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文部科学省科学技術・学術政策研究所 上席研究官 平井祐理先生特別講演


去る713日に、文部科学省技術・学術政策研究所第2調査研究グループの上席研究官である平井祐理先生をお招きし、「スポーツ健康科学の可能性:大学におけるナレッジマネジメントと産学連携」というテーマでご講演いただきました。

2020年に策定された「学園ビジョンR2030チャレンジデザイン」において、「社会共生価値」を創出する「次世代研究大学」として、「イノベーション・創発性人材」を輩出することが重要な基軸として据えられました。これまで立命館大学では、COI STREAM(革新的イノベーション創出プログラム)、EDGE-NEXT(次世代アントレプレナー育成事業)、超創人財育成プログラムなど、様々な取り組みに手掛けてきましたが、これらの取り組みをさらに発展させるとともに、スポーツ健康科学部・研究科がこのような取り組みにおけるハブ機能を果たし、プレゼンスを向上させるための鍵を握るのは、ナレッジマネジメントと産学連携にあると考え、平井先生をお招きして、「スポーツ健康科学の可能性」について考える機会を設けました。

平井先生は、ご自身が手掛けられた3つの研究に基づき、話を進められました。1つめは、2020年度において2905社に上る「大学発ベンチャー企業」に関する研究で、1989年度には54社しか存在しなかった大学発ベンチャー企業が2001年度に掲げられた「1000社計画」によって、以後、急速に発展を遂げた背景について説明されました。また大学発ベンチャー企業において、どのようなチームを構成することが売上高などの業績によい影響をもたらすのかを探られ、組織成員のデモグラフィック特性のみならず、戦略や目標に対するメンバー内の同意の程度を示す「戦略的コンセンサス」や、メンバー内の信頼にかかわる情緒的・個人的な人間関係といった「個人的な親密さ」といったプロセス要因が業績に影響をもたらすと説明されました。とりわけ、組織内のダイバーシティ、結束をもたらす同質的なグループよりも、意識的なグループの方が創造性や認知能力を高め、業績にポジティブな影響をもたらすと説明されました。

2つめは、「大学発ベンチャーの社外におけるネットワークに関する研究」について紹介され、組織内にリソースが乏しいベンチャー企業において、組織外のリソースをどのように活用すべきかについて述べられました。とりわけ、組織内のメンバーが構造的に「非冗長的」、つまり、知り合い同士が互いにつながっているような組織ではないほど、組織外のネットワークから豊富な情報や新しい機会が組織にもたらされ、革新的なアイディアが生まれやすいと説明されました。また信頼関係に基づく強い紐帯を持つ大学発ベンチャー企業は、きめ細やかで質の高い情報や暗黙知が得やすいものの、ネットワークが閉鎖的になりやすく、経営リソースが得にくいと述べられました。それに対して、弱い紐帯によって組織外へとネットワークが開かれている組織は、情報が重複しにくく、必要なリソースを得やすいだけでなく、関係維持コストも低く抑えられると述べられました。

3つめは、大学が実施する「社会人向けプログラム」におけるナレッジマネジメントの研究で、社会人における「社会での学び直し」が組織にどのような効果をもたらすのかについて説明されました。鍵を握るのは、「吸収能力」であり、新しい外部の価値を認識し、吸収した知識や価値を同化・内在化する能力が重要であり、結果的にそのような行為が売り上げや業績といった企業の成果に応用される必要があると述べられました。中でも、教育プログラムを受講した社員が自身の思考の展開や実務に学びを活かすだけでなく、学んだことをいかに咀嚼して、社内の人たちに吸収した知識や価値を伝播させることができるかが、「社会での学び直し」を意味づけることになると述べられました。

大学院生や教員からも活発な質問が寄せられ、平井先生の講演内容と丁寧な説明に多くの参加者が刺激を受けた様子がわかりました。今回いただいたご縁を大切にしながら、学園、学部・研究科の発展に今後もいろいろとご助言いただくことができればと思いました。平井先生、本当にありがとうございました。

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