ヒューマンインターフェイス期末試験問題2012年度

1.自動体外式除細動器(AED: Automated External Defibrillator)の操作性についてヒューマンインターフェイスの観点から論ぜよ。なお、AEDとは、心停止の際に機器が自動的に解析を行い、必要に応じて電気的なショックを与え、心臓の働きを戻すことを試みる医療機器である。救急車の到着以前に一刻も早く使用すれば救命率が高くなることから、BKCキャンパスにもあちこちに設置してある。
2.宇宙のかなたにあるA星は大気の成分や気温などの環境が地球とそっくりであり、そこに住む高等生物Xは人類とそっくりであったが、ただひとつXには聴覚機能が無い代わりに嗅覚が非常に発達している点が異なっているとする。この星における使いやすいインターフェイスに関して考察せよ。


解説

1.「全くの初心者が使うことが前提」「エラーは生死にかかわる」「操作はできる限り早く行わないと生死にかかわる」の以上三点を明確に書いているだけで16点を付けたので、ほとんどの人が半分以上とれていた。ただし、おかしな解答も多かった。初心者なのだから技能ベースのスリップが起きるはずはないにも関わらず、複数の人がそう書いていた。「誰でも使える」という表現はOKとした。しかし、「誰でも操作が簡単であることで有名」と書いていた人がいた。「有名」であってもそれは事実ではないこともあるので、この表現は不正確であり、2点減点した。「有名」などとごまかした表現ではなく、事実は断定して書かねばならない。また、アフォーダンスに関して書いている人も結構いたが、この場合にはアフォーダンスはほとんど働かない。「初心者」と書かずに「パニックになって冷静でない」と書いているだけでは十分とは言えない。多くの人が「制約」についてきちんと説明していなかったが、この問題の場合には「制約」は特に重要で、操作が制約されていれば、ミステイクもせずにすばやく操作できる。そのため、「可視化」「フィードバック」「対応付け」よりも、「制約」の配点を高くしている。また、AEDを使ったことある人が、その使用方法をただ羅列しているような解答もあったが、それがヒューマンインターフェイスとしてどう配慮されている(または配慮が欠けている)かをきちんと説明しないのでは、加点しづらい。
 なお、試験後にAEDのない国からきた留学生に不利なのではないかという指摘を受けた。ある程度はそれは事実ですが、実在の機器に関して問う限りには完全に公平であるということは不可能です。携帯電話に関する出題をしても、携帯電話は持っていないという学生もいるかもしれず、その人だけ多少不利になることはあり得ます。出題時から気にはしていて、そのため問題文にもAEDの説明を加えたのと、実際の操作を知らなくても書ける部分の配点を高めにした。採点後に見ると、留学生だからと言って極端に点数が低いようなことはなかった。
平均点22.8点/30点満点.たいへんできがよかった。採点基準が甘すぎたかとも思ったが、実際によく書けている人が多かった。比較的わかりやすかったのだと思う。満点は22%。一方10点未満の人は5名。

2.感覚への情報伝達の特徴に関して正確に理解していれば難しくないはず。情報をもっとも多く伝えられる視覚がもっとも頻繁に情報伝達に使われるが、その視覚の欠点を補う特徴を持つ聴覚もいろいろなところで使われる。その聴覚が使えない場合に、嗅覚は聴覚代りに使えるかどうかを問うているのであると整理できるならば、書くことは明確になるはずである。こう考えると、もともと視覚が得意な情報伝達について嗅覚で考える必要はない(もちろん考えても間違いではないが、視覚の使う光に比べて嗅覚で使われる化学物質は、移動速度が明確に遅く、どんなに嗅覚が優れた生物であっても、視覚よりも情報量が多かったり、速い情報伝達が可能になるとは思えない)。つまり、視覚の欠点を嗅覚で埋めることができるかを考えればよい。
 問題が「インターフェイスに関して考察せよ」なので、生物間のコミュニケーションに関してはすべて対象外である。しかし、結構書いている人も多かった。たとえば、「ノンバーバルインターフェイスの重要性が高まる」という解答には加点したが、「ノンバーバルコミュニケーション」であれば加点はできない。また、地球でも共通に重要なことを羅列しても、題意からは外れるので、いくら内容が正しくても加点できない。「地球よりも〜の重要性が高まる」という書き方ならば、論理的に正しければ加点した。また、「聴覚によるフィードバック」にだけ限定して書いている解答もあり、奇異に感じた。当然、情報を受け取るのはフィードバックだけではないし、聴覚のフィードバックの中には視覚でフィードバックしてもかまわないものが多い。
 「音による警報の代わりに、においでの警報」と書いただけで10点加点したので、ほぼ全員が10点以上とっているが、聴覚と同様に嗅覚は無指向性であること、すぐに慣れること、風や雨に弱く、室内では逆にすぐに消えずにただよい、伝達速度が低いなどの問題点、視覚や触覚との併用の有無とその得失などまで書いてもらわないと満点にはなっていないので、満点はたった3名のみ。

また採点の実際を説明する。番号は説明のためにつけたものである。
1.インターフェイスに関して、聴覚機能が無いものが使用する際に、人類が用いるインターフェイスを適応した場合、一番の問題になるのが、危険な操作を行った場合、それを警告するために音によるフィードバックができない点である。
2.Xは嗅覚が発達しているので、臭いによるフィードバックを用いる方法があるが、臭いは空気の流れがないと、届き難く、音によるフィードバックよりも知覚するのが遅れてしまう危険性がある。
3.こうならない為に、臭いによるフィードバックだけでなく、ランプ等の視覚や、振動を用いた触覚によるフィードバックと併用するのが望ましいだろう。

まず第1文では、フィードバックだけしか言及していない点は問題だが、警告音の問題を正確に指摘しているので、ここで6点つけた。
第2文では、「においでの警報」とは明示していないが、前の文の続きで「警報」に関してだと読める点、においの問題点としての、空気の流れの問題と伝達速度の問題を指摘しているので、この一文で12点を加点した。
第3文では、視覚や触覚にとの併用に関して、もう少し詳しく書いてもらいたかったが、とりあえず書いているので、7点加点した。
以上合わせて、この答案では25点となった。

違う例も見よう。
1.聴覚機能がないということは、音声で話すことができない。
2.音で説明できないので、作った側の概念モデルと使用する側の概念モデルが一致しなければならない。
3.また取扱説明証やラベルなどの外部の記憶もとても重用になったくる。
4.また映像などで説明する時も、下にテンプレートを流し、ジェスチャーなどで説明する。
5.ボタンなどは押すならとっきがついているとか、引くならドアのぶなどの対応付けや音ではなく感触が残るようなものや押したということを認識させる臭いに発生させるフィードバックが大切です。
6.作業においても、一つ一つ臭いをつけ、危険で逃げないといけないときは、すっぱい臭いや、休憩の合図のときは甘い臭いを出すなどがある。
7.しかし、高等生物Xにも得意な臭いや、苦手な臭いがあると思うのでそれぞれの対応付けも変わってくる
8.例えば、甘い臭いが苦手ですっぱい臭いが得意な人は、危険ですっぱい臭いを発生させても、別になんにも思わず、危機感を感じないかもしれない。
9.また臭いはいろいろなところでしみつくので、かん違いをして臭いを間違えるかもしれない。
10.制約しようとしても、臭いにも数の限りがあり、記憶するのも難しいので現実的ではない。

まず第1文では、インターフェイスについて書いていないので採点対象外である。
第2文は、「音で説明できない」ことと後半との論理的な関係が間違っており、加点できない。
第3文も、第2文と同様にこの星に限定することではなく、加点する要素はない。なお、日本語がおかしい点、漢字が間違っている点は減点していない。
第4文も、どうでもいい内容を書いている。こういう一般化されていない例をだらだら書いても、加点されることはめったにない。
第5文は、日本語がおかしく、なにをいいたいのかさっぱりわからない。ただし、「臭いによる情報伝達」についても書いているので、甘く採点して4点加点した。
第6文は、「危険情報の伝達」に言及しているので、これも甘く採点して6点加点した。
第7文の「対応付け」の使い方は間違っている。第8文も意味がない。
第9文では、嗅覚を使うことの問題点のひとつを指摘しているので、4点加点した。
第10文の「制約」の使い方も間違っている。
以上、だいぶ甘い採点だが、合計14点となった。

平均点17.5点/30点満点。10点未満は5名のみ。

A+:5% A:19% B:29% C:22% F:25%。一番の出来が良かった分、もう少し成績が良いかと思ったのだが、できた人とできなかった人の差が大きかったようだ。中間と期末を合わせて100点満点も1名。すばらしい。


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Last modified: Mon Aug 20 2012