2019.06.14

先週の問題の答え

こんにちは、嶋村です。なんか最近曇りの日が多く、さらにやることがたくさんあって気分も沈んできそうですが、この前何と初めてドクターイエローを見ました!!新幹線電気軌道総合試験車のことですが、いつどこを走っているのか知られていないので見ると幸運が訪れるなんて言われたりもします。まあ全体を見たのではなく、チラッと一部を見ただけですが、何かいいことがあればいいなあ。。。


さて先週は、「現在のフランス国王はハゲである」が偽であるか、あるいはそもそもそんな人物はこの世に存在しないのでこの命題は何も意味をなさないのか考えてください、っていう無茶振りで終わった気がします(笑)。しかしこれは論理学・言語哲学にとって重要な問題で、真であるか偽であるかの2値に依拠する意味研究では、排中律が前提となっていて、「現在のフランス国王はハゲである」はこの考え方にとってちょっとした脅威なんです。排中律は、Law of Excluded Middle と言いまして、要は真か偽の真ん中はないってことです。もう少しフォーマルに言うと、ある任意の命題 P はそれが成り立つか成り立たないかのどちらかしかない 、P ∨ ¬P (P or not P) だっていうことなんですね。 例えば、「立命館大学スポーツ健康科学部は BKC キャンパスにある」という命題は真ですね。その否定は「立命館大学スポーツ健康科学部は BKC キャンパスにはない」は偽ですので排中律を満たしています。そうすると「現在のフランス国王はハゲである」は何が問題なのでしょうか?この世の中にフランス国王は存在しないので仮にこれを偽であるとしましょう。さてその否定形はどうでしょうか。「現在のフランス国王はハゲではない」は真ですか、それとも偽ですか?真と言えないですよね、だって「現在のフランス国王」は存在しないのですから。。。とういうことは偽になってしまい、排中律にとっては問題となるわけです。論理学者・言語学者たちは「えらいこっちゃ」となるわけですね。


上述の問題に関して「現在のフランス国王はハゲである」は「現在のフランス国王」という確定記述(definite decription のことで、要は定冠詞が付くような指示対象が一つに決まる名詞表現)を持っていますが、これに関して哲学者のバートランド・ラッセルは当該命題は以下の三つの意味を表していると言いました。


(1) フランスの国王が少なくとも一人存在している。

(2)   フランスの国王が多くても一人しかいない。

(3)   フランスの国王であるものは全てハゲである。


ということなんですが、以前存在を表す記号を紹介した時に ∃ と書いたと思います。「~が(少なくとも)一つ・一人存在する」という意味ですが、この存在をたった一人(一つ)にすることで確定記述を表現できます。 三つの意味を論理式で書くと:


(4)    ∃x[KF(x)]

(5)    ∀x.∀y[KF(x) ∧ KF(y) x=y]

(6)    ∀x[KF(x) B(x)]


となります。KF は「現在のフランスの国王」を表し、B は「ハゲである」を表します。ということで (4) は「 KF である個体 x が(少なくとも一人)存在している」を意味し、(5) は、「全ての個体 x と y に関して、x が KF でありかつ y も KF であるならばは x = y は同一である」を意味し、全ての個体(人間)について検討しています。そしてどんな全ての個体も KF であるならそれは全て同じであるということで KF が一人しかいないことを表現しています。そして最後に (6) ですが、「全ての個体 x に関して、x が KF ならば、x はハゲである」を表しています。これらを全て合わせると:


(7)    ∃x[KF(x) ∧ ∀y[KF(y) x=y] ∧ B(x)]


みたいな感じになります。なぜかは説明しませんが、こうなります(笑)。さて (7) は 「ある個体 x が(少なくとも一つ)あって、x は KF であり、かつ全ての 個体 y に関して、y が KF なら x と y は同一であり、かつ x はハゲている」と読みます。それが「現在のフランス国王はハゲである」の意味です(笑)。日々私たちは「現在のフランスの国王」みたいな表現をこのように解釈しているんですね(笑)。これがラッセルの確定記述なのですが、これのエラいところは排中律に合うというところです。つまり、(7) を否定すると:


(8)    ¬∃x[KF(x) ∧ ∀y[KF(y) x=y] ∧ B(x)]


となりますが、これは x の存在を否定しているので真になり、排中律が保たれるのです。このラッセルの考え方とは違った考え方もあります。ストローソンという哲学者は「現在のフランス国王はハゲである」はそもそも前提がおかしいから真偽値を持たない文であると言っています。まあどっちも正しいと思いますが、どっちかというと僕はストローソン派です。皆さんはどっち派ですか?(笑)


というわけで、もう今日は十分だと思うので続きはまた来週。