福祉機械論試験問題2012年度

1.図A〜Dはいずれも講義で説明に使用した図である。いずれか一つを選び、その図に関して知っていることを説明せよ。(図は省略)

2.福祉機器の多くは、@使用者の身体サイズや機能、および、A使用環境や用途に合わせて選択する必要がある。@とAのそれぞれについて1つずつ異なる機器の例を挙げて、それぞれ5行程度で説明せよ。

3.次の福祉機器から1つを選び,知っていることをできるだけ詳しく書け.

(1)共用品 (2)聴覚障害者用の警報音への対応機器 (3)福祉車両 (4)電子式歩行補助装置 (5)環境制御装置 (6)装具


解説

1.移乗介護方法に関するAは14%の人が選択した。平均点は22.3点/30点満点。わかっているのだとは思うが、なぜこの方法がすぐれているかを、明確に書いていない人もいて、意外と点が伸びていない。「脇のした」と明確に書いていなかったりすると、どうしても満点にはならない。
 じょくそう予防に関するBは33.3%と一番多くの人が選択した。しかし平均点は16.6点/30点満点と悪い。その理由は、10点以下の人が複数いたことにある。4つの図のうちで一番わかりやすそうに思えたのかもしれないが、書いていることが見当違いであった人たちで、その中でも加点できるポイントがあれば加点しているので、全員が0点ではないが、見当違いの内容を書いていたらほとんど点はあげられない。もちろんちゃんと書けている人もいて、30点満点が2人いたほか、残りの大多数は20点以上であった。
 装具のところで話をしたCを選んだ人は一人のみであった。短い文章ながら、的確に重要なポイントについて書いていた。
 重度肢体不自由者の入力手段に関するDは、21%の人が選択した。大変できがよく、平均点は26.7点/30点満点。この図は、その日の授業に欠席していてもなにを表わしているのかわかりやすく、サービス問題のつもりで入れたので、できる人が多いとは予想していた。
 2番の問題の方が難易度が高いのに、1番をレポートに代えた人は多く、全体の26%であった。講義で使用して説明した図を、しかも4つからひとつ選んで答えさせるのであるから、点が取りやすいはずだが、これほど多くの人がこの問題を嫌ったのには驚かされた。つまりは授業を聞いていない、出席はしていても授業の最初からちゃんと聞いているわけではない、ことなんだろうかと思ってしまう。

2.過去に車いすに関して@とAのポイントについて説明させる問題を出したことがあるが、それを逆にした問題になる。車いすについては何度か出しているので予想した人も多く、ちゃんと勉強していたと思うが、「異なる機器」であるので、車いすを@とAのいずれに選ぶか、もうひとつの機器として何を選ぶかがポイントになる。@については授業中に様々な機器に関して説明したので、Aを車いすにして、@を補聴器でも義肢・装具でも適当なものを選ぶのが一番わかりやすいだろうと想定して問題を出した。しかし、@を車いすにした解答が多かった。
 @で車いすを例にした人の大多数はある程度は書けていたが、あいまいに書いている人も多く、それらの人では点が伸びなかった。「座面の幅やアームレスト等を身体に合わせる必要がある」というのは、内容としては合っているが、なぜ合わせる必要があるのかまで明確に書いていないと、この部分に想定している点すべてをつけにくい。正確に理解しているのかどうかあいまいだからである。また、@で車いすを選んでいる人の中に、Aについてまで書いている人もおり、@とAの差を明確には分離できずに書いている人が見られた。車いすを考える上で移乗しやすいかどうかは、@に全く関係ないわけではないが、主としてAの方に関係している。
 @で車いす以外を選んだ人は9名のみ。義肢・装具、補聴器、杖、移乗用具が選ばれていたが、意外と書けていない人が多かった。補聴器でも、個人の聴力の周波数特性に合わせることを明確に書いていないで、あいまいな説明しかないのでは加点しにくい。@はきちんと理解している人が多く、平均点は12.7点/15点満点であった。
 Aの例として「リフト」を挙げている人は多かった。しかし、リフトの場合には厳密にはやや状況が異なる。多くの場合で天井の補強の問題や金銭的な問題がなければ、床走行リフトが天井走行リフトに勝るところはほとんどない。つまり、「使用環境や用途に合わせて選択」しているというよりも、環境や条件が許せば天井走行リフトを使うが、許さなければ床走行リフトで仕方がない、という選択なのである。施設の大部分で天井走行リフトを使っているのはそのためである。また、各種移乗機器の中での選択ならともかく、はじめから「リフト」限定で、その中で選ぶというのも考え方が少しおかしいだろう。以上のように考えると、「リフト」を選んだ場合には15点満点で最高12点までしかつけていない。
 そのほか、Aに関してはさまざまな解答が見られたが、不適切な例を挙げている人も多かった。補聴器は、使用者の機能だけで選択するのが基本です。もちろん、特殊な例はないわけではないけど、そこを丁寧に説明していないと正解とはいいがたい。また、機器の説明ばかりしていて、「使用環境や用途に合わせて選択する必要がある」ことをほとんど説明していない解答も意外に多く、ほとんど点をつけられない。また、特定の環境でないと使えない機器は「使用環境に合わせて選択」とは微妙に異なる。そうでない環境の際の選択肢について書いてあるならばOKなのだが、そうでないなら部分点しかつかない。Aで車いすを選んだ人も、間違った記述が意外に多かった。「高齢者用と障害者用で違う」というのは「用途」ではなく@の「使用者の機能」なのは明白だろう。
 以上のようにAは点が伸びず、平均点は8.0点/15点満点。@Aの合計で満点の人は1名のみ。全くできなかった人はほとんどいないが、25点以上の人も8名のみと少なかった。

3.例年だしている知識を問う問題。共用品が一番人気だったが、知識が不正確な人が実に多く驚いた。「共用品は視覚障害者以外の障害者には対応していない」など根本的に誤解している解答が多く、授業の説明が悪かったのか気になったほどである(もちろんそんな間違ったことは授業で言っていない)。あと、「障害者にも健常者にも」と書く人が多く、高齢者のことを忘れている人が多かった。それどころか、共用品の例として車いすを挙げるなど、共用品と福祉機器との違いが全くわかっていない人もいて呆れた。共用品以外も同じで、装具では、「戦争や事故などで欠損した身体機能を補う」などと書く人が多かったが、「戦争や事故」が原因であるかどうかは全く本質ではないし、「欠損した身体機能」では不正確である。「麻痺(まひ)」という言葉(またはその意味が読み取れる説明)が重要なのに、正確にこの点を書いている人はほとんどいなかったので驚いた。この問題に関して言えば、記憶にある限り過去最も悪かったように思う。レポートに代えている人も多かったというのは、山をかけて外した人が多かったのだろうか?


A+:6% A:30% B:24% C:12% F:28%。
出来の良い人と悪い人の差が激しかった。Fの人の多くが、1番または3番で、全く見当違いのことを書いていて、加点しようがなく、ほぼゼロ点であったことが原因である。選択肢から選んだものが、ほぼゼロ点というのは、勉強不足という以外言いようがない。そのため、レポート提出者の中でF評価の人が4人もでた。これは過去に例がない事態であった。今年は例年に比べて選択できる幅が広かったので、例年よりも成績が良くて当たり前のはずなのに残念としか言いようがない。


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Last modified: Mon July 30 2012