リレーコラム

2019年01月08日

サービス・ラーニング・ネットワーク・ジャパン 代表
市川 享子

サービス・ラーニング・ネットワーク・ジャパンの展望―日米の比較から―

 筆者が米国における教育機関が連なるサービス・ラーニングのネットワーク組織について知ったのは、2008年にアトランタのOglethorpe
大学で開催された、“ProfessionalDevelopmentInstitute for CommunityService andService‐LearningProfessionalsへの参加がきっかけでした。ここには全米のサービス・ラーニングセンターのディレクターやコーディネーターなどが集い、サービス・ラーニングに深く影響を与えた米国の人権活動やサービス・ラーニングの思想や理念、具体的な教育手法について、理論と実践から両面から学べる場として機能していました。企画していたのは全米の教育機関を横断したサービス・ラーニングのネットワーク組織Campus Compactです。米国で発展したCampus Compactは、市民教育と地域社会の開発を通して民主的な社会の形成(Build democracy through civic education and community development)を目指して2001年に発足し、現在では1000を超える教育機関や団体が加盟しています。


 日本において、サービス・ラーニングを生かした教育改革が進行したのは、1990年代後半からと言われています。教育機関が若者の主体形成に関わっていく必要があると認識され、社会構成主義的な学習観が主流になるなか、教育/学習パラダイムが教育から学習に転換し、主体的能動的で、多様な人々と協働しながら学習を深める重要性についての共通認識が持たれるようになった時期です。現代社会は予測困難であるがゆえ、答えのない問題に対して解を見出していく力(いわばコンピテンシー)の育成を重視するような文科省の教育改革施策とも、親和性があったといえます。教育の側だけでなく、社会においても、孤立や格差の拡大、少子高齢化や人口減少などの課題があるなか、社会の再構築という要請にも応えるような大学の役割の転換があります。教育と社会の両者の要請から、近年サービス・ラーニングを生かした、地域づくり(社会の再構築)や教育改革は加速しています。


こうした背景から生まれたサービス・ラーニング・ネットワーク・ジャパン(SLNJ)は、大学でサービス・ラーニングを教育手法として実践している教職員などの関係者や、サービス・ラーニングに深く関心を持ち、研究の意思を持つ者たちがネットワークを構築し、経験や情報を交換し、共に高め合うとともに、日本の教育界におけるサービス・ラーニングへの理解を促進するために2015年に任意団体として発足しました。


 アメリカで発展してきたCampus Compactが学長レベルで締結するネットワーク組織であったことに比較して、サービス・ラーニング・ネットワーク・ジャパンはグラスルーツの現場レベルから立ち上がってきたものですが、ナショナルレベルで、サービス・ラーニングを牽引してきた立命館大学のサービス・ラーニングの先生方をはじめとして、最先端で実践や研究を担う方々の力が結集しながら、また新たにサービス・ラーニングを始めようとしている関係者ともつながりながら、活動を展開しています。今年度から運営委員には高校教員も加わり、中等教育や高大接続とも関わりを広げています。


 立ち上げから3年間の成果として、①全国フォーラムの実施、②サービス・ラーニング手法の開発と普及(具体的には、評価と振り返りのためのハンドブックの作成)、③サービス・ラーニング理論の普及(サービス・ラーニング理論書の翻訳出版:交渉中)④調査・研究(サービス・ラーニングの実施状況に関する全国調査)などが進められてきました。今年度より定期的に研修会も企画され、ネットワークに連なる人々の学び合いを促進していきます(次回の研修はこちら:https://sites.google.com/view/sl-network/home)。


 大学教育改革の一環として、主に教養教育として発展してきたサービス・ラーニングですが、近年では複眼的な視点を持つ専門家養成や学際的な問題発見と解決力の涵養をねらいとした学部教育の再編成にも有用なものとして注目されています。


 最後に、日米のサービス・ラーニングとそれを取り巻く状況を概観した上で、2つ提言をしたいと思います。日本でも米国においても、教育機関もそこに携わる人々も、これまで以上にEngagement(社会参画)が重視されるとともに求められています。サービス・ラーニングは幅広い意味で教育と社会をつなぐ装置でありに、つながりを創り出すサービス・ラーニングのような機関やそれを担う教員やコーディネーターの重要性は増すばかりです。アメリカでは、サービス・ラーニングを担うコーディネーターは、Academic Professional として専門性が確立しています。日本でも、コーディネーターという、教育と社会をつなぐ機能を果たす専門家への認知がさらに高まっていくことを期待したいと思います。第2に大学においては、教育に加えて研究においてもCommunity-Engaged Scholarship(地域を基盤にした学術)も探求される必要があります。Engaged Campus(社会参画する大学)として、大学における研究という使命と機能が、より地域社会に関わり貢献していくような研究にも発展させていく必要があります。


 以上のような展望を持ちながら、サービス・ラーニング・ネットワークが、今後さらに教育と社会に貢献できることを願っています。