形容矛盾!?明るい数学青年


「明るい数学青年」というのは形容矛盾である。数学青年は昔から「暗い」と 相場が決まっている。この「暗さ」とは、「あなたの好きなテレビ番組は何で すか?」と聞かれて、「お昼の時報です」だの「テストパターンです」だのと 大真面目に答える式の暗さは必ずしも意味しない。「数学者の目的は人生を楽 しむ事」という言葉があるぐらいで、本人はいたって明るく愉快な人生を送っ ているように見え、事実高らかな笑い声や大はしゃぎなどが絶えなかったりも するのだが、それを見る者にすれば

面白うてやがて悲しき数学青年

といった観を強くすることもまた多い。

女子大学生とのーーちなみに数学科の女子大生ではないーーコンパで気に入っ た子を見つけたので、思わず近付いて肩なんぞをナレナレしく抱いたりして、 「ねえ、ねえ。K-理論って知ってる?」「知らない」「K-理論って凄いだよ。」 で、K-理論の講釈を喜々として続け、「今度一緒にK-理論勉強しない?」と言っ てデートに誘う数学青年。演習で誰かが(自分自身の事もある!)間違えると面 白がって大笑いし、答えを修正したつもりがまた間違っていると、さらに大笑 いし、笑って笑って笑って笑って体が折れそうになって、苦しくなって「誰か 止めてくれ」と言わんばかりにもがき苦しむ数学青年。ーー 何も可笑しくな い事で大笑いする数学青年は多いーー。某女子大近くの「女坂」で、バイクで ウイリーをやって見せ、「キャー!」という女子高生の黄色い声に興奮してさ らに頑張ってひっくりかえり、大怪我をしてしまう数学青年。何故か、数学や るには筋肉を鍛えなければいけないと信じ、梁という梁を見つけては懸垂をやっ て見せ人に自慢する数学青年。正しい数学青年とはこういった人達なのであっ て、スポーツ万能で、夏はテニス冬はスキー、人当たりは良く、バランス感覚 に優れ、くったくの無いどこまでも明るい青年、つまり「歯の白い大学生」で は断じて、ない! はずであった。。。

そういう形容矛盾がピンクのシャツなんぞ着て歩いているような、「明るい数 学青年」の成れの果てがO君である。東京の数学青年は関西の数学青年とは一 味違うのかも知れない。その後、実際O君以外にも、テニス焼けかスキー焼け で年中浅黒い精悍な顔に、黄色いフレームのミーハーな眼鏡をかけ、ミッキー マウスの柄の軽薄そうなシャツを着た若手No.1と噂される数学者や、若い時か らずいぶん女性にモテ続けたという自称「うさ晴らしのために数学をやってい る」超一流数学者なども知ることになった。世の中広いものである。