「ICOT人名鑑」を書いていた29歳の私は、「ただの頭のおかしい会社員」だっ たのだが、この頃の私は結構好きである。学生時代には、「大学を卒業して社 会に出てしまったら面白い事なんて何も無い」と堅く信じていたのだが、計算 機屋の世界がそうなのか、社会というのはそもそもそうなのか知らないが、あ まり人から馬鹿だ阿呆だと言われる事がなくなった点が良い事である。ーー困っ た奴だ、と言われる事は増えたがーー。これは精神衛生上大変よろしい。逆に、 私が認定した人間を除いて計算機屋なんで皆阿呆だ、という気分がみなぎり、 「天下無敵モード」になり始めたのもこの頃である。私は29歳前後に大学時 代に言われ続けて来た「阿呆だ馬鹿だ」の蓄積を色々な形でほとんど全て発散 したようである。旧版「ICOT人名鑑」を読み返すと、良き友人に恵まれ、無敵 モードに入っていた当時の発辣とした気分がよみがえってきて、何とも気持ち がいい。
39歳を前にした今、「ICOT人名鑑」を復刻改訂した。「天下無敵モード」は 私の属性として定着し、ふてぶてしいオジサンぶりが板についてきた観がある が、今となっては誰が阿呆だろうが誰が馬鹿だろうが、どうでもいいような気 分になってきている。「何でもありや!おもろいやんけ」モードに入りつつあ るようだ。改訂版「ICOT人名鑑」にそのことが現れているかどうかは、読者諸 賢の判断に任せたい。