ヒューマンインターフェイス期末試験問題2006年度

1.下記の機能を持つ無線操縦式の災害状況調査用小型無人ヘリコプタのインターフェイスを設計せよ.単に図を書くだけではなく,どのような点に注意したのかを文章で説明すること
・上下前後左右斜めいずれの方向にも進むことが可能であるほか,垂直軸周りの姿勢の回転もできるが,水平軸周りの姿勢は一定とする.すなわちこのヘリコプタの下側は必ず地面方向を向いている.

・カメラがついている.
・その他の機能は各自が適当に想定してかまわないが,想定した内容は答案に明確に書くこと. 2.宇宙のかなたにあるA星は大気の成分や気温などの環境が地球とそっくりであり,そこにすむ高等生物Xは人類とそっくりであったが,ただひとつ,このXはコミュニケーションのための音声言語はもっているがその音声言語を書き記す文字が存在しないという点が異なっているとする.この星における使いやすいインターフェイスに関して考察せよ.


解説

1.この問題の最も重要なポイントは上下前後左右回転の4自由度をどう操作するかであり,「対応付け」というキーワードを使って適当な操作用インターフェイスを書いた人には,これだけで30点満点中20点をつけている.操作が1自由度抜けていれば−5点,「対応付け」ないしそれとわかる内容が明示されていない場合には−10点とした.ジョイスティック1本でこの4自由度を操作する方法を提案してくれた答案もいくつか見られたが,ジョイスティックの操作はレバーを倒すものであり,これにレバー全体の上下動を組み合わせることは不可能ではないが,操作性がいいとは思えない.常識的にはレバーを倒そうとするとレバー全体を下向きに押し下げる力も加わるからである.このような問題点がないようにしたジョイスティックであればよいが,さもなければ−5点とした.また,対応付けと書いてはあるが具体性の無いもの(たとえばジョイスティックを前に倒すとどうなるのか,など)は,その表記によって−5〜−15点とした.もちろんジョイスティック以外の操作手段でもよい.ゲーム機などで使われる+型の操作ボタンを提案する人も多かったが,斜め方向の操作がジョイスティックに比べて難しいため,ジョイスティックの方が望ましい.「アクセルとブレーキ」という表現をしてくれた人も複数いたが,車輪の回転を停止すると地面との摩擦で停止する自動車とは異なり,ヘリコプタでは停止したら墜落してしまう.摩擦も使えない状況で「ブレーキ」操作がどのような機能と対応するのかよく理解できないものも多かった.
 それ以外の操作性の良いインターフェイスの設計で10点を稼いでもらえればよい.重要だがほとんどの人が書いてなかったのは,このヘリコプタを操縦するのは初心者なのか熟練者なのか,というポイントである.初心者に使いやすいものと熟練者に使いやすいものとは必ずしも一致しないのだから.普通に考えると,災害状況調査を行うのは一般人ではなく専門のスタッフであろう.だが,災害はいつもあるものではないから,絶えず使っていて慣れているものではないだろう.このような操作者の特性を設定してから議論すれば説得力のある答案になる.ここで,操作に不慣れな一般人が操作することを前提として議論を進めても間違いとはしていない.もうひとつのポイントとしては,フィードバックをどうするかである.普通に考えると災害状況調査用ヘリコプタは目視だけでは操作範囲が限定されるので,カメラ画像,GPSによる位置情報,高度計,速度計などによってヘリコプタの状況をフィードバックをすることが必要であろう.しかし,「これは目視での操作を前提とする」と書いてさえいれば,これらのフィードバックがないインターフェイスでもかまわない.逆に言えば,こう書かずにフィードバックのことも書かないのであればそれは問題があるだろう.ただし,目視で操作すると書きながらヘッドマウントディスプレイでカメラ画像を見ると書いてあった解答は,矛盾しているので減点とした.
 このヘリコプタは実在のヘリコプタとは動作が異なる.そのため,実在のヘリコプタの操作方法を参考にして書いている解答は,大多数が満点にはなっていない.中にはヒューマンインターフェイスのキーワードを次々に並べている人もいたが,本質がどこにあるのかをきちんと見極めていないのであるならば,理解しているとはいい難いので点には結びつかない.もっとひどいのとしては,ヘリコプタの機能だけ書いて,ヒューマンインターフェイスについて全く書いてない答案が8名あった.もちろんそれらは0点にした.少し操作性について書いてはいるが大部分が機能の話の人を含めると20名を越す.何の講義の試験だかわかっているのでしょうか?平均点16.5/30点満点.満点者は9名だけであり,対応付けを正確に書けばよいだけでとれるはずの20点以上が42%しかいないのは残念.実在するものについてのインターフェイスについて述べる設問だと毎年20点程度の平均点となるのだが,実在しないものの設計は難しいのだろうか?そうだとすると将来のエンジニアとしては先が思いやられる.

2.例年と同様に条件設定があいまいな問題だが,どのように解釈してもかまわない.ヒューマンインターフェイスで学んだことからきちんと説明できさえすればよい.唯一の正解など無いのだから,きちんと理解し,正しく考えているかどうかを見ている.今年の問題は去年の問題とよく似た問題であることに気付いてくれただろうか?去年は短期記憶が貧弱なために「外界の知識」に大きく依存しなくてはいけない状態であり,今年は文字が存在しないために「外界の知識」をどのように設置すればよいのかが問われている.今回の試験で最も優れた解答は,「この星の問題は,説明書やスイッチのラベルなど,文字による外部の記憶が利用できないことである.これに対処するためには・・・」と始まるものであった.これは問題の本質をもっとも的確についており,その後も論理的な説明が展開できていた.取扱説明書又はラベルのどちらか一方だけしか問題に気がついていない,ないしは明確に書けていない人が半分以上であった.この2つ以外にも,入力の際に文字が使えない点も問題ではあるが,ヒューマンインターフェイス全体でみると上記2つが最も大きな問題である.もちろんパスワードや暗証番号の入力の問題なども書いてあれば加点している.
 解答の中には一般化できずに具体例だけ列挙したものもあったが,それではあまりよい点は付けれらない.具体例を挙げるのはよいのであるが,ヒューマンインターフェイスのキーワードをうまく使って,一般化して説明していないと,この講義の内容をきちんと理解しているとは認め難いからである.ただ,キーワードを使っていても,具体的な内容が無くて単に列挙しただけであると判断した場合には,点数にカウントできない.もしもキーワードの意味する内容が間違っている場合では,正しく理解していないので減点する場合もあった.「対応付けや制約などは地球の場合と同じでよい」と書いている解答があったが,これは間違っている.
平均点16.6/30点満点.満点者は6名のみ.

A+:5% A:10% B:11% C:35% F:39%
ここ数年では最も成績が悪かった.F評価の半数強は中間・期末のどちらか又は両方受験していないので仕方が無い.こういう人の割合は過去最高だった.できた人は,96点が1名,95点が2名いたのできちんと講義を理解した人はよい点を取れているはず.それに対して,操作性とは無関係な内容を長々と書いている人が1番も2番もいたが,この講義が何をテーマにしているのか全く理解していないのでしょうか?


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Last modified: Fri July 28 2006