ヒューマンインターフェイス期末試験問題2013年度

1.エレベータの操作性についてヒューマンインターフェイスの観点から論ぜよ。
2.オスプレイとして知られる、回転翼の角度が変更できるティルトローター方式を採用した垂直離着陸機のインターフェイスを設計せよ。単に図を書くだけではなく、どのような点に注意したのかを文章で説明すること。なお、この垂直離着陸機は、回転翼のついたローターの角度を変えることで、回転翼の揚力を用いた垂直離着陸やホバリング(空中停止)が可能なヘリコプターモード、および固定翼の揚力を使って高速移動かつ長い航続距離を可能とする固定翼航空機モードが利用できるほか、ローターを垂直よりも少し前方に傾けて回転翼と固定翼の両方の揚力で上昇する短距離離着陸 (STOL)の機能ももっているものとする。


解説

1.サービス問題。2番が難しい分だけ、1番をわかりやすい問題にしてみた。皆がよく知っているから20行から30行程度の文章を使って多くの項目について書けている人が多い。なので、そういう人はヒューマンインターフェイスのキーワードを正しく使えていれば、20点以上にはなったはず。もちろん10行程度では、その程度の点数にしかならない。また、問題が易しい分だけ、キーワードの正しい使い方については厳しく見ている。
 用語の使い方で一番間違いが多かったのがフィードバック。到着階で音が鳴ったりするのは、その階で降りるようボタンを押した人にとってはフィードバックだが、それ以外の人にとってはフィードバックではない。複数の人が同時に使う機器なのだから、機器からの情報提示がいつもフィードバックになるとは限らない。まあ、この程度なら「厳密にいえば」という間違いなので、加点している。この「複数の人が同時に使う」機器である点を指摘した人はほとんどいなかった。同様に行きたい階のボタンを押すとそこのボタンが点灯するのはフィードバックだが、点灯したことはほかの利用者には、再度押さなくてもその階には止まるという情報提示にもなっている。間違えた階のボタンを押した際のキャンセル機能について書いている人も多数いたが、複数の人が同時に利用するエレベータでは、キャンセルできる機能があるとかえって問題が発生する場合もある。
 また、可視化も間違った、ないしは不正確な表現が多かった。可視化とは「いまなにが実行可能か見せる(わからせる)こと」であるので、単にボタンに階数表示がなされていることは可視化ではない。必要なすべての機能の操作方法がそこに用意されていることであるとわかるような表現でないと、可視化に対して加点できない。階数以外の操作ボタンもあるのだから、ボタン上の階数表示だけでは可視化の例として不適切である。
 対応付けについては書けている人が多かったが、エレベータ外部でエレベータを呼ぶ方のボタンで、「自分の行きたい方向」ではなく「現在のエレベータの位置から見て呼ぶ方向」と間違って対応付けしている人が存在することを指摘できている人がいなかったのは残念。逆に、非常呼び出しボタンを間違って操作することを防ぐために長押しさせる点を指摘した人が予想外に多かったのはよかった。また、エレベータの安全性について書くのはいいが、操作性に関係のない安全性の話は採点対象外である。

採点例を示す。番号は説明のためにつけたものである。
1.エレベータは設置されている場所にもよるが、老若男女様々な人々が数多く使用することを前提にインターフェイスを設計しなければならない。
2.行きたい階が何階なのかさえ分かれば、その階さえ押せば向かうという単純な対応付けが必要である。
3.また階のボタンを押すとその階のボタンが光るなどのアフォーダンスもあると耳が不自由な人などにとってはより良いものになる。
4.さらにボタンの位置は、成人が立った時に押しやすい位置に設置するほか、子供や車いすを使用している人などのことも考慮に含め、低い位置にも設置するとよい。
5.また、階数表示とともに、止まった階の音声案内を入れることで耳の不自由な人にわかりやすい。
6.階数表示も、止まった階で点滅させるなどの可視化における設計も必要になる。
7.老若男女の様々な人が使うため、マニュアルなしでも分かりやすい対応付けと、制約が必要であるとともに、上に記したような例のアフォーダンスや可視化によって、使用者にとって、より分かりやすく使用することができるようになっている。

まず、第1文は、「様々な人が使うものである」という指摘で4点、日本語では正確に書いていないが「同時に数多くの人が使う」という意味であると甘めに解釈して「数多く」という表現に4点加点した。
第2文は対応付けという言葉の使い方が間違っている。これは一つの操作手段が一つの機能に対応しているのでわかりやすいという可視化である。キーワードの使い方が間違っているということは、講義の内容を正確に理解していないということなので、加点できない。
第3文も、アフォーダンスは間違いで、一応2点だけ加点したが、正しくフィードバックと書けば5点加点したのだから3点減点ともいえる。
第4文は書いていることは正しいが、この問題での重要性は低いので、2点だけ加点した。
第5文では、「階数表示」および「音声での階数案内」について書いているので3点加点した。
第6文では、可視化の使い方が間違っており、減点したいくらいだか、減点はしていない。
第7文の前半は第1文で加点したから加点要素はない。その後はキーワードを使っても具体性がなく、わかっているのかどうか怪しいので、加点はできない。
以上合計で15点となった。


平均点20.6/30点満点。もう少し高くなるかと予想していたのだが、キーワードを正しく使えずに減点された解答が多かった。そのため満点は6名のみ。その一方最低は9点1名、10点4名、11点1名。

2.難問。一番のポイントがどこかと言えば、ヘリコプタモードと固定翼航空機モード(それにSTOL機能)の二つ(または三つ)のモードがあって、それを切り替えて使う場合に、ヒューマンインターフェイスとしてどう考えればよいか、である。通常のヘリコプタは操縦桿を前に倒すと前進する(ヘリコプタ操縦における自然な対応付け)。これに対して、通常の航空機は操縦桿を前に倒すと機種が下がる(飛行機操縦における自然な対応付け)。つまり、モードが違うと、操縦の自然な対応付けが異なるのである。このため、混乱してヒューマンエラーが起きやすい。垂直離着陸機の操縦は当然熟練者だから、エラーの中でもスリップが起きやすいことがわかる。このことを考えて設計すればよい。
 ひとつのやり方は、モードごとに違う操縦装置を用意することである。こうすれば、個々のモード中ではスリップは起きにくくできる。ただし、モードの切り替え時に問題が発生しやすくなり、その点の解決策を考える必要がある。もうひとつのやり方は、すべてのモードで共通の操縦装置を用意する方法である。これは複数の機能をひとつの操作手段で操作する方法であり、使いにくかったりエラーが発生しやすいので、よほどいい仕組みを思いつかないとインターフェイス上はよくない。この場合は、全く動き方の異なる複数のモードにそれぞれ対応付けできるかどうか、どうすればよいかを考えればよい。以上のことがすべて書ければ合計39点の加点ポイントを与えている。
 いずれにしてもこうすればよいという明確な回答は存在しない。実際のオスプレイはひとつの操縦装置で複数のモードに対応するらしいが、ヒューマンエラーで墜落したというニュースを見ると、最適解かどうかは疑問が残るかもしれない。
 そのほか、関連するインターフェイスに関する記述で加点しているが、重要性に関しては上記に比べて低いので、加点ポイントは小さい。特にオスプレイ固有ではなく、一般論として言えることは加点ポイントにはならない。たとえば、押したボタンにフィードバックでライトがつくとよい、なんてことは、この問題に限った話ではなく、加点されるポイントにはならない。
 確かに一番重要なキーワードは対応付けだが、モードの切り替えの際の対応付けだけを強調した解答が多かった。重要性は上記の内容ほど高くないので、そのような内容を書いても3〜5点しか加点できない。それに対して、ヘリコプタモードおよび固定翼航空機モードでの対応付けについて書いてあれば、最大13点加点した。この対応付けを正確に書けている人は極めて少なかったが、ここは相当難しいので、大甘に採点した。また、どのモードの操縦なのかを明確に書かないで操縦方法を書いている解答が大変多く、上記の共通の操縦装置であると想定して採点したが、その場合には対応付けの説明が不正確なものが多く、そのために上記の対応付けの加点を十分にもらえない解答は多かった。あと、このオスプレイの自由度が4である、と書いている人が結構いて驚いた。もっと驚いたのはヘリコプタモードでは前後に移動しなくてよい、と書いている人。着陸地点から少しだけ横にずれていたらどうするのでしょう?通常ヘリコプターは姿勢も入れて6自由度あります。それに対して固定翼航空機モードは4自由度になります。それらにどう対応付けするかを考える以前に、ヘリコプタや飛行機がどう動くのかを理解していない人がここまで多いとは思いませんでした。それを正しく理解していないと解けないねえ、この問題は。まあ、今回はこの点は甘く採点したので、そこが不正確でも満点になった人もいたが。
 「スリップが発生しやすいので警報音をつけるとよい」という解答も多かったが、間違って操作すれば操縦者はすぐに体感するので、音で気付かせることは重要ではない。それよりもスリップすると墜落の危険があり、スリップさせないような配慮が必要になる。また操縦席は相当うるさいはずで、音で気づかせるなら相当大きな音が必要になる。また、「ブレーキペダルをつける」という解答がこれも多数あり、呆れている。飛行機でもヘリコプターでもプロペラ(回転翼)の回転を止めれば落ちるだけなのに。意味不明です。また、飛行機もヘリコプタも当然免許制であり、オスプレイが免許が不要で初心者が使うわけはないが、数名そういう人がいた。
 あいかわらずこの手の問題では、インターフェイスについて書かずに機能や構造について書いている人が若干名いる。もちろんゼロ点です。また、オスプレイを全く知らないとしか思えない回答も散見された。ニュースであれほど話題になったオスプレイを知らないということ自体、大学生として問題だろう。ロボットの技術だけ知っていればいいのではない。最低限の社会の動きも知る必要がある。ある程度そういう学生も想定して、問題文を作成したのだが。
 なお、オスプレイと書いているように搭乗して操縦することを前提として考えていて、大多数の解答もそういうものだったが、一部無線操縦を想定した解答があった。それをあらかじめ想定していなかった問題文で、誤読したのですね。無線とは書いていないけど、搭乗とも書いていませんでした。申し訳ない。ただ、そういう解答に対しても丁寧に見て採点しました。というか、搭乗しての操縦が難しいのだから、無線操縦はより一層難しい。

平均点15.7点/30点満点。満点は4名。その一方0点も3名。10点以下が16名。難問であることは疑いないが、相当甘くつけているので、この程度の点数ではなさけない。「熟練者が使うものであること」「発生するエラーは主にスリップであること」「エラーは墜落に直結するので、できる限りエラーしないようなインターフェイスにすべきこと」の3点を書いただけで15点つけたのだから。特に「誰が使うか」をよく考えるように授業中も言ったし、過去の解説でも強調しているはず。それなのに半分程度の人しかこのことを書けていないのはどうしてなのでしょう?


A+:4% A:18% B:27% C:27% F:24%。1番がやさしかったためか、Fはそれほどでなかった。満点はおらず最高点は95点。

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Last modified: Tue Aug 6 2013