大学院生の指導

     近い将 来数学の院生を担当する可能性が出て来た。しかし可能性があるだけで、実際 に院生を指導することは無いと思っている。今まで情報学科でやってきたが、 他の教員は常時20名近い院生をかかえて四苦八苦しているが、私の場合は情 報学科奉職期間の8年間で6名にどどまる予定である。 そのうち、まともに 研究指導した院生は1名だけであり、それもずっと昔の話である。他 は、公 務員試験の受験勉強をするための時間稼ぎに進学した学生であったり、私の専 門とは何の関係も無い事をやりたい学生であったり、とにかくシステム管理だ けやっていたい学生であったりするため、適当に環境を整えてやってあとは自 由にやらせていただけである。私としては、自分のカーボン・コピーを養成す るよりも、自分とは毛色が違った学生が育つ事が理想だと思ってはいたが、自 分と違い過ぎる学生ばかりというのも考えものではある。

     学問的にまともに院生の指導を しようとすれば、教員自身も常にその分野の研究を行い指導力を保っていなけ ればならない。しかし、私の場合、情報学科においてまともに院生の研究指導をする必 要は無いから、既に興味の無くなってしまった情報分野の研究を続 ける必要性も必然性も無い。という事で、気軽に数学に転向したのである。 学部 の学生と私の専門とは無縁の事を学ぶ少数の院生は今までの蓄積で十分相手 ができるから、自分は数学を研究していましょうという腹つもりである。とこ ろが、数理科学科移籍の話が突然起こり、数学の院生を指導する可能性が出て 来たわけである。数学の学部生相手ならいくらでも指導できる自信があるが、 院生の指導は全く未知数である。実際私は数学で大学院を出ているわけでも、 数学の学位を持っているわけでもないので、私の学生時代の指導教官が私が数 学の院生を指導していると聞いたら、ひっくり返ることであろう。

     しかし、実のところ私は何も心配していない。 将来研究者になれそうな飛びきり優秀な学生なら、私の指導教官がひっくり返 るといけないから、本人の将来の事を考えて国公立大学の大学院に進学させる ことであろう。また、数学教室では情報学科と違って、教員の専門にお構い無 く色々な事をやりたがる学生を相手にする必要は無いようだから、就職希望の 卒研生といえども可換代数とその周辺分野に興味のある学生しか相手にしない。 可換代数は整数論や代数幾何学ほどメジャーではないが、ネーター、ヒルベル ト、デデキントらに始まり、クルル、永田、ザリスキ、セール、グロタンディ エックらの手によって発展してきた由緒正しい正統的数学なのであり、こうい う立派な数学を嫌って「わかりやすくて、面白くて、(就職に)役に立ちそうな」 数学をやりたがるような根性のゆがんだ学生はけしからん!と 口から純粋数学至上主 義の炎を轟々と吹いていくつもりである。 結局可換代数が好きで、研究者になれる程優秀でなくて、かと言って全然勉強 してこなかったので可換代数って話を聞いても何の事だかさっぱりわかりませ んという学 生でない学生だけが、院生として残ることになる。そういう都合 の良い(?)学生は10年に1名いればいいところであろうと予想している。