リレーコラム

2013年02月01日

東京大学大学 院学際情報学府 博士課程後期
木村 充

学びをどう評価するのか?-後編-

 連続コラム―学びをどう評価するのか?―、前回に引き続いてサービスラーニングでの学生の学びをどう評価するかというテーマで述べていきます。

 前回は、評価は、成績を決定するだけでなく学習達成度を確認するという側面を持つこと、そして、サービスラーニングでの学びを評価する際に効果的な方法としてルーブリックが使用されていることをご紹介しました。今回は、そのルーブリックについて、どのように作成するのか、なぜ効果的だと考えられているのか、実際にどのようなものが使用されているのかをご紹介します。

どのようにしてルーブリックを作るのか?

 ルーブリックは、学びを評価する際の基準となるものです*1。ルーブリックの作り方は様々ですが、ここでは一例として、スティーブンスとレヴィが述べている作り方*2 に基づいて、簡単にご説明します。
 彼らは、ルーブリックを作り方として、①リフレクション、②リスト化、③グループ化とラベル付け、④アプリケーションの4つの段階を設定しています。

1. リフレクション(Reflecting)
 この段階では、授業での学習目標は何か、どのような課題を課したか、授業で学生に達成してほしいことは何かなどについて、事前に検討していきます。例えば、ここでは、授業の結果として「学生に問題解決能力を身に付けてもらいたい」「問題解決能力とは何を知り何ができるようになることなのか」といったことを考えていきます。

2. リスト化(Listing)
 この段階では、学生が学習目標を達成したことがどのような証拠によって示されるのかを列挙していきます。これは後述する「観点の記述語」の指針となります。例えば、学生が問題解決能力を身に付けることが学習目標であった場合には、実際に問題解決する際に「問題を正確に把握できている」「解決策を提案するだけではなく実行に移せている」といったことが証拠になるかもしれません。

3. グループ化とラベル付け(Grouping and Labeling)
 この段階では、1と2の結果に基づいて、類似した証拠をグループ化し、それにラベル付けしていきます。上の例で言うと、「問題の設定」「解決策の実行」といったグループに分類し、ラベル付けすることができるでしょう。


4. アプリケーション(Application)
 この段階では、3の結果に基づいて、ルーブリックの「観点」や「観点の記述語」に当てはめていきます。この際、各基準について違いがはっきりわかるように記述することが求められます。

              

 

 このような、期待される結果を明確にし、それを示す証拠を決定し、学習経験を計画していく方法は「逆向き設計」と呼ばれています。ウィギンズとマクタイは、逆向き設計はルーブリック設計の手助けになると述べています*3。

なぜルーブリックが注目されているのか?

 サービスラーニングの学習目標は、問題解決能力や対人関係能力、市民的責任感の涵養といった、把握することが困難なものであることが多いです。このような学びを評価する際は、従来は学生の自己評価によるものが主流でした。しかし、このような学生の自己評価は、学びを客観的・直接的に評価するものではなく、学んだと感じるものを主観的・間接的に評価するものです。そこで、サービスラーニングでの学生の複雑な学びをより直接的に評価するために、様々なツールが提案されています*4。その代表的なものがルーブリックであると言えます。
 ルーブリックは、以下のような特徴を持っているツールであると言えます。
・一定の客観性を確保しつつ学生の学習場面に即した評価を行うことができる
・学生自身が学習目標を的確に設定することができ、それに従って自らの学習の実態を明確にできる
・評価を即座に学生にフィードバックすることができる
・異なる評価者が評価しても、類似した評価が得られやすい
このような理由から、ルーブリックは、欧米において数多くの教育機関で導入されています。

どのようなルーブリックが使われているのか?

 サービスラーニングでの学生の学びを評価するツールとして代表的なものに、P-SAP(Problem Solving Analysis Protocol)やDEAL(Description, Examination, Articulation of Learning)Model for Critical Reflectionがあります。これらは、特定の成果を評価するよい指標として使用されています。また、全米カレッジ・大学協会(AAC&U)が作成したVALUE Rubrics*5 も、サービスラーニングだけでなく、一般教育での学生の学びを評価するものとして広く使用されています。これらのルーブリックは、学びを評価する際の基礎的な枠組みを提供してくれます。教員は、これらの枠組みを参考にして、それぞれの授業に適したルーブリックを開発していきます。

最後に

 ルーブリックは、やみくもに導入すればいいというものではありません。既にお気づきかもしれませんが、ルーブリックは作るのにそれなりの時間と労力がかかります。また、学生の人数が多いと実施も大変です。従来のペーパーテストなどで学習目標の達成度が評価できるのであれば、必ずしも導入する必要はないでしょう。あくまでルーブリックは学びを評価する方法の一例に過ぎません。
 しかし、評価基準が必ずしも明確でなかった学習・教育目標については、ルーブリックを導入することで効果的な評価を行うことができます。ルーブリックの導入は、学生が自らの学習を自己管理し、それを通じて教員も自分の授業を振り返ることを可能にします。ルーブリックは、学生の学習と教員の教育の改善を支えるものだということで、特にPBLやサービスラーニングなどでの導入が進んでいます。
 評価は、学生の学習達成度を確認し、学生の学びを深めるという側面を持っています。学生の学びの深化に貢献する評価を行うためには、学習目標を明確にした上で、達成度を適切に示す証拠が何かを検討し、その証拠を適切な方法によって評価することが重要になるでしょう。そして、よりよい評価を行うためには、多様な証拠を多様な方法によって評価することが求められます。カリキュラムを設計する際に、どのような評価方法があるのかを知り、それぞれの評価方法の特徴を理解し、どのような評価方法をどのような場合になぜ使うのかを検討すること―学びをどう評価するのか―は、普段見過ごしがちである「なぜ評価するのか」という本質的な問いを再確認させてくれます。



*1 前回の記事を参照。
*2 Stevens, D.D. & Levi, A.J. (2005). Introduction to rubrics : An assessment tool to save grading time, convey effective feedback and promote student learning. Sterling, VA: Stylus Publishing, LLC
*3 Wiggins, G. & McTighe, J. (1998). Understanding by design .Alexandria, VA: Association for Supervision and Curriculum Development.
*4 Steinke, P. & Fitch, P. (2007). Assessing service-learning. Research & Practice in Assessment, 1(2), 1-8.
*5 Association of American Colleges and Universities (AAC&U). (2010). VALUE: Valid Assessment of Learning in Undergraduate Education. Retrieved from http://www.aacu.org/value/