コラム

Column

「震災から4年、長野から~地域の支援を通して見えること」(下)

島根県立大学総合政策学部准教授
(2020年3月末まで 立命館大学共通教育推進機構講師)
宮下 聖史
前回に引き続いて、栄村復興支援の経験について書きます。前回は、私が深く関わった長野大学による復興支援活動の展開過程について整理しましたが、それを受けて今回は、栄村地域政策の歴史的展開を簡単に振り返りながら、復興地域づくりの現段階と課題を論じます。そして最後に、今後本学にてサービスラーニングに取り組むにあたっての心構えや、サービスラーニングセンターとして計画している研究会のコンセプトについて記したいと思います。

「実践的住民自治」と「小さくても輝く自治体」
 長野県栄村は、5期20年続いた高橋村政のもと「実践的住民自治」を掲げ、「平成の大合併」論議で全国的に大きな影響を与えることになる「小さくても輝く自治体フォーラム」の発祥の地としても広く知られています。
 日本有数の豪雪地帯であり、村内面積の約9割が森林で覆われる栄村ですが、歴史的には外来型の地域開発に翻弄されてきました。例えば昭和期には森林資源や水資源に着目した製紙業界や電力資本が流入し、それら資本の撤退による経済・社会・自然環境の激変を経験します。その後もバブル期に誘致した工場の突然の撤退という憂き目にあうなど、かかる経験が地域外の大資本に頼らない独自の内発的な地域づくりを模索する地下水脈となっています。
 そこで、栄村では高橋村政のもと、村の実情に見合った公共事業を行政と住民の協働で進めていきます。国の補助事業より大幅な低コスト化を実現した「田直し」や「道直し」、「げたばきヘルパー」などの施策を実現し、これは村内の経済循環を作り出す試みとして、地域経済学や公共政策の分野から高い評価を受けてきました。
 ただしかし、こうした地域政策の実施にも関わらず、2010年国勢調査によると人口2,215人、高齢化率46.2%であり、人口減少と高齢化の進展に歯止めがかかっていません。人口はこの半世紀で約1/3に減少したことになります。もっとも、周知のとおり、人口減少と高齢化の進展は全国的な構造的問題であり、栄村のような条件不利地域において、何とか踏みとどまってきたという見方もできるかもしれません。

復興地域づくりの現段階と課題
 ここで震災後の栄村復興地域づくりにおけるポイントを整理しておきたいと思います。まず評価点として、地域の資源を活用した循環型の産業・仕事づくりが進められていることです。具体的には森林組合によって木質チップの製造と村内宿泊施設のボイラーへの供給が行われ、ここに新たな雇用が創出されています。加えて、30‐40代の世代を中心に、村内には農業の6次産業化やブランド化を進める農家グループや環境教育に取り組むNPOなどが活動し、連携が図られています。また集落再生の取り組みとして、例えば13世帯からなる小滝地区では、ブランド米の生産・販売や集落内を通る古道の整備と観光ツアーの実施など、集落の資源を活用した実践活動のほか、集落独自の復興計画を策定しています。これらの実践が軌道に乗るかどうかが、栄村復興地域づくりの試金石になるでしょう。また栄村には復興支援員や地域おこし協力隊といった地域支援者が入っています。
そこで栄村復興地域づくりを進展させていくためには、住民の自治的活動を基盤としてそれを行政等が支援していくプロセスのなかに地域支援人材を位置づけ、産業振興と集落再生、定住人口の確保へとつながるサイクルを作っていくことがポイントになるでしょう。加えてこうして“むらぐるみ”になってこそ、「自律」の意義があるといえます。換言すればそれは地域づくりの文脈、物語作りに多様な主体が関わっていくことであり、そのことによって新しい価値を作り出すことです。
 他方で、栄村の復興地域づくりは国が進める復興事業に主な財源を捻出しています。そのこと自体は当然のことともいえますが、かかる政策メニューのスケジュールを通じた予算消化に引っ張られてしまっては、そこに住民の議論が追い付かないというジレンマを抱えることになります。これを克服していくためには、地場産業の振興を通じて雇用の創出を進め、できる限り村としての財政的自律(立)を進めることです。自給経済や互酬経済がかなりの程度存在している栄村では、「地域に小金を回す」ことも有効です。使い勝手のよい補助制度を生み出すため、実際の経験を踏まえた国や県への提言も必要でしょう。

本学に着任して
 前回のコラムに記したように、支援活動の中に系統的な学習と実践を組み込む展開が生み出せなかったことが私自身の反省点であり、この課題は本学において本格的にサービスラーニングに取り組むことにつながっているように思います。
 改めてサービスラーニングとは、教室での学習と現場での実践を車の両輪とした学びの手法であり、かかる学生への教育機会の提供と併せて現場の課題解決に寄与することによって、両者がともによい効果をあげられることを目指す考え方といえるでしょう。そのうえで最近は、多様な主体が知恵を持ち寄ることによって、新たな真理や価値を生み出すという「集合知」という概念に注目しています。実際、既に様々な形で学生の新鮮なまなざしが思わぬ形で地域再生に寄与していく経験をしています。こうした考え方に則って、サービスラーニングの概念の深化と実践の推進を目指していきたいと考えています。
 最後に相次ぐ自然災害を前にして、日ごろからの地域連携はそのまま非常時の減災、防災の資本になります。社会学ではこれを「ソーシャル・キャピタル」などと呼びますが、栄村でも、あれほどの震災で直接の死亡者がいなかったことは奇跡的であり、集落内の濃密な人間関係が迅速な避難や安否確認を可能としました。
 サービスラーニングセンターでは、ボランティア・サービスラーニング研究会を行っており、2015年度のテーマを「減災社会の形成に向けた大学の役割-日常の活動と非日常の備え-」としました。地域との関わりのなかで災害に備えて学生ができること、また学生への支援のあり方について教学的な観点から検討を行っていくことを目的としています。研究会の成果は今後のリレーコラムにて紹介していく予定です。

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