ニュース

education

2017/5/24日 運動生理学の授業に、奈良女子大学生活環境科学系准教授の中田大貴先生を招聘し、「暑熱環境下におけるヒト脳の認知機能評価」について講義いただきました。


まず、自己紹介を兼ねて、これまで先生が遂行されてきたヒトの行動制御に関する生理学的、心理学的、健康科学的、人類学的研究についてご紹介くださいました。例えば、TVにもオンエアされた、体操の内村選手のイメージトレーニング時の脳の活性化状態や、ご自身が野球に携わってこられた関係から、バッティング時の重心移動の熟練者と一般者の比較に関する研究、そして「伸びる」ボールとはどういったボールか、小中学生が速い球を投げるには、どういった体力要素が重要か?など、興味深いお話ばかりでした。こうした科学的データを基に、例えば運動が苦手な子どもを対象に体育指導する際の手立てを考えることができるということで、教員を目指す学生も多い当該受講生にとっても、有意義なお話であったかと思います。

 

また、相対的年齢効果についての解析結果もご紹介くださいました。日本では4月からの学年暦ですので、同学年でも4月生まれと3月生まれでは1年近い開きがあります。当然、ジュニア期でのスポーツ競技において、体格や筋力に差が生じ、学年の始めの方に生まれた者は身体的優位性からレギュラーに選ばれやすく、経験を積みやすいこととなり、また成功体験が自信に繋がるなど、好循環になることが多いわけです。実際に、先生が膨大な資料をまとめて解析された様々なスポーツ選手の誕生日の特性をご紹介くださいました。予想通り、野球やサッカーなどのメジャースポーツの選手に、1〜3月の早生まれの選手は少ないことがわかりました。逆に、体重制限のある競馬の騎手には早生まれが多いこともわかりました。3月生まれで野球をやっている我が息子ですが、地道に練習して頑張ってもらいたいと思います。

 

さて、暑熱環境下の運動では、熱中症の危険性が増したり、パフォーマンスも低下することが多いです。運動パフォーマンスの低下には、末梢性の要因など様々な理由が考えられますが、先生は認知機能の低下に注目して研究をしておられます。ヒトの脳機能の評価方法として、私の研究室でも実施している、課題処理能力をテストする認知機能テストがありますが、先生が主に用いられているのが脳波測定です。特に、事象関連電位という、外的あるいは内的な事象に時間的に関連して生じる脳の一過性の電位を計測することで、脳での認知処理を計測しておられます。

 

実験では、被験者に温水や冷水を循環させることができるスーツを着てもらい、体温を調節した際の脳波を測定されています。その結果、体温が上昇すると、認知機能が低下することが明らかとなりました。この時、頭部を冷却すると、快適感や脳血流量の低下は改善されるのですが、脳波測定でみる認知機能の回復には至っておらず、やはり全身を冷却して深部体温を正常化させることが重要であることが明らかとなりました。それでも、運動能力に関わる認知機能の完全な回復には至らず、今後の更なる研究が求められます。暑熱時の運動に関わることが多いスポーツ健康科学部生にとって重要な知識をわかりやすく教授くださいました。

 

2020年東京オリンピックは真夏に開催されます。選手のみならず、観戦者にとっても暑熱対策は重要な課題です。本講義を参考に、受講生には現場での暑熱対策の実践に役立てて欲しいと思います。

 

中田先生、ありがとうございました。