れば摩可不思議な公 理に基づく論理学を研究していた。非単調推論はプログラム理論屋か ら見れば立派な邪教であり、我々の宗教戦争ゴッコの格好の遊び 相手であった。 ”昆虫みたいな人”は非単調推論はやっていなかったようであるが、 ”邪教屋のケンちゃん”(この人はのちに邪教推論の研究で華々しい活躍をした) 率いる学習理論グループの主要メンバーの一人であった。
ちなみに、邪教メンバーの人と一緒に食事に行くことを、 「ジャコ飯(めし)」と呼んだ。