数理科学科への移籍

     2000年度から数理科学科への移籍が決っているが、さてあちらに移ったら どうしようかと色々思案している。情報学科と数理科学科で一番違う所は、研 究室制度である。情報学科では各教員は○○研究室という町工場を切り盛りす る中小企業の経営者であるが、数理科学科では各教員は私塾の先生である。構 造不況業種の中小企業の経営者は地獄を見るが、私塾の先生は何とか食いつな げる。私は情報学科で構造不況の塩漬けに見舞われて地獄を見たクチだから、 数理科学科に移ってまで、情報学科みたいな研究室を持とうとは毛頭考えていない。 今の研究室は一緒に数理科学科に移籍する同僚教員に二束三文で売り払っ て、晴れて自由な身になろうと思っている。

     私の現在の専門は純然たる代数学で、卒業研究のゼミでは可換環論や代数幾何 学に関連した話題を取り上げたいと思っているが。しかし「数理情報系」とい う全く掴みどころが無いけれど、一応計算機に多少関係した分野の教員として 移籍するのだから、グラフ理論や組合せ論みたいな事を取り上げないとまずい かも知れない。しかし、私の専門を正確に言うと「計算可換代数および組合せ 論」であるし、計算機実験なども行うのだから、その点は問題あるまいと思っ ている。情報学科の場合、提示した卒研テーマが「難しいそうだ」「先生が厳 しそうだ」等の理由で学生に全く不人気な場合、その教員は大変苛酷なペナル ティーを課せられる制度になっている。そこで自己防衛のために、卒研では学生に人気のある ゲームやネットワークやグラフィックスのプログラムを作らせておくことにして 研究と教育を完全に分離し、自分はひっそりと数学の研究をすることにしている。 数理科学科ではさすがにそういう馬鹿馬鹿しい事を強制する制度は無いみたいだから、 堂々と自分の専門を主張しようと思う。

     私の学生時代、4回生のゼミというはし烈そのものであった。まるまる一週間 朝から晩まで考え、準備してもまだ分からない部分があり、それをそのままに して発表すると、教授にぼろ糞に叩かれ、打ちのめされたものである。 こういう生活がまる一年続くのである。これは 9割以上の学生が研究者志望者で、教員達ももその中からひと握りのフィール ズ賞候補者を生み出す事を最大の目的としていた特殊な大学だからであって、数理科 学科でそんな事をするのは全くの見当違いである。だから、卒研ゼミはなごや かなムードで行いたいものである。もっとも民間企業への就職志望者が多い数理科学科では、 卒研ゼミは3か月もできればいいところだろうが。

     講義については、数学の学生は私語をほとんどしないそうなので大いに楽しみ である。学生達の理解の度合についは多少?マークが付くそうだが、自分の学 生時代の事を思うと余り文句も言えない。私は大学を卒業してかなり経ってか ら、ようやく数学がわかり始めたクチだからである。 単に単位を揃えるためだけに教室に出て来ている200名前後の学生達を 相手に、私語と携帯電話のベルの嵐と戦う情報学科の講義をやって きた私としては、数十名程度の私語無し講義というのは夢のような話である。 でも、工学部の学生に対する一般教養の数学の講義はどうしようか?あれはきっ と「学級崩壊状態」だろうし、頭の痛い問題である。学生たちは中学・高校ですっかり数 学嫌いになっているか、あるいは数学を全く勘違いした人として大学に来ている。 こういう人達を相手にするのは大変である。 でも情報学科と違って、問題を共有し合える同僚教員が沢山居る のだから何とかなるであろう。

     こう考えると数理科学科への移籍はいい事づくめのような気がしてくるが、実際に移籍すれ ば色々問題も出てくるであろう。しかし、今しばらくは夢を見て楽しくすごそうと思 う。