こんにちは、嶋村です。今年もあと少しになりクリスマスが終わるとあっという間に正月になって、また一年が始まりますね。今年は僕にとってあまりいい年ではなかったので、来年は良くなって欲しいと思っています。
さて、先週は研究会で三重大学に行ってきました。三重大学は僕がアメリカから帰って来てから最初に勤めた大学で一年かしかいませんでしたが、若手の言語学者が多く今でも時々友達と研究会を開いて今お互いがやっている研究を話し合っています。
今回は僕が発表担当だったので、先週書いたように新幹線でスライドを作りながら名古屋経由で三重大学に行って来ました。ちなみにどんな話をしたかと言うと、多分みんな興味無いでしょうが(笑)、日本語の主格・属格交替という現象について話して来ました。「なんやねんそれっ」ていう声が聞こえてきそうですが、例えば、「(昨日太郎が買った)本」のような関係代名詞(丸括弧で囲った部分)の中の「が」(主格)が「の」(属格)に随意的に交替する現象を指します。なので「昨日太郎の買った本」とも言えるはずです。他にも交替できる環境はあるのですが。。。さてこのような文法現象は日本語に限ったものではなく、例えば、トルコ語、ウイグル語、サクハ語などのいわゆるチュルク諸語の言語だけでなく、南米で話されているケチュア語やグアムあたりで話されているチャモロ語にも似たような現象があります。「「が」が「の」に替わるのがなんなんだ」って言う声も聞こえてきてそうですが、この違いは言語学的に非常興味深いもので、これまでたくさんの研究者がこの現象を研究してきました。まずこの現象が面白いのは、上代日本語の痕跡が見られるところです。皆さんは古文で「係り結びの法則」という文法を習ったことがあるとおもいます。「か」などのある一定の助詞が名詞にくっ付けば、動詞の活用が已然形になったり連体形になったりするやつですね。現在日本語はそのような文法を持っていないとされていますが、上代日本語では係り結びが起こっていた関係代名詞のような構文の中にその名残を見ることができます。例えば、伊勢物語で、「男の、着たりける狩衣の裾を切りて、歌を書きてやる(男が、着ていた狩衣の裾を切って、歌を書いて送った)」という一節があります。上代日本語では、関係代名詞のような文の中で今の「が」に相当するものは「が」と「の」のどちらでも現れることができました。「が」や「の」がくっ付くの名詞の意味や特性などによってどちらにするか決まっていたということらしいですが、昔の日本語は「が」と「の」の区別ががなく主語マーカーとしても所有マーカーとしても両方が使えたようです。現代でもちょっと古い表現で「誰(た)がために(誰のために)」とか言ったりすることがありますよね。現在では「が」が主語マーカー、「の」が所有マーカーと完全に住み分けでができています。誰も「大幅にバスの遅れた」とは言いませんが、関係代名詞のような一部の環境では、「大幅にバスの遅れた理由」というように今でもそれが出来ます。ちなみに一部の九州方言は「大幅にバスの遅れた」みたいなのが言えるそうです。不思議ですね。ちなみに最近の若い人はどんどん主格・属格交替ができなくなってきているようです。言語は変化してきますからね。もしかしたらこのブログを読んでくれている人の中で「大幅にバスの遅れた理由」が受け入れられない人がいるかも知れません。
まあ、こんな感じで他にもたくさん不思議なことはあるのですが、今日はこの辺にしたいと思います。さて、主格・属格交替の論文を今書いているのですが、この論文から旧式の樹形図のパッケージを使っています。言語学では、言語の構造を表すために樹形図を書くという話は以前したと思いますが、LaTeXには樹形図専用のいろいろなパッケージ(アプリみたいなもの)があります。最近ずっと tikzqtree(か forest)というのを使っていたのですが、どうも形が気に入りませんでした。いろんなことができて非常に描写力の高いパッケージなんですが、形がダサいので今回から旧式の qtree に戻しました。今週の写真ですが、左が tikzqtree で右が qtree。皆さんはどちらが好きですか?(笑)できることは減ったのですが、シンプルでいいかなって思ってます。て、この話をしたのはブログに載せる適当な写真がなかったからです(笑)
ではではまた。