リレーコラム

2017年03月24日

立命館大学教育開発推進機構講師 河井亨
東京大学大学総合教育研究センター 木村充

学生にとって「書くこと」はなぜ難しいのか

河井亨(立命館大学教育開発推進機構)
木村充(東京大学大学総合教育研究センター)

1. はじめに
 サービス・ラーニングは、ボランティア活動という経験を通じて学ぶことを意味します。サービス・ラーニングでは、サービスとラーニングのバランスをとること、両方の質を高めていくことが目指されています。ラーニングの質を高める上で、書くことがとても重要になってきます。このコラムでは、現場での活動を通じて学ぶ中で「書くこと」はなぜ難しいのかについて考えてみたいと思います。

2. 「書くこと」を難しいと感じる理由
私たちは、学習者自身が「現場での活動を通じて学ぶ中で『書くこと』は難しい」と考えている理由を探ることにしました。2015年度と2016年度にワークショップを実施して探っていった結果、「書くこと」が難しいと感じる理由を大きく3つにまとめることができました。



第1の理由は、何のために書くのかという書く意義を十分に理解していなかったり、書くという大きな手間をかけてもどういう効果があるのか分からなかったりして、なぜ書くのかがわからないというものです。このことに関わって、書いたものに細かくフィードバックがもらえるならば、書く意義がわかるという声もありました。教える側からすれば、どの程度のフィードバックならば現実的に可能かや、どういった形態のフィードバックならば効果的かつ可能かという点は考える必要があるでしょう。
 第2の理由は、第1の理由と密接に関連する理由で、具体的に何をどう書けば良いのかがわからないというものです。書くことの意義がわからないためにどう書いたらいいかがわからなかったり、どう書いていいかがわからないために意義や効果を実感できなったりと、悪循環があります。こうした悪循環の結果、書く習慣も身につかないという事態になってしまいます。
 また、第3に、実践的な理由の1つとして、書く時間がとれないという理由があります。多くの場合、実際に活動している間には書く余裕がなく、活動から離れてからは書く内容を忘れてしまうようです。また、普段から書く習慣がないために、書く時間を確保できないということもあるでしょう。この第3の点は、書く意義が分かって(第1の理由)、書く方法が具体的につかめれば(第2の理由)、解消できそうです。

3. 現場での活動を通じて学ぶ中で「書くこと」にどうアプローチするか
 学習者が現場での活動を通じて学ぶ中で「書くこと」が難しいと感じている理由について見てきました。ここからは、学生が「書く」ことを実現するために、どうアプローチするかについて考えていきたいと思います。
 どのような意義を重視するか(言い換えれば書くことによって到達することを目指す学習成果を何とするか)によってどのような書き方を示すかが決まってくることでしょう。学習成果をパーソナルな成長とするならば、自身のパーソナルな受け止めや認識や感情について書くことを方向づけることになります。学術的な知識や理解を目指すのであれば、学術知識を読み・調べた上で書くことを求めることになるでしょう。学習成果としてキャリア形成を重視するのであれば、学習者のそれまでの人生と現場での経験とその後のキャリアを連続的に結びつけたり、キャリア展望を明確化することに関連づけたりすることを意図して書き方をガイドする必要があります。
 このように、まずは、教育する側としてどのような意義・学習成果を目標とするのかを突き詰める必要があります。次に、意義が明確になったとしても、それだけで即座に学習者が意義を納得し、即座に「書くこと」ができるようになると考えることはできません。学習者が効果的に「書くこと」に足場をかけて到達するには、実際に効果的に「書くこと」ができるよう、教材や課題をデザインすることが必要になってきます。そうしたデザインのポイントは、デザインされた教材を用いて課題に取り組む立場にある学習者が、その教材や課題の意図するところをばらばらしたものではなく、一体のものとして把握できるかどうかにかかっています。実践的には、日常で書くメモ、定期的に提出することになるジャーナルや活動報告書、最後のレポートといった「書くこと」に関わるもの全てに関して、一貫したメッセージを学習者が受け取ることができることが重要です。教える側は、あれもこれもと学習者に期待します。その結果、膨大な情報が統合されずに学習者の前に出されては、学習者は立ちすくむことになってしまうおそれがあります。必要不可欠なものに絞り込むことが必要です。また、はじめて触れる内容ややり方に対して、最初から熟達者や経験者であれば理解できるような高度に構造化されたものを渡されても手に余ります。一歩一歩到達地に到達していくようなロードマップをデザインすることが必要となります。核となるエッセンスの部分を残しつつ、教育実践の時間を経ていく中で、学習者ができるようになっていくことができるようにデザインすることが教える側にとっての挑戦となります。

 

4. おわりに
 今年度の研究では、「書くこと」がなぜ難しいのかや、実際に学生は「書くこと」についてどういう意識を持っているのかを探り、「書くこと」について教育を開発していく方針を打ち立ててきました。次年度以降の研究で、実際に教材や課題を開発し、その教材を用いた結果をアセスメントし、フィードバックして改善していくことに取り組み、有効に活用できる教材や課題を提示していくことを目材していきたいと思います。