"文理融合"という言葉、みなさん、聞いたことがありますか?
まぁ、読んで字のごとくなのですが、なかなかイメージしづらいこともあるでしょう...。
そもそも全ての学問の基礎には、哲学が存在し、「哲学は文系...」と考えがちですが、古くから哲学の研究対象は、数学、物理学、化学、生物学などにも及びます。1つの学問領域にとらわれず、文系と理系の双方の考え方を同時に扱ったり、統合させたりする考え方が"文理融合"ということになります。個別の学問領域による横断型の研究として、"学際的研究"という呼ばれたりもします。
私の研究分野であるスポーツマネジメントやその関連領域でも文理融合、または学際的な研究が進みつつあります。その典型的な例が行動経済学です。
従来の経済学では、"合理性"や"効率性"を追求することが学問上の命題でした。つまり、経済学の立場に立脚すれば、人間は、ある一定の目的を達成するために合理的な選択をし、得られるであろう効用を最大化しようと行動する、これが前提条件でした。言い換えれば、「完全無欠な人間が完全な情報を得て正しい判断をする」ということになり、これが経済学でいう経済人(ホモエコノミクス)であると考えられてきました。
しかしながら、現実的には、どうでしょうか...
これは、学問上に描かれた姿にしかすぎず、こんな人は、実際、いないことでしょう。いや、そんなこと、できないことでしょう。我々の周りには、あまりにも多くの情報があふれ、それを完全に処理することなど、現実的に無理です。多くの人が経験していることと思いますが、あれだけ情報収集したにもかかわらず、買い物をした後で、もっと安い店があることを知って後悔する...こんなことは、よくあることでしょう。
また株式投資、オークション、競馬、宝くじなどなど...人間は、経済学でいう「ホモエコノミクス」とは裏腹に、非合理な行動を繰り返してしまいます。その他にも、喫煙、飲酒、ダイエット...。吸ったら、身体に悪いのに...飲み過ぎて二日酔いで痛い目に遭っているのに...これを我慢したら、痩せられるのに...我々の行動には、"のに...""たら...""れば..."という接尾語のつく行動の多いこと...。これらの行動は、往々にして、失敗しがちです。
たとえば、喫煙行動でいえば、喫煙者の大多数がたばこによる身体的なダメージのことを理解しながらも、「食後の一服は、至福の時!」「イライラを解消し、精神的な安寧が得られる!」とタバコを吸うことが自分自身にもたらす効用を提示しようとしたり、タバコを吸う行動を合理化したりします。
(※ これは、心理学でいう"認知不協和理論"で説明できる行為です。ippo先生から学んでください!)
「自己利益の最大化」のために「最も合理的な」選択をするという人間の原則は、現実を反映したものとはいえない!なんて、大それたことをいうつもりはありませんが、このような「誤り」や「非合理・不合理」をパターン化したり、構造化しようとするのが、昔でいうところの"経済心理学"であり、現在の行動経済学です。
で...(前置き、長っ!)
8月5日に早稲田大学スポーツ科学部が行っている「東伏見スポーツサイエンス研究会」に参加してきました。
私の恩師である原田先生と博士課程に在籍する押見さん、そして彼末先生が登壇し、「感情(情動)」を共通テーマに社会科学(スポーツマネジメント研究)と自然科学(神経生理学)のそれぞれの立場からプレゼンが行われました。
私の恩師とその学生さんは、"Beyond Satisfaction:スポーツの感動を科学する"という内容で、また彼末先生は、「感情・情動の生理的・社会的意味」という内容で発表されました。詳細な内容は、紙数の関係で?(笑)割愛しますが、私の恩師たちは、行動経済学や"ニューロマーケティング"というキーワードで話を進め、購買行動のみならず、観戦行動、広告から受けるブランド認知など、生理的、認知的、行動的な側面から文理融合の学際的研究の必要性と可能性を主張しました。
スライドは、原田先生のプレゼンに用いられた資料の一部です。記憶を司る「海馬」、そして意思決定を司る"DLPFC"の活性化が脳断面図の写真で提示されました。
"文理融合"は、スポーツ健康科学部のめざす方向です。【泉】学部長も、「学部・研究科で設定されているコースや研究領域は、あくまでも教育上のカテゴリーであり、25名の教員は、学問領域の垣根を越えて、互いに交流し合い、刺激し合い、そのような姿を学部生や大学院生に示すべき」ということを常々おっしゃっています。
スポーツ健康科学部には、立派なMR室があり、【栗】先生や脳科学の専門家の【敦】先生がいらっしゃいます。ニューロマーケティングで用いられる生体情報や測定技術は、脳内血流(fMRI)、脳波(EEG)、皮膚電位(GSR)、視線・瞳孔(アイカメラ)にまで及びます。
"ボケとツッコミ"以外では、【敦】先生との接点はないと思いましたが(笑)、アカデミックな研究で今後接点が生まれるかもしれないと思えば、ワクワクします!
といっても、知識や技術(脳科学のみならず、お笑いの科学も...)では、全く足下にも及んでいないので、さらなる勉強が必要ですが...。
【敦】先生、ご指導のほど、よろしくお願いします!