福祉インターフェイス論期末試験問題2016年度

1.人体通信の操作性についてヒューマンインターフェイスの観点から論ぜよ。なお、人体通信とは、人間の体に微弱な電流を流すことで行われるデータ通信である。専用の装置を装着した人が、他の同様の装置を装着した人、あるいは他の装置に触れる時に通信が可能になる。交通機関などでのプリペイドカードの支払い、名刺情報交換、鍵の代わりの認証システムなど様々な応用が考えられている技術である。
2.手動車いすはその使用者にあわせて各部の寸法を変えたり,取り付け位置を変えたり,パーツを選んだりすることが望ましい。その理由を説明せよ。


解説

1.過去のこの手の問題と比較すると、指摘すべきポイントが少なく、その意味では点が取りやすかったはず。そのために極端に悪い点数の人は少なかったが、思ったより出来が悪かった。講義のキーワード(たとえば「可視化」「対応付け」「エラー」など)を中心に考えている人では、「当該キーワードからこの対象機器を見た場合」という書き方になりがちで重要なポイントを外した解答も多かった。これらのキーワードがすべてのものに当てはまるわけではない、ことを理解してもらえれば、そのような書き方では必ずしもよい点になるわけではないことが理解できるはずである。その中で「フィードバックの重要性」「意図しない操作の問題」「その対策を取ると使いにくさが増してこの装置の利点が損なわれること」などの項目に高い加点を配分した。
 その一方で、このような機器とペースメーカーや筋電義手などの併用の課題など、電流を流す際の安全性を指摘している人も多数いた。これは機器全体としては重要な論点ではあるが、「ヒューマンインターフェイスの観点」という課題からは外れているので一般的には加点要素にはならない(安全性がヒューマンインターフェイスに強く関連するように書いていたら低い点だが加点した)。またプリペイドカード機能の際に事前にチャージさせるのをどうすべき、とか書いている人もいたが、この人体通信固有の問題ではなく、ほかも含めてこのように論点がずれているものは加点できない。障害者にとっての使いやすさを長々と書いている人もいたが、障害者のための専用装置ではなく、題意からは一般の使用者の使いやすさの点での問題であることは明確であるので、ほとんど加点できない。

平均点18.6/30点満点。それでも10点未満は10名いた。満点は6名のみ。

2.過去に何度も同様の問題を出していて、その解説も公開しているのに、出来が悪すぎてあきれた。中間試験の出来が悪かったのでサービス問題のつもりで出題したのに、これではなさけない。講義で説明したほかに、過去の解説では「いすの快適性」「走行特性」「移乗特性」など重要なキーワードを挙げて説明しているのに、このようなキーワードを使って明確に書いている人は想像していたよりもはるかに少ないだけでなく、そのようなキーワードを使わなくても正しく理解しているのだと読み取れる解答も少なかった。
課題は「理由を説明せよ」なのに、その理由を明確に書かずに、このパーツはこうあるべき、ここのサイズはこうあるべき、と書き並べる人もいたが、それではほとんど加点できない。一応、それぞれの指摘が正しければ各1点だけ加点したけれども、理由が明確に書いていなければそれ以上の加点にはつながらない。その理由も、「人によって体格・体形が違うから」だけでは加点できない。現状では高齢者などが大きめの車いすを使っているケースをよく見かけるが、大きめの車いすならばよほど大柄の人を除いて全員が車いすに乗れる。しかしそういう使い方は不適切であることを説明する必要があるのだから、サイズが大きすぎる車いすもだめな理由まで書かねば加点できない。「使用者が最も使いやすいものが望ましい」などというのもダメ。具体的ではない「使いやすい」では説明したことになっていないのは、講義でも何度も注意したはず。同様に具体性のない説明をする人が多く、たとえば、「労力を使わずに楽に操作できるように各部の寸法を決める」では加点できない。具体性が全くないし、例えば車軸の前後の位置は楽に操作できるかどうかだけでは決められない。
まとめると、講義で説明したこの問題の本質がわかっていないようにしか見えない人が多く、それらの人は点は伸びていない。まとまりなくあいまいな書き方をしているだけで、本質的なポイントをとらえていない解答が多いのは残念である。
説明というか、日本語の使い方に問題がある人がいた。たとえば「乗りごこち」と書いている人がいたが、これは「乗り物に乗った時に感じ」であり、振動とか、加減速による影響など、さまざまな内容を含んでおり、「座り心地」を含んでいるが、説明としては不正確である。そのため、「座り心地」などと書いた場合に比べると減点した。

平均点15.2点/30点満点。満点は9名いる一方、10点未満が21人いる。


A+:3% A:10% B:14% C:33% F:40%。最高点は96点。過去最低の成績だろう。

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Last modified: Thu July 28 2016