2017年度 優秀論文一覧

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スポーツ科学コース

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
南野 大貴 家光 素行 「2型糖尿病モデルラットのインスリン感受性低下に対するクロレラ摂取と有酸素性トレーニングの併用効果」
背景

クロレラは,タンパク質,ビタミン,ミネラル,食物繊維,アミノ酸を多く含有している単細胞緑藻の一種である (Lee and Kim, 2009).2型糖尿病モデルラットにおける8週間のクロレラ摂取が,インスリン感受性の向上およびグルコースの代謝異常を改善することが明らかとなっている (Jeong et al., 2009).また2型糖尿病患者において,有酸素性トレーニングは糖取り込みを亢進させることからインスリン感受性を向上し,高血糖状態を正常化させることが報告されている(Bacchi et al., 2012; Schwingshackl et al., 2014).しかしながら,糖尿病に対して長期的なクロレラ摂取と有酸素性トレーニングとの併用による血糖改善効果に関しては明らかでない.

目的

本研究では,インスリン感受性が低下した 2型糖尿病に対するクロレラ摂取と有酸素性トレーニングとの併用効果を検証した.

方法

6週齢のOLETF雄ラット28匹を2型糖尿病モデルラットとして20週齢まで安静飼育後,通常餌摂取+安静対照群 (OLETF-Con群),クロレラ摂取+安静群 (OLETF-CH群),通常餌摂取+有酸素性トレーニング群 (OLETF-Ex群),クロレラ摂取+有酸素性トレーニング群 (OLETF-CH+Ex群) の4群に分類,また6週齢のLong-Evans Tokushima Otsuka (LETO) 雄ラット通常餌摂取+安静健常対照群 (LETO群)とした (各群N=7).1日60分,週5回,25m/分のスピードでトレッドミル走を8週間行い,最終トレーニング終了48時間後,すべての群において経口糖負荷試験 (Oral Glucose Tolerance Test : OGTT) を12時間の絶食後実施し,その48時間後に腓腹筋およびヒラメ筋を摘出し,クエン酸合成酵素 (Citrate Synthase : CS) 活性を測定,また血液の採取により空腹時血糖値および空腹時血中インスリン濃度の測定から,Quantitative insulin sensitivity check index (QUICKI) を算出した.

結果および考察

OLETF-CH群およびOLETF-Ex群では,OLETF-Con群と比較して空腹時血糖値および空腹時血中インスリン濃度が有意に低下し (p<0.05),インスリン感受性の指標であるQUICKIが有意に増大した (p<0.05).またOLETF-CH+Ex群では,OLETF-CH群,OLETF-Ex群と比較して,空腹時血糖値および空腹時血中インスリン濃度が有意に低下 (p<0.05),QUICKIが有意に増大し (p<0.05),加算効果が認められた.またOGTTは,OLETF-CH+Ex群においてOLETF-Con群およびOLETF-CH群と比べて有意に血糖値が低下した (p<0.05).したがってこれらの結果から,クロレラ摂取および有酸素性トレーニングの併用は,インスリン感受性をそれぞれの単独群よりもさらに向上させる可能性が示唆された.

結論

本研究により,長期的なクロレラ摂取および有酸素性トレーニングの併用は,インスリン感受性をそれぞれの単独群よりもさらに向上させることが示唆された.

主な引用・参考文献

Vecina, JF., Oliveira, AG., Araujo, TG., Baggio, SR., Torello, CO., Saad, MJ., and Queiroz, ML. (2014) Chlorella modulates insulin signaling pathway and prevents high-fat diet-induced insulin resistance in mice. Life Sci., 95(1): 45-52.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
内田 絵梨 伊坂 忠夫 「予備動作によるサイドステップの動作時間短縮とそのメカニズムの解明」
背景

バスケットボールなどの対人競技において,相手の動きに対して素早く動き出すためには,動作開始前に予備動作を行う事が有効であると報告されている(Fujii et al. , 2013).動作の開始には,動作直前の両脚の荷重状態が影響しており,スポーツ場面において,予備動作を用いて荷重状態を変化させることで相手の動きに応じて素早く動き出すことが可能になると考えられる.また,予備動作中の荷重状態が変化する場面において,素早い動き出しに最も恩恵を与える荷重条件を明らかにすることで,素早い動き出しが可能となり,反射的な運動能力の向上にもつながると予想される.

目的

バスケットボール選手を対象として,身体重心の上下動により,加重と抜重を繰り返す予備動作において,素早い動き出しに最も恩恵を与える荷重条件を明らかにすることを目的とした.

方法

被験者は,大学男子バスケットボール選手16名であった.実験では,光刺激に応じて左右方向に素早くステップを踏む選択反応動作を,静止立位条件と予備動作条件で行わせた.予備動作条件では,身体重心の上下動により荷重状態が体重の70%~130%になるように,加重と抜重を繰り返すよう指示し,①加重中期②抜重初期③抜重中期④加重初期の異なる4つのタイミングで方向指示を行った.被験者の身体には反射マーカーを貼付し,3次元モーションキャプチャ装置(Motion Analysis Corp. , MAC3D System)により,動作の運動学データを,フォースプレート(Tech Gihan Co. , Ltd. , TF-4060-B)により動作中の床反力データを取得した.

結果および考察

予備動作を行う事で,方向指示のタイミングによらず,足部離地までの時間は有意に短縮し,ステップ速度も有意に上昇した.この結果から,動作開始時に両脚が抜重状態にあることが素早い動き出しに有効であるという仮説とは異なり,両脚が加重・抜重いずれの局面であっても素早い動き出しに有効であることが明らかになった.動作開始時に身体が抜重局面にある場合には,ステップ脚の抜重にかかる時間が短縮されたことで,足部離地時間が短縮し,動作開始時に身体が加重局面にある場合には,ステップ開始時間が短縮されたことで,足部離地時間が短縮したことが示唆された.

結論

身体重心を上下動させる予備動作は,加重・抜重のいずれの局面で与えられた光刺激に対しても素早い動き出しに有効であるが,素早い動き出しに貢献するメカニズムは動作開始時の両脚の荷重状態の違いによって異なることが示唆された.

主な引用・参考文献

Fujii, K. , Yoshioka, S. , Isaka, T. , and Kouzaki, M. (2013) Unweighted state as a sidestep preparation improve the initiation and reaching performance for basketball players. Journal of Electromyography and Kinesiology. , 23: 1467-1473.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
丸山 達寛 後藤 一成 「伸張性筋収縮を伴う運動後の下肢筋群に対する冷水浴およびコンプレッションウェアの着用が筋損傷に及ぼす影響」
背景

ランニングやジャンプ,筋力トレーニングなどの多くのスポーツ時に含まれる伸張性筋収縮に伴う運動誘発性筋損傷は,筋機能の低下を引き起こすことが示されている.これまで,運動後における様々な休息方法(トリートメント)が運動誘発性筋損傷に及ぼす影響が検討されてきた.しかし,これらの研究は単独でのトリートメントの効果に着目したものであり,性質の異なる2種の休息方法を併用した際の効果は不明である.

目的

高強度運動後における冷水浴およびコンプレッションウェア(CG)着用を組み合わせた休息方法が,運動パフォーマンスおよび疲労回復に及ぼす影響を検討することを目的とした.

方法

運動を習慣的に行っている健常な男性6名を対象に,片脚での最大努力による等速性膝伸展運動(角速度60度/秒)を60回(6回×10セット)実施した.運動終了後,トリートメント条件では,15℃の冷水へ15分間浸水させた後,CGを運動終了後24時間後まで着用させた.コントロール条件では,運動終了後15分間の座位安静を取らせた後,通常のスポーツウェアを着用させた.運動前から運動後にかけて等尺性最大膝伸展筋力,等速性最大膝伸展筋力,血清クレアチンキナーゼ,ミオグロビン,血中乳酸およびグルコース濃度,大腿部の周囲長および筋厚(超音波法により評価),皮膚温および心拍数の変化の動態を検討した.

結果および考察

伸張性筋収縮を伴う運動による総仕事量には,条件間で有意差が認められなかった( P > 0.05).運動後における血清ミオグロビン濃度の濃度曲線下面積は,トリートメント条件がコントロール条件に比較して有意に低値を示した( P < 0.05).また,血清クレアチンキナーゼ濃度においても,トリートメント条件が低値の傾向を示した.一方で,運動後24時間までの最大筋力の変化の動態には,条件間で有意差は認められなかった.
高強度運動に伴う筋の微細な損傷はミオグロビンやクレアチンキナーゼの血中への逸脱を亢進させ,その結果,血中濃度が上昇する.したがって,下肢筋群の冷却やその後のCG着用によって浮腫の軽減が生じ,特に,ミオグロビンの上昇が軽減されたものと推察される.一方で,本研究では被験者が少ないために,今後,サンプルサイズを増やすことで冷水浴とCG着用の効果の詳細を明らかにできると考えられる.

結論

上述の結果は,伸張性筋収縮を伴う高強度運動後における冷水浴およびCGの着用は,筋損傷を軽減する可能性を示すものである.

主な引用・参考文献

Roberts, L. A., Nosaka, K., Coombes, J. S., & Peake, J. M. (2014). Cold water immersion enhances recovery of submaximal muscle function after resistance exercise. American Journal of Physiology-Regulatory, Integrative and Comparative Physiology, 307(8), R998-R1008.Jakeman, J. R., Byrne, C., & Eston, R. G. (2010). Lower limb compression garment improves recovery from exercise-induced muscle damage in young, active females. European journal of appliedphysiology, 109(6),1137-1144.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
井上 高貴 塩澤 成弘 ホルター心電図への応用を目指したスマートウェア開発
背景

近年,日本では高齢化が進み,医療費の増大が社会的な問題となっている.医療費を抑えるためには予防が必要である.ホルター心電図検査は不整脈の検出や突然死をきたす恐れのある冠攣縮性狭心症などの観察などに有効であるが,着け心地が悪く不快で,長時間にわたる装着に適していない.アンダーウェアにホルター心電計を埋め込むことで,無意識,無拘束,非侵襲の計測が可能になると考えられる.

目的

本研究では一般的なホルター心電図検査で用いられる規格をアンダーウェアに電極を組み込んだスマートウェアでも達成可能であるか検証することを目的とする.

方法

スマートウェアはベースとなるウェアの裏面に導電性のシートと絶縁層に使用するポリウレタンシートをホルター心電図の電極位置にあわせ熱圧着した.
スマートウェア-ディスポーザブル電極間での相関を比較するため,健常成人男性1名(年齢22歳,身長171.5cm,体重70.0kg,胸囲91.0cm,腹囲80.0㎝)を被験者とし,各誘導法で30秒間の立位静止による心電図測定を行った.
続いて,スマートウェアの体動によるアーチファクトの影響を検証するため,健常成人男性13名(年齢:22.2±1.4歳,身長:170.5±5.1cm,体重:64.9±7.8kg,胸囲88.9±4.9cm,腹囲77.6±10.2cm:平均±標準偏差)を被験者とし,立位静止時と時速4kmでの歩行時の心電を測定した.

結果

図1はスマートウェア-ディスポーザブル電極の総合的な相関係数を求めたものである。R2が0.5以上と,スマートウェアそのものとディスポーザブル電極による心電図測定の相関が認められた.

また,体動によるアーチファクトについては全体の試行の約19%に留まっていた.

※図1すべての誘導法でのスマートウェア-ディスポーザブル電極の相関グラフ

スマートウェアの心電図
結論

多くの誘導法が高い相関を示しており,12極誘導心電図など様々な計測方法への応用も可能であると考えられる.日常生活を阻害せず,無意識,無拘束,非侵襲的な計測の方法として既存の検査方法のデメリットを解消する一つの方法として挙げることができると考える.

主な引用・参考文献

牧川方昭,飯泉仁美「生体信号の無拘束計測のためのディジタル技術」BME,9,pp16-27,1995.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
中島 舞子 藤田 聡 「伸張性収縮運動による筋損傷および炎症反応に対するホエイペプチド摂取の効果」
背景

ホエイペプチドは, ホエイタンパク質を加水分解してペプチドにしたものである. これは, 消化・吸収が早く血中アミノ酸濃度のピーク値が高いホエイタンパク質よりもさらに体内での吸収速度が速く効果が表れやすいことが先行研究の結果から示唆されている. 伸張性収縮を伴う運動は, 遅発性筋肉痛を引き起こし, 筋損傷を示す血中バイオマーカーに影響を及ぼすことが報告されている. しかし, 人へのホエイペプチド継続摂取による運動誘発性の筋損傷に伴う筋痛軽減, 及び炎症性サイトカインの反応や血液バイオマーカーの反応に対する変化は明確なエビデンスが限定的である.

目的

本研究では, ヒトにおけるホエイペプチド継続摂取が局所的な運動誘発性筋損傷に与える影響を評価することを目的とした.

方法

被験者は体育会運動部に所属せず, 運動習慣のない健常な成人男性10名を対象とし, 非盲検クロスオーバーデザインを用いた. 各被験者はホエイペプチド摂取とプラセボ摂取の2試技を4週間以上の間隔を空けランダムに実施した. 本研究では, 上腕屈筋群に対するエキセントリック運動を6回×5set実施し, 運動前後に最大筋力測定, VAS評価による筋痛の記入, 採血を行った. 各被験者は運動実施後4日目まで, 最大筋力の測定とVAS評価による筋痛記入, 採血, 及び1日2回のホエイペプチドまたはプラセボの摂取を行った.

結果および考察

ホエイペプチド摂取群, プラセボ摂取群共に, 安静時と比較してエキセントリック運動実施直後に最大筋力が有意に低下し (p < 0.05), 4日目においてホエイペプチド摂取群のみ安静時レベルまで改善したが, プラセボ摂取群は安静時と比較して有意に低い値を示したままであった (p < 0.05). 遅発性筋肉痛の指標となるVAS評価は, 両群ともに安静時と比較して運動実施直後に有意に増加した (p < 0.05). また, クレアチンキナーゼ濃度は, 両群ともに安静時と比較して運動実施後4日目に有意に上昇した (p < 0.05). しかし, その他の炎症反応を示す血中バイオマーカーは安静時と比較して有意差は認められず, また全ての項目において両群間に有意差は認められなかった. 今後はホエイペプチドの摂取タイミング等を検討し, サイトカインなどの影響を検証していく必要がある.

結論

本研究における上腕屈筋群のエキセントリック運動後のホエイペプチド継続摂取は, 運動誘発性の筋損傷, 炎症反応に対しては顕著な効果を与えないが, 運動により低下した筋力を速やかに回復させることが示された.

主な引用・参考文献

Hirose L, Nosaka K, Newton M, Laveder A, Kano M, Peake J and Suzuki K. (2004). Changes in inflammatory mediators following eccentric exercise of the elbow flexors. Exerc Immunol Rev, 10 (75-90), 20.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
奥谷 仁 長野 明紀 「110mハードル選手の大腰筋及び殿筋群の形態的・機能的特徴についての研究」
背景

一般男子の110mハードル競技はスプリント能力以外にハードリングの技術が必要とされる.ハードリング技術には,その空中動作において股関節の屈曲伸展をともなう脚をリード脚,踏み切ってから股関節を外転させ前に大きく抱え込む複雑な動作である抜き脚が存在し,それらは選手内で固定されている.そのためハードル選手は競技特有の形態的特徴を有していることが推察される.しかしこれまでハードル選手の大腰筋の形態的・機能的特徴について検討した報告はない.

目的

本研究では,110mハードル選手の大腰筋及び殿筋群の形態的・機能的特徴を解明することを目的とし,3つの異なる研究を行った.

方法

研究1では,MRIを用いてハードル選手の大腰筋(L4・L4-L5・L5),殿筋群,ハムストリング(大腿長:40%・50%・70%)の筋横断面積を測定し,リード脚側と抜き脚側の間で比較した.研究2では,MRIを用いてハードル選手の大腰筋(L3-L5)の筋体積を算出し,リード脚側と抜き脚側の間で比較した.研究3では,BIodex社製ダイナモメーターを用いて,ハードル選手の股関節伸展屈曲トルク(股関節屈曲位60°)を測定し,リード脚側と抜き脚側の間で比較した.また全ての研究で比較対象として短距離選手を用いて,右脚側と左脚側の間で比較した.統計は対応のあるt検定を行ない,有意差は5%水準とした.

結果および考察

研究1では,ハードル選手の大腰筋の全ての部位においてリード脚側,殿筋群では抜き足側が有意に大きかった.短距離選手の大腰筋にはL5レベルでのみ有意な差があった.ハムストリングにおいて両群とも有意な差はなかった.研究2では,ハードル選手のリード脚側が有意に大きく,短距離選手では有意な差はなかった.研究3では,ハードル選手の股関節伸展屈曲トルクのどちらもリード脚側が有意に大きく,短距離選手では有意な差が認められなかった.これらの結果から,ハードル選手の競技特異的な動作が,大腰筋および殿筋群の発達に関係し,筋横断面積と最大筋力の強い相関関係や筋体積と筋トルクの関係性から,ハードル選手の大腰筋の形態的特徴が機能的にも影響していると考えられる.

結言

ハードル選手において,競技特有の動作により大腰筋や殿筋群が非対称に発達し,形態的・機能的特徴が生じる可能性が示唆された.

参考文献

荒巻 英文ほか(2015)ヒト骨格筋の反復伸張における筋肥大および筋力増強効果の検証.理学療法科学,30(2):p.171-175.

健康運動科学コース

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
大津 花菜子 真田 樹義 「女子大学生を対象としたMRI法による下腿の美脚評価法」
背景

女性は美しい体型に憧れるものである.平成27年に厚生労働省が行った「国民健康・栄養調査」の結果から,現代の20歳代日本人女性は痩せている傾向にあるにもかかわらず,体型を美しく見せたいという願望を持っていると考えられる(1).さらに,最近の研究では,脚の長さは身体的魅力の中でもより強調される部分であり,多くの因子を反映していると指摘している.真鍋ら(2002)は, 日本人女性を被験者にしたSD法視感調査結果から,体型からみた脚前面部の美脚とは,細く,長く,真っ直ぐで,両脚間の隙間が程よくあき,左右のバランスの良い脚であると報告し,同時に美脚の推定式を算出している(2).しかし現在のところ,美脚についての定量的な評価に関する研究は非常に少ない.

目的

本研究の目的は,20名の若年女性を対象に核磁気共鳴画像法(MRI)を用いた下腿部の形態計測および筋断面積を測定するとともに,若年男女350名を対象とした20名の若年女性の美脚のアンケート調査を実施し,形態計測値および筋断面積の曲線連続性による美脚の評価推定法を開発することである.

方法

第一に,R大学に属する女子大学生・大学院生20名を対象にMRI法による下記の形態測定を行った.Y1:膝下最大隙間,Y2:両大腿最小幅,Y3:下腿最小幅(足首幅),Y4:ふくらはぎ幅,Y5:足首幅,Y6:踵つま先間長さ,Y7:踵母指球間長さ,C1:足首周囲径,C2:膝下3分の2周囲径,C3:膝下3分の1周囲径,C4:膝周囲径,R1:膝下3分の2曲率,R2:膝下3分の1曲率(以上 cm).第二に,R大学に属する男女大学生350名を対象に, 20名の若年女性のSD法視感調査を含んだ美脚のアンケート調査を実施した.また,白黒写真の得点をさらにZ-score化した得点(Y)と身体計測値ならびにその比率との関係については重回帰分析を行った.

結果および考察

アンケートの白黒写真の点数評価と丸数には有意な相関が認められた(r =0.879,p <0.01).本研究で用いた美脚の評価である “美しさ”,“太さ”,“真っ直ぐさ”,“引き締まり”,“ふくらはぎの位置の高さ”,“バランス”と,MRI法を用いた下腿部の形態計測値との間にすべての美脚評価において有意な相関が認められた.さらに白黒写真の得点をZ-score化した得点,膝下前面部および側面部の身体計測値ならびにその比率を用いて,美脚スコアを測定する以下の重回帰式①および式②を求めた.
式① Y=-3.514 Y4/Y5 +4.600br
式② Y=-2.331 Y4/Y5 + 0.496 R2/C2 -0.356 Y3 +2.412 C4/C1 +0.874

結論

今回の結果から,前面部だけではなく,側面部の情報も美脚を構成する大きな要素を担っていることが明らかになった.重回帰分析からY4/Y5,R2/C2,Y3,C4/C1が選択され,それらの値は“美しさ”,“ふくらはぎの位置の高さ”,“引き締まり”と有意な相関が生じており,本研究で得られた美脚の推定式は様々な美脚を構成するバロメーターが考慮された式であることが認められた.

主な引用・参考文献

(1) 厚生労働省HP(2015)
(2) ORHON S.et al.(2002)

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
清水 崇行 田畑 泉 異なる強度の運動が血中副甲状腺ホルモン及びカルシウムイオン濃度に及ぼす影響に関する研究
背景

最近Kohrt博士らの研究により,低強度から中等度の強度の長時間運動による血中カルシウム濃度の一時的な低下は,骨吸収を促進する副甲状腺ホルモンの分泌を惹起し,当該運動による物理的刺激の及ばない骨の骨密度の低下を引き起こしている可能性が示唆された.高強度の運動が血中カルシウム濃度を高め,血中副甲状腺ホルモン濃度(PTH)が上昇しないことを考えると,高強度運動は,中強度の運動の骨に対する悪影響を及ぼさないという観点から優位性があると考えられる. そこで本研究では,体力向上効果のある高強度・短時間・間欠的運動における骨代謝マーカーの動態を明らかにした上で,副甲状腺ホルモン分泌を促さないという観点から最適な高強度・短時間・間欠的運動トレーニング法を明らかにすることを目的とした.

方法

健康な成人男性7人を対象に①最大酸素摂取量の70%の強度の自転車エルゴメータ運動(MIE),②疲労困憊に至る高強度・短時間・間欠的運動(HIIE),③疲労困憊に至らない高強度・短時間・間欠的クロス運動(HIICE)をそれぞれ前日の22:00までに夕食を済ませ,翌朝8:00までの絶食後行った。この運動の乳酸値,iCa, PTHの経時的変化を観察するために,運動前,ウォーミングアップ後,終了直後,終了10,20,30,60,90分後,の合計7~8回肘静脈より採血を行った.

結果および考察

血中iCaはHIIEでは,安静時に対して運動終了直後、HIICEでは,運動終了直後,運動終了10分後は有意に高くなった.一方,MIEでは、どの時点おいても変化は見られなかった。血清PTHでは安静時に対し, HIIE及びHIICEでは運動終了10分後は有意に低下した.一方、MIEでは安静時に対し運動終了直後,運動終了10分後は有意に高くなった.

結論

これらの結果,先行研究と同様にMIEではPTHの上昇が観察され、個のような運動による骨吸収が促進することが推測された.一方、HIIE及びHIICEでは、PTH分泌を促進するiCaの低下が観察されず,PTHは少なくとも上昇しないことが明らかとなった.これらの結果は,有酸素性エネルギー供給機構の能力を向上させることが報告されている,このような高強度・短時間・間欠的運動,高強度・短時間・間欠的クロス運動をトレーニングに用いることにより,骨に関する障害を惹起することなく持久力の向上が期待できることが示唆された.

主な引用・参考文献

Shea, KL.et al.(2014)Calcium supplementation and parathyroid hormone. Med Sci Sports Exerc, 46(17):2007-2013.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
大岡 明穂 橋本 健志 ヒトにおける急性の高強度間欠的運動がオキシトシン分泌に及ぼす影響
緒言

オキシトシンは,脳の下垂体後葉から分泌されるホルモンである.女性の母性行動に関わり,自閉症患者への治療法にも用いられている.オキシトシン分泌亢進のための有効な処方に関する知見は乏しい.特に,ヒトを対象に,運動がオキシトシンの分泌へ及ぼす影響についての知見は乏しく,脳内で産生されるオキシトシン濃度を検討できていない現状である.身体に様々な良い影響を与える高強度間欠的運動(HIIE)により,オキシトシンが分泌されることを明らかにすれば,オキシトシン増加と健康増進の2つの効果を得ることが期待出来る運動処方になりうる.

目的

ヒトを対象に一過性のHIIEがオキシトシン分泌へ及ぼす影響を明らかにすること,脳内でオキシトシンが産生されたかを検証することとした.

方法

男性10名を対象とし,リカベント運動にて50-60% Peak Power Output(PPO)の負荷でWarming-upを5分間実施した.Warming-up終了後,負荷を80-90%PPOに移行し4分間運動をした後,負荷を50-60%PPOに移行し3分間運動を行うHIIEを5回繰り返した.運動開始前の安静時とHIIE終了直後に,内頸静脈と上腕動脈から同時に血液を採取し,血液中のオキシトシン濃度を測定した.内頸静脈から採取した血液のオキシトシン濃度から,上腕動脈から採取した血液のオキシトシン濃度を引いたものをv-a differenceとした.

結果および考察

上腕動脈と内頸静脈から採取した血液中のオキシトシン濃度が,運動前よりも運動後において有意に上昇した.長時間・長距離を有するウルトラマラソンで血中オキシトシン濃度が増加することを報告している先行研究では,オキシトシンを効果的に増加させるために60分以上の運動が必要だと述べている.しかし,本研究ではHIIEでオキシトシンが産生されることが明らかとなった.このことから,HIIEは短時間でオキシトシンを増加させることができる運動であり,オキシトシンを増加させるための有用な手段であると考える.v-a differenceの平均値は,運動前と運動後のどちらの地点でもマイナスの数値が出ており,上腕動脈の値の方が高いことがわかった.しかし,v-a differenceの数値がマイナスにもかかわらず,内頸静脈から採取した血液中のオキシトシン濃度が, HIIEにより増加したことから,脳内だけでなく他の部位でオキシトシンが分泌されていることが考えられる.

結論

ヒトを対象に一過性のHIIEを実施することで,間欠的な運動でも血中オキシトシン濃度が増加することを明らかにした.この結果は,自閉症患者や虐待の経験を持つ母親,愛着障害を抱える子どもにとって,オキシトシンを増加させ,他人に対して愛情や信頼を抱くようになる有効な手段であると考える.

主な引用・参考文献

Tamara Hew-Butler et al. (2008) European Journal of Endocrinology. 159, 729-737.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
東 晃希 篠原 靖司 「男子ラクロス選手における肩関節可動域の調査と障害発生の予測およびその要因に関する検討」
緒言

男子ラクロスを対象とした研究は,少なく,ほとんどが傷害発生の調査のみである.また,報告されている論文内の傷害は下肢に限局されており,上肢の障害に関する詳細なものは認めない.男子ラクロスはコンタクトによる外傷が多いが,オーバーヘッドスローイングを行う競技であるため,オーバーヘッドスローイング特有の障害が起こる可能性があると考えた.この研究の成果は,男子ラクロス選手に対する肩関節傷害への啓発と,その予防へと発展するといえる.

目的

本研究では,上肢に関するスポーツ障害の中で,特にオーバーヘッドスローイング動作に関与する肩関節傷害に着目し,男子ラクロス競技における肩関節障害発生の状況と,オーバーヘッドスローイングのオーバーユース障害に関係するといわれる肩関節可動域を計測し,ラクロスにおける肩関節オーバーユース障害発生の可能性を予測検討することである.

方法

立命館大学体育会ラクロス部男子の選手40名を対象とし,肩関節内転,外転,屈曲,伸展,内旋,外旋,IRⅡ90°外転位,IRF90°屈曲位,下垂位の9項目を左右計測し,ポジション,回生間による比較,検討を行った.

結果および考察

回生間における肩関節可動域の比較において,有意差は認めなかったが,4回生の肩関節可動域は,1―3回生より制限されている傾向にあった.また,回生が進むにつれて,肩関節可動域が減少する傾向にあることが確認できた.回生が進むことは,競技年数が上がることを意味し,その分肩関節にオーバーヘッドスローイングによる負荷が反復されているといえ,オーバーユースによる肩関節可動域の制限が起こっている可能性が推察できた.ポジション別の比較において,DFの内旋可動域が減少し,AT,MFの外旋可動域が減少した結果は,各ポジションで行うプレーの特徴が(パス,シュート,チェック)影響していることが示唆された.

結論

男子ラクロス選手にオーバーヘッドスローイングで発生する特有の肩関節可動域制限が認められた.これは,ラクロスにおいてもオーバーヘッドスローイング動作のオーバーユースによる肩関節障害発生の可能性が示唆され,障害の啓発と発生予防のため取り組みを行う必要があると考えられた.

主な引用・参考文献

岩佐知子・菅沼一男・知念紗嘉・丸山仁司 (2011) 投球数が肩関節機能に及ぼす影響‐中学生野球選手において‐.理学療法科学, 26(1):23-26.
馬渕博行・藤野雅広・岡本裕美子・桃原司・長尾光城(2006) ラクロス選手におけるスポーツ外傷・障害のアンケート調査結果.川崎医療福祉学会誌,16(2): 373-376.

スポーツ教育学コース

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
伊藤 菜緒 海老 久美子 「青年期女性(大学生)のダイエットに関する調査―メディアと痩せ願望、自尊感情への影響性―」
背景

日本人の20―29歳女性の低体重の痩せの割合は17.4%と6人に1人が痩せという現状である.若年女性の痩せや無理なダイエットは身体への影響が懸念されている1).今日ではマスメディア等によるダイエット情報の氾濫により,痩せ願望を持つ者が増加している2).メディアによる情報発信はボディイメージの悪化や摂食障害の危険因子3)と明らかにされている.しかし,痩せや痩せ願望とメディアに関する研究においてテレビと雑誌については研究されているが,ソーシャルメディアについての研究は少ない.

目的

本研究では,現在の大学生の痩せの現状,メディアの中でも(テレビ・雑誌・ソーシャルメディア)の利用率と自尊感情や痩せ願望との関連性があるかを調査した.

方法

本研究は立命館大学スポーツ健康科学部に在籍する2―4回生女子学生を対象にアンケートを実施し,85名の回答が得られた.アンケート項目は対象者の属性・身体状況・ダイエットの内容・自尊感情・メディアとした.

結果および考察

本研究の対象者を痩せ願望の有無で分類した場合,約8割のものが痩せ願望を持っていた.しかし、痩せ願望を持つものの9割以上がBMI「ふつう」体型であり,痩せる必要がないものであった.このことより,不要な痩せ願望を持つものが多くいることが明らかになった.
メディアの中で最もよく利用されていたのは,ソーシャルメディア(66%)であった.利用方法は,情報を得る項目が上位にあがり、情報を自ら発信する項目についての回答は少なかった.これより,ソーシャルメディアを自ら情報を発信するのではなく情報を得るために利用していることがわかった.
また,ダイエット実践者の痩せ願望とダイエット情報をメディアでみるかの2項目でクロス集計し,χ2検定を行った。χ2検定の結果をみると(χ2=8.168, df=1, p<0.05)となり,有意差がみられた.浦上ほかは痩せていることが望ましいとするメディアからのメッセージ自体が痩せたいという意識を強めるのではなく,メッセージによって「痩身理想の内在化」が促進され,はじめて痩身願望が引き起こされるのではないかと指摘している4).よって痩せ願望に至るまでの過程においての痩身理想の内在化に着目して調査をする必要があると考える.

結論

本研究の結果より,痩せる必要性がないにもかかわらず,痩せ願望を持ち,痩せ願望あるなし関係なく適正体重が認識できていないことが明らかになった.また,メディアに関してはソーシャルメディアが最も多く利用されていたが,情報を発信するためではなく,情報を得るために利用していることが明らかになった.適正体重の認識,メディアなどの情報の判断の方法を低年齢児から教育の中で指導していく必要性がある.

主な引用・参考文献

1)厚生労働省(2015) 2)高野ほか(2002) 3) Thompson and Heinberg (1999)  4)浦上ほか(2013)

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
松井 亜以 大友 智 「体つくり運動領域における体育授業単元の開発及びその効果の検証:小学校高学年の持久走を対象として」
背景

日本では国民の健康に対する意識が高まっていると共に,マラソン人気が高まっていることが推察できる.一方,学校現場のランニングは,この反対の状況を招いていることが危惧されている.そこには,体力を高めるための「持久走」と,競技である「長距離走」を混合し,授業の中で同じように扱うことで,単に長い距離を走るだけといった,児童生徒が学びを実感しにくいものとなっていたことが考えられる.よって,ランニングの授業を好意的に受けとめることが難しかったと考えられる.国立教育政策研究所(2014)は,教育に求められる資質及び能力として,思考力を中核とした「21世紀型能力」を提案した.尚,体育科及び保健体育科においても,児童の豊かなスポーツライフの実現に向けて,態度,知識及び技能並びに思考力,判断力及び表現力の柱を示している.このような資質・能力を獲得できる持久走授業の開発が求められる.

目的

本研究では,小学校高学年の持久走を対象として,体つくり運動領域における体育授業単元の開発及びその効果の検証をすることを目的とする.

方法

本研究は,S県K小学校の男性教諭が担当した5年生(1クラス,男子14名,女子15名,合計29名)の児童を対象として行った.また,体つくり運動領域(体力を高める運動)の持久走単元は,全7時間で計画した.尚,開発した持久走単元は,自分にあったペースを見つけること及び,長い時間走り続けることができることをねらいとして,「にこにこペース」(森村・田中,2010)及び「セイムゴール走」(岩田,2012)を教材として設定したものである.

結果及び考察

今回行われた持久走単元では,単元後の5分間走の記録が有意に向上した.知識を提供することでフォームに関する改善も見られた.形成的授業評価においては単元中盤から高い値で上昇傾向を示した.ラップタイムにおいては,下位群において有意に差を縮めた.単元内における児童の学習カードの記述数及び記述内容から思考力が促されたことが確認できた.ラップタイムの差のばらつきを縮めた児童とラップタイムの差を維持した児童の形成的授業評価は向上した.

結論

本研究の小学校高学年の持久走を対象として行った体つくり運動領域における体育授業単元を通して,ラップタイムが下位群において有意に差を縮めたことから,自己のペースを獲得したことを検証できた.単元内における児童の学習カードの記述数及び記述内容から思考力が促されたことが検証できた.また,ラップタイムの差における下位群と上位群の形成的授業評価の向上に関する要因が異なることが示唆された.以上から,本研究の目的である小学校高学年の持久走を対象とした,体つくり運動領域における体育授業単元の開発及びその効果を検証することができたといえる.

主な引用・参考文献

大友智・加藤寛司・国仲秀樹・山本貞美(1995)児童の持久走に対する態度の分析−学年・性に対して−.鳴門教育大学研究紀要(生活・健康編),10:61−76.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
後藤 祐太郎 岡本 直輝 「大学サッカー選手の他者評価とフィールドテスト及びスキルテストとの関係」
背景

サッカー選手のスキルは,動作そのものの評価に加え状況判断の要素を考慮するため,正確に定義し測定することが難しい.先行研究では様々なテストが検討され,指導現場で用いられている.テストを用いて指導者が選手評価をおこなう一方で,サッカー選手自身もまた,主観によって他者のスキルを評価している実態がある.このような主観による他者評価について言及した例は少なく,その妥当性については詳細が明らかとなっていない.

目的

そこで本研究の目的は,大学サッカー選手の他者評価と一般に用いられるフィールドテスト及びスキルテストとの関係を明らかにすることである.

方法

立命館大学体育会サッカー部男子の部員25名を対象に,アンケート調査とフィールドテスト及びスキルテストの測定を実施した.アンケート調査では,被験者に自分以外の全被験者を5段階評価させた.そして他者による評価の合計を各被験者の得点とした.また,フィールドテストは4種,スキルテストは5種であった.

結果および考察

フィールドテスト及びスキルテストの測定結果をポジションごとに群間比較したところ,20m走とDribble Cの測定項目でMF群がGK群より有意に速い値を示した(P<0.05).20m走の有意差は先行研究に類似した結果であるが,ポジションごとの被験者数の偏りも1つの要因だと考えられる.Dribble Cにおける有意差は,ポジション特性によるものだと考えられる.
フィールドテストの項目間の関係をみたところ,プロアジリティテスト,10m走,20m走が有意な相関関係を示した(P<0.05).10m走のスプリント能力が20m走に反映されたことに加え,プロアジリティテストのスプリント動作が10m走と20m走に類似していることが要因だと考えられる.同様にスキルテストの項目間の関係みたところ,ドリブルテスト3種が有意な相関関係を示した(P<0.05).Dribble CがDribble AとDribble Bの動作を内包していることに加え,タッチの大きさを調節することに長けた選手はドリブルスピードを効果的に調節していることがその要因だと考えられる.
一方で,他者評価の得点について項目間で関係をみたところ,テスト項目間に比べ多くの項目で有意な相関関係が示された(P<0.05).これは評価尺度の課題だけでなく,サッカー選手特有の考え方や判断過程を反映していると捉えることができる.
他者評価の得点とフィールドテスト及びスキルテストの結果の関係をみたところ,キック精度以外の8つの項目で有意な相関関係が示された(P<0.05).この結果は,被験者群の特性やチームコンセプトを反映したものだと考えられる.

結論

他者評価とフィールドテスト及びスキルテストとの有意な相関関係は,他者評価の妥当性を示すものであり,プレーを共におこなう期間が長い競技者集団では他者認知が的確に為されていると予想される.

主な引用・参考文献

麓信義(1981)サッカーにおける諸能力の主観評価とスキルテストとの関連について. 弘前大学教育学部紀要, 46: 35-41.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
田中 晴菜 佐久間 春夫 「サーバント・リーダーシップ力と共感性との関連について」
背景

近年の組織を取り巻く環境は大きく変化しているため,組織を持続可能な発展に導くことが組織のリーダーに求められている.時代の変化を受けて,サーバント・リーダーシップが注目されている(Greenleaf,1977).また,リーダーが集団から信頼を得るには,まず集団に同調することが必要である(池田,2015).そのため,リーダーシップを発揮するには,フォロワーを共感する力が必要であると考えられる.

目的

立命館大学の体育会,運動サークルに所属する集団のサーバント・リーダーシップとMESの関連について検討する.また,リーダーシップと共感性の性別やリーダー経験の有無の差異について明らかにする.

方法

立命館大学の体育会または運動サークルに所属する2回生から4回生の160名にアンケート調査を実施した.本調査では,質問用紙は,性別や所属グループ,種目,これまでのリーダー経験などの属性のほか,サーバント・リーダーシップ尺度,多次元共感性尺度を用いた.

結果および考察

大学でのリーダーの経験の有無において,大学でのリーダー経験あるもののリーダーシップ力が高かった.リーダー経験あり群はなし群よりも後輩や部下を共感するだけでなく,理解しようとするということが示唆される.サーバント・リーダーシップ尺度とMESについて,フォロワーとコミュニケーションを必要とする尺度では,他者指向的反応の影響度が大きかった.フォロワーとコミュニケーションをとる際,フォロワーに共感することが重要であり,組織の将来について考える点においてはフォロワーを理解する必要があると考えられる.性差については,男性は影響の受けにくさが大きくサーバント・リーダーシップ力に影響しており,女性はフォロワーを理解しようとすることが大きく影響していた.男性は部下の影響受けにくく,女性は部下のことを理解しようとしているので,サーバント・リーダーシップにおいて,共感性の影響度は女性の方が大きいということが考えられる.リーダーシップと共感性では性差が生じやすいということが考えられる.

結論

(1)リーダーの経験の有無でリーダーシップ力に差があり,リーダー経験あり群はなし群よりも後輩や部下を共感するだけでなく,理解しようとするということが明らかになった.(2)サーバント・リーダーシップ力とMESにおいて,リーダーはフォロワーの気持ちを共感する必要があり,組織の将来について考える点ではフォロワーの理解が必要である.(3)共感性は性別で有意な差が認められた.サーバント・リーダーシップ力において,男性は部下の影響受けにくい,女性は部下のことを理解しようとしていることがわかった.

主な引用・参考文献

・劉培.(2013)サーバント・リーダーシップの測定尺度について“日本版尺度の作成”・鈴木有美, & 木野和代. (2008). 多次元共感性尺度 (MES) の作成. The Japanese Journal of Educational Psychology, 56(4), 487-497.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
菅 秀人 永浜 明子 子どもへのスポーツ指導における「待ち時間」が指導成果に与える影響について
はじめに

スポーツが人に与える好影響は明らかだが,ここ数年のスポーツ実施率は横ばいであり,生涯スポーツの発展に向けた新たな方策が必要である.生涯スポーツの促進には,誰でも必ず経験する学校体育が重要な役割を持つのにも関わらず,体育授業の中でスポーツを「楽しい」と感じず,授業以外ではスポーツを行わない児童生徒も多い.スポーツ指導において,子どもの快経験を生む要素を明らかにしようとした研究は数多く存在するが,指導中の「待ち時間」に焦点を当てた研究は見当たらない.

目的

本研究では,スポーツ指導における子どもたちの練習に対する評価と,子どもたちがプレーしていない「待ち時間」の関係を明らかにし,動機付けをより促進する指導内容を提言することを目的とする.

方法

サッカースクールに通う4人の小学4,5年生を対象とした.ビデオ映像を用いた観察研究を実施し,「プレーの順番を待っている時間」,「指導者がルールや課題を説明する際の待ち時間」,「指導者が技術について助言する際の待ち時間」の3つの待ち時間の影響について,基本練習と介入練習を比較し検証した.検証には,形成的授業評価を基にした独自のアンケートを用い,対象者の性格や自己効力感と照らし合わせながら行った.

結果および考察

待ち時間によって生じる好影響及び悪影響が対象者全員に確認できた.好影響としては,待ち時間がゆっくり考える余裕を与え理解を深めること,理解の深まりから積極性やモチベーションが向上することなどが挙げられた.一方,悪影響としては,プレーできないストレスを感じること,ゆっくり考える余裕が必ずしも自分で考え,発見・納得する時間にならないこと,長時間に及ぶコーチの一方向的な説明・助言の時間がモチベーションや積極性を減退させることなどが挙げられた.

結論

スポーツ指導者は待ち時間に対して,①コーチの一方向的な説明・助言ではなく,子どもたちと共に考えるような説明・助言をする工夫,②プレー回数の少なさや長い話を聞くことによるストレスを減らす工夫,③子どもたちが自分自身で考える余裕を与え,理解を深めさせる工夫,という3つの工夫を行うべきだと言える.さらに,それらの工夫を1人1人の性格に照らし合わせながら行う必要がある.

主な引用・参考文献

一川誠(2008).大人の時間はなぜ短いのか.集英社新書,pp.125-126.岡沢祥訓・高橋健夫・中井隆司(1990).小学校体育授業における教師行動の類型に関する検討.スポーツ教育学研究,10(1):45-54.

スポーツマネジメントコース

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
YOUN Jeonghee 小沢 道紀 スポーツブランドのコラボレーションに対する消費者の認識と購買行動
緒言

現在の企業は、激しいグローバル市場で、日増しに変化している消費者たちの多様な欲求を充実させるためには、製品品質と価格競争だけでは利益を得ることが難しくなった。そのため、各ブランドは差別化マーケティングを実現するために既存の固有領域を超えるコラボレーション(Collaboration;協業)を重要なブランド戦略として投入することになった。このような流れにしたがってスポーツブランドも様々な業界とのコラボレーションを行っている。

目的

本研究では、スポーツブランドのコラボレーションに対する消費者たちの認知度、購買行動、要求度を調べて研究することにより、スポーツブランドのコラボレーション・マーケティング戦略が成功するための必要となる条件を提示することを目的とする。

方法

調査方法は質問用紙調査によるもので、対象となるのはスポーツブランドに興味がある10代~40代以上の人々が利用するソーシャルネットサイトでスポーツブランドのコラボレーション商品に対する認識、購買行動、要求度の調査を実施した。集めた資料は頻度分析(Frequency Analysis)とSPSSを活用し分析を行った。

結果および考察

回答者たちはスポーツブランドのコラボレーション商品に対して関心は高かったが、実際に購入した人の数は少なかった。購買行動に対してはSNSやインターネットから商品の情報を得て百貨店や店舗を直接に訪れて商品を購入するより、時間を節約することができる通販サイトを利用して購入することが分かり、実際に購入した商品には服、靴など日常生活で使用頻度が高いものを購入する傾向が高く現れた。 コラボレーションのメリットとして最も回答が多かったのは希少性と新鮮なデザインであり、デメリットとしては高い価格と買いにくいという回答が多かった。将来、コラボレーション商品に対する要求度には服と靴を買おうとする回答者が多く、希望する購入場所に対しては、通販より店舗での購入を希望していることが分かり、商品を購入する時、重視する点としてはデザイン、ブランド認知度、希少性を重視していることが分かった。これより、今後スポーツブランドのコラボレーション・マーケティング戦略が成功するための必要となる条件が明らかになったと考える。

結論

スポーツブランドのコラボレーション・マーケティング戦略が成功するためには既存の商品とサービスとは違う、新しい価値を顧客に提供できるかについての目的を先に設定することが重要だと考えられる。その後、徹底的な市場調査をしたうえで斬新なデザインによる差別化、インターネットやソーシャルネットワークを利用した効果的な広報、ユニークさを維持しながら誰もが納得できる商品数量と価格、店舗の役割拡大、日常生活で使用頻度が高い商品の研究・開発することによって、より効果的なコラボレーション・マーケティング差別化が実現できると考えられる。

主な引用・参考文献

日置弘一郎(2008)『コラボレーション組織の経営学』中央経済社,pp.23-24

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
大住 香生 種子田 穣 プロ野球における助っ人外国人選手から見るチーム強化戦略
-セイバーメトリクスを用いて-
背景

近年,プロ野球界は戦力均衡を図るようになってきた.これは,プロ野球がアメリカ型スポーツを目指し,川上(2015)によると,アメリカの4大プロスポーツは各チームの戦力を均衡させ,試合を面白くすることで商品価値を高めることを重視している.NPBもアメリカのリーグ運営を参考にしており,戦力均衡を図る戦略を取り入れている.具体的に,ドラフトの逆指名や分離ドラフトの撤廃,ウェーバー制の導入,FAによる人的補償が挙げられる.そこで,戦力均衡が保たれつつある近年,チームを強化するうえで,ドラフト戦略,選手育成,FAでの選手獲得,助っ人外国人の獲得が重要になってきている.その中でも,助っ人外国人のパフォーマンスは非常に高いため,GMやスカウトは,毎年多くの外国人を獲得調査する.この外国人枠をどのようにマネジメントするのかがリーグ優勝の鍵となる.しかしながら,MLBのスター選手であっても,日本のプロ野球に馴染み,活躍できるとは限らない現状がある.一方で,MLBで無名選手ながら,環境の変化に順応し,大活躍する選手もいる.

目的

本論文では,過去の文献を基に,成功助っ人外国人選手の定義づけを行い,NPB,MLBの選手データやセイバーメトリクスを用い,どのような特徴を持った外国人選手がNPBで成功を収めやすいのか明らかにする.結論では,分析結果を基に,今後NPBで活躍を期待できると考えられる選手を実名で挙げることを目的とする.

方法

主に,過去の文献を調査する.また,選手のデータやセイバーメトリクスを用い分析し,成功要因を明らかにする.

結果および考察

大成功助っ人に着眼すると,MLBでの実績がNPBでの成績に直結するという関係性は無く,NPB在籍複数年度にタイトルを獲得し,リーグ優勝へと繋がっていることから,編成部はなるべく日本でプレー経験のある選手を獲得すること,現場は多少成績が悪い場合でも,その選手を使い続けることが求められる.
野手では,やはり日本人には無いパワーヒッターを獲得する傾向が高く,その選手が本塁打王に輝きリーグ優勝に貢献していることが明らかになった.長距離砲を獲得する場合には,純粋な長打率を測るIsoPに着目し,数値が高い選手を獲得すべきである.
投手では,出身地,身長,年齢という3つの項目に着目し,それを踏まえてWHIPによる安定感,HR/9による被本塁打率がより優れた数値の選手を獲得すべきである.

結論

その研究結果を踏まえて,野手では,IsoP値0.223のフリースインガー元楽天のケーシー・マギー,投手では, WHIP値1.08,HR/9値0.18という非常に優秀な成績を収めたアメリカ出身,31歳,203cmというスペックを持つ元ヤクルトのローガン・オンドルセクを獲得すべきだと結論づけた.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
作田 大翔 長積 仁 価値共創の観点からみたランニング・コミュニティのロイヤルティに関する研究
背景

2007年に開催された東京マラソンを機に全国でマラソンブームが起きている.しかしながら,デサント株式会社(2013)が行った調査で約68%に人が6カ月以内にランニングを辞めることが明らかとなった.金崎(1989)はスポーツの継続には自主グループやクラブ・サークルに入会し,仲間と共にスポーツを行うことで継続化につながると指摘している.ランニングには誰でも始めやすいという利点がある.一方で,それぞれが異なる時間や場所で行うことから,ランニング活動体験を仲間と共有することが困難とされているため,継続しにくい特徴を持っている.その問題を解決するためにランニング・コミュニティへの所属が近年注目されている.しかしながら,ランニング・コミュニティに関する研究は数少ない.そこで本研究では金森(2012)によって明らかにされている,スポーツ・コミュニティについてのDART充実度が,経験価値を介して,スポーツ・コミュニティに対するロイヤルティを規定することに基づき,ランニング・コミュニティに対するロイヤルティの研究を行う.

目的

価値共創を生み出す要因となるDART充実度が,経験価値を介して,ランニング・コミュニティに対するロイヤルティに与える影響について明らかにする.

方法

本研究では「DART充実度」を独立変数,「経験価値」を媒介変数,「ロイヤルティ」を従属変数として分析枠組みを設定し,自主運営で行われている4つのランニング・コミュニティを対象に質問紙調査を行った.調査期間は2016年11月10日から14日の5日間で行った.

結果

階層的重回帰分析を行った結果,DART充実度における「コミュニティ参加への納得感」と「活動への納得感」が,ロイヤルティに対して正の有意な影響を与えることが明らかとなった.さらに,経験価値における「メンバーとの価値共有」を投入することで,R²乗値が上昇したことから,DART充実度が経験価値を介して,ロイヤルティに正の有意な影響を与えることが明らかとなった.

※(表1)階層的重回帰分析の結果

階層的重回帰分析の結果

結論

結果より,価値共創を高めることによってランニング・コミュニティに対するロイヤルティを向上させることができると示唆された.また,経験価値を介することで価値共創をさらに高めることができる.ここから,今後,ランニング・コミュニティではただ単に参加者と走るというサービスを提供するのではなく,参加者同士がお互いにランニングに関するアドバイスや情報を共有し合うことで,ランニング・コミュニティの発展やランニングの継続に寄与すると考えられる.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
田中 友紀子 山浦 一保 「リーダー継承がフォロワーに及ぼす心理的影響」
背景

リーダー継承は,フォロワーに心理的影響を与える.中内・飯尾(2008)は,社長交代に関して,前任者の退出形態および新社長の出身と,交代後のパフォーマンスとの関連について検討した.しかしこれはリーダーの退出形態と出身にのみ着目した研究である.それ以外,実証的なデータは十分に蓄積されていないのが現状である.
しかしながら,リーダー継承は,持続可能な組織づくりを目指す上で重要な問題である.特に,組織はリーダーとフォロワーで成り立っているため,両者の関係性の観点からも検討する必要があるだろう.この観点については交換関係の観点で体系化されたLMX理論を援用した.また,前任者だけでなく,新任リーダー(後任者)がどのような人物であるかもまた重要である.着任前の評判・噂が印象を形成し,新任者に対する受容度やフォロワー自身のモチベーションなどに影響を及ぼすことが考えられる.

目的

本研究の目的は,前任者とフォロワーのLMX(高・低)と後任者の評判の内容(Task面優位情報・Relation面優位情報)が,リーダー継承後のフォロワーに及ぼす心理的影響を検討することである.

方法

2016年10月に,部活動におけるリーダー(監督)の継承を想定した場面について,アンケート調査を実施した(場面想定法).調査参加者は,60(男性30,女性30)名であった.前任者との関係性(LMX)と後任者に関する評判の内容を組み合わせた4種類の小冊子を作成し,調査参加者はいずれか1種類を受け取った.その小冊子の場面を読み,心理的指標について,フォロワーの後任者へ対する受容度(α=.607),フォロワー自身のポジティブ感情(α=.734),モチベーション(α=.872)を測定した.

結果と考察

フォロワーの心理的影響を検討するため,2要因分散分析を行った.その結果,前任者のフォロワーのLMXが低いときの方が高いときに比べポジティブ感情が高かった.(F(1,55)=11.30,p<.01).この傾向は,後任者の評判がRelation面優位情報であったとき顕著になる(F(1,55)=14.95,p<.001).モチベーションに関しても,LMXに着目すると,ポジティブ感情と同様の主効果が認められた(F(1,55)=4.80,p<.05).それに加え,後任者の評判がTask面優位情報とき,Relation面優位情報よりもモチベーションが高かった(F(1,55)=39.96,p<.001).さらに交互作用効果が有意であり,これら高条件を合わせた条件(LMX低×Task)では,他条件よりもモチベーションが高かった(F(1,55)=4.52,p<.05).

結論

前任者とフォロワーの交換関係が悪く,後任者の評判が良い人柄に関する内容であった場合,他条件に比べ,フォロワーのポジティブ感情が高まることが明らかになった.また,モチベーションについては,後任者の評判がスキル経験の高さに関する内容であった場合にも高く,前任者とフォロワーの交換関係が悪く,後任者の評判がスキル経験の高さに関する内容であるという条件で,最も高まることが明らかになった.

主な引用・参考文献

中内・飯尾(2008)日本の製造業における社長交代とパフォーマンスの関係性―社長交代パターンと TMT 構成の観点から



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