ヒューマンインターフェイス期末試験問題2010年度

1.iPadやATM、駅の券売機などで使用されているタッチパネルの操作性についてヒューマンインターフェイスの観点から論ぜよ。
2.宇宙のかなたにあるA星は大気の成分や気温などの環境が地球そっくりであり、そこに住む高等生物Xは人類とそっくりであったが、ただひとつ、色が見えずにすべてモノクロで見ているという点が異なっているとする。この星における使いやすいインターフェイスに関して考察せよ。


解説

1. 最も重要であるにもかかわらず、書いている人がほとんどいなかった項目としては、「機能が多すぎて使いにくいからこそタッチパネルという操作方法を選択している」点と、「手と目とが協調して操作できるため、マウス等のポインティングデバイスよりも直観的にわかりやすい」点が挙げられる。この二つこそがタッチパネルの本質だと考えるが、指摘する人が少なかったのは残念である。特に多機能と操作性の関係は講義で何度も強調したところだけに、気がついてほしかったのだが。
フィードバックについてちゃんと書けている人は多い。しかし、可視化と制約に関してはきちんと書けている人は意外と少なかった。可視化・フィードバック・制約の各項目についてきちんと書いていれば各6点加点したが、単に説明なしに用語だけ挙げてもほとんど加点はしていない。「可視化と対応付けが優れている」などと書いている人もいるが、どこが優れているのか明確に書いていないので、言葉は知っているけれども内容はわかっていないと判断したが、対応付けはともかく、この場合可視化は重要なので、甘く採点して+2点つけた。もちろん説明が間違っていれば理解していないと判断して、加点されない。物理的に見やすいことを「可視化」と混同している例は多数見られた。
題意は「タッチパネル」なのに、例に挙げている「iPad」「ATM」「駅の券売機」固有のインターフェイスに関して書いている人も若干見られた。ある程度タッチパネル全般について言えることであれば加点したが、そうでない部分はすべて採点対象からはずしている。
その他、ヒューマエラーと訂正(戻る)機能、アイコンの視認性、視覚障害者には使えない問題、画面上の配置の仕方など、さまざまな加点項目を用意して、全部合算すると60点を超える採点基準とした。

学生の解答の実例を元に、また採点の実際を説明する。番号は説明のためにつけたものである。
1.タッチパネルは1つの画面で様々な操作をすることが可能であり、その場に応じた対応付けをすることが可能である。
2.また、可視化においても、表示されるボタンを押すと、どのように働くかを同時に表示することで、とても便利なデバイスになると考えられる。
3.だが、タッチパネルのディスプレイ部分が平らであるがゆえ、ボタンを押したときのクリック感や、キーボードのようにキーじたいのかんしょくが得られないといったフィードバックの観点から見れば、使いにくいといえる。
4.フィードバックの問題に関しては、クリック感の変わりに音や光でフィードバックする物もあるが、やはりちょっかん的な判断操作をする場合は、やはりクリック感の方が適していると考えられる。

まず、第1文の途中までは正しいが、特にインターフェイスについて言っているわけではないから加点要素はない。第1文の後半は、「対応付け」というキーワードを使っているが、「その場に応じた対応付け」の具体的な内容が全くないし、この問題における「対応付け」の重要性は低く、何を言いたいのかわからない。内容を理解せずに文の中に埋め込んだだけにしか見えないので加点はされない。
第2文は「可視化」というキーワードを使っているが、「可視化」の意味が正しく理解されていないことがわかる。そのため、ここでも加点はできない。
第3文はフィードバックに関する正しい指摘であり、3点加点した。「じたい」「かんしょく」などの漢字でない部分に減点はしていない。
第4文は第3文とは異なるフィードバックに関する指摘である。厳密には正しくないが、音や光を使う方法に言及しているので3点加点した。漢字の間違い(「変わり」ではなく「代わり」が正しい)は減点していない。「直観的な操作」はキーワードになるが、書いている内容からすると加点要素にはならないと判断された。
以上合計すると、この解答は6点と採点されたことになる。

もう一例示そう。
1.現在、タッチパネルはいろいろな機械についており、広く普及しつつある。
2.その理由としては、ボタンよりも操作性がよいという点が挙げられる。
3.具体的にどのように操作性がよいかというと、タッチパネルにボタンが表示されるので、そのボタン一つで一つのことしかできないようになっている。
4.1つのボタンで多くのことができると、そのボタンで何ができるのか分からなくなってしまうのである。
5.そしてそのボタンで何ができるかも表示することができるので可視化ができている。
6.そして画面が変わると、その場面でしか使えないボタンがまた表示されるので、制約、アフォーダンスがうまくなされ、概念モデルの形成が上手にできるようになっている。
7.またタッチパネルの操作法は、タッチしたりスライドしたりするだけなので、どんな機器についているタッチパネルも操作法に一貫性がある。
8.そしてスライドに関しては、スライドした方向に物が動くので、対応付けもうまくできている。
9.しかしタッチパネル特有の使いにくさもある。
10.例えば、ボタンのさかい目が触っていても分からないことである。
11.ボタンが大きければミステイクは減るが、やはり出っ張っているボタンよりは使いにくい。
12.なのでミステイクを犯してもいいようにフェイルセーフをしなければならない。
13.しかしフェイルセーフの手段もタッチパネルではまたミステイクをしてしまうかもしれないので、フェイルセーフのボタンは出っぱっている普通のボタンの方がよい。
14.または、はなれた場所に表示してもよい。

第1文は、全く不要である。この講義の質問と一切関係がない。もちろん採点の対象外である。こういう無意味な文を書く学生は結構いるが、どうしてなのでしょうか?
第2文は、「操作性が良い」だけではだめで、具体的な内容がないので加点対象にはならない。
第3〜5文は可視化について説明している。説明はややピント外れではあるが、言っていることを甘く解釈すると、可視化についての正しい指摘であると解釈できないわけでもない。そこで6点加点した。
第6文のうち、制約に関する内容は正しいので6点加点した。しかし、アフォーダンスに関しては完全な間違い。減点しようかとも思ったが今回はしていない。概念モデルに関しては、間違いとは言えないが、これでは概念モデルに対して正しく説明して指摘しているとは言えないので、加点はしていない。もっと丁寧に説明していれば加点したかもしれない。
第7文だが、これで一貫性があるというのは無理がある。逆にタッチパネルの動作を一貫性なく作ることだって可能なのだから。
第8文も同じで、対応付けをよくすることもできるが、そうでないようにも作れる。「スライドした方向に動くような対応付けをすることは重要」というような表現ならば加点できるが、「タッチパネルはすべて対応付けができている」と書かれると間違いである。第7文もどちらも、タッチパネルの特有の問題とは言い難いので、「対応付け」というキーワードを書いていてもこれでは加点対象にはならない。
第9文は正しいが、加点対象にはならない。
第10文はフィードバックに関する問題点を挙げているので、「フィードバック」という言葉はないが3点加点した。
第11文は、間違いで、このエラーはスリップである。スリップは集中していれば避けることができるエラーであることがわかれば、このエラーはスリップであるとわかるはずなのだが。
第12〜13文は完全な間違い。「フェールセーフ」という言葉を正しく理解していないことがわかる。ここまで間違っていると減点したいのだがしていない。
第14文は意味が分からない。その前から誤解しているので、その続きらしい。
結局、加点要素をすべて加えて、15点であった。間違った内容もたくさん書いていて減点したいのだが、間違った内容は0点にしかしていない。


平均点15.5点/30点満点.現在あるものに関する出題なので0点はいなかったが、最低点は6点で8名、10点未満が17名もいた。その一方満点は5名。結構甘く採点したつもりなんだが、点数は伸びなかった。全般に留学生ではない日本人も、日本語力の乏しい解答が多い。一生懸命読んで、好意的に書きたかっただろうことを読み取ったつもりだが、論理的ではない文章では結果的に点数が低くなるのは仕方がないだろう。

2.  色情報がヒューマンインターフェイスにどうかかわるかを答えさせる問題。色は、@注意喚起を視覚で伝達する場合、Aそれ以外、に分けて考えるべきである。@の場合には、色情報の代わりにどうすればよいか考えればよい。警報などの場合には点滅や音などをつかうとよいとすぐにわかるだろう。非常停止ボタンを赤色にするなどの例では、点滅や音などは使えないので、正解は一つではない。Aは、講義では色で温度を表す例などを話した。これに対しても正解は一つではない。
 @とAの両方を書いていないと満点にはならないが、片方だけでも十分に考えていねいに書いていれば25点程度は取れるように配点した。注意喚起でも、信号機の場合だけを長々と書いて他に全く触れていないと、点は伸びにくい。やはりどこに色情報が使われているか、それに対してどのような方法があるかを、いろいろ考えて書いた方が点数は高くなる傾向にある。非常停止ボタンの例は一番最後の講義での復習の中でも話したので、もう少し書いてくれる人がいるかと思ったけれども、ほとんど書いてくれていなかったのは残念。ヒューマンインターフェイスとしては信号機よりもこっちの方が重要な課題なので。また、信号機について書いても、それが「危険」にかかわる「注意喚起」であることを明確に書いていないと、「注意喚起における色情報」の加点がしにくい。
 CCDカメラで色情報を取得すればよい、という答案が複数あったが、これではダメ。ではこの生物Xは生まれてからずっとすべてCCDカメラを通さないと物が見えないの?そんなこと常識的には考えられません。例えば人類は紫外領域や赤外領域の光は見えないけど、それを感知できるカメラを使いながら一生過ごすべきだとでも言うのでしょうか?しかも、カメラの色情報はどうやって伝えるのでしょう?すべてのものに色名のラベルか何かつける気でしょうか?地球人の視点の安易な解決方法で、ヒューマンインタフェースの考え方としては間違っている。
 また、「グレースケールの世界でも基本的に生活は問題なくできる」という解答もあった。それは正しいが、より使いやすいインターフェイスを考えるというこの講義の趣旨からすれば、全く何も考えていないということであって、0点にはしていないが、低い点しかつかない。
答案が書きやすい問題だったのか、平均点19.3点/30点満点と悪くないが、満点は4名のみ。5点が1名、6点が1名、8点が4名。

A+:3% A:15% B:21% C:27% F:21%


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Last modified: Sat Aug 7 2010