コラム

Column

震災PBLとサービスラーニング:距離を越えてつながりあうこと

立命館大学共通教育推進機構 准教授 山口 洋典
支援活動を学びの手がかりにするということ
 古代ギリシャの哲学者、アリストテレスは信頼(エトス)と共感(パトス)と論理(ロゴス)が人を動かすと説きました。恐らく、高校時代の私が今の私に会えるなら、こんな語り口をするなんて思いもよらなかったでしょう。それまでも理屈っぽかったかもしれませんが、他者と関わり、交わり、言葉にこだわることの大切さを実感したのが、大学1回生の時に経験した阪神・淡路大震災です。当時、京都に住んでいた私は、被災した側ではなく、支援する側で、震災復興に向き合うこととなりました。
 阪神・淡路大震災から16年、学ぶ側ではなく働く側で立命館大学に身を置いていた私は、東日本大震災でもまた、支援に携わることとなりました。具体的には、立命館災害復興支援室の立ち上げに参加すると共に、サービスラーニングセンターにおいて震災ボランティアを組み込んだ教育プログラムを企画・実施することなりました。その際に参考にしたのが、神戸での支援活動について、臨床哲学の観点から論考した鷲田清一先生の言葉でした。当時、大阪大学の総長であった鷲田先生は、東日本大震災から2週間を経たところでなされた卒業式において、被災された方々にマイクを向けるマスコミの取材の様子への問題提起として、介護の現場においてスタッフが「おいしい?」と訊ねることと「おいしいね」と囁きあうことを例示し、両者のあいだにあらわれる精神的な距離の違いを指摘しました。
 こうして、ささやかな私の経験と、他者によって紡がれた言葉を手がかりに、被災された地域から一定の距離がある立命館大学による支援では「支援者支援」という視点を重視することにしました。スローガン風に言えば、「for」ではなく「with」、誰かのために、ではなく、あなたと共に、という姿勢です。阪神・淡路大震災から15年、2010年1月15日の京都新聞の記事に「押しつけの善意、善行ではない」という記事があるのですが、実はその中で描かれたボランティアの失敗談は、私が現場でもたらしてしまったことでした。困った方々を何とか支えたいという願いは誰もが抱くことではありますが、その思いが先走ってしまうことがないようにと、支援する側の論理を押しつけず、丁寧に信頼関係を築きながら共感の輪が広がる現場を支えていく、そうした取り組みを進めることにしたのです。

震災Pから減災Pへ
 東日本大震災の発災が3月11日ということもあり、サービスラーニングセンターでは正課外のプログラムを中心に支援の取り組みを企画・調整していきましたが、4月1日に文部科学副大臣により「東北地方太平洋沖地震に伴う学生のボランティア活動について」という通知が出たことで、正課の授業でも何らかの取り組みができないか検討されることとなりました。結果として、後期セメスターの認定科目である「地域活性化ボランティア」(2012年度から「シチズンシップ・スタディーズI」に移行)に新たなクラスを増やし、立命館災害復興支援室との連携のもとで活動先と内容を決定するプロジェクトが設置されることになりました。ちょうど、管理者側の都合でボランティアを抑制することの是非論(例えば、村井雅清『災害ボランティアの心構え』ソフトバンク新書、2011年)も高まっていたこともあり、抑えるのではなく妨げない、妨げるのではなく促す、そうした場と機会を生み出すことに心掛けたのです。結果として、初年度は「いわてGINGA-NET」での集中的なボランティア活動の後、衣笠キャンパス周辺の方々を対象とした防災の活動、そして学生たちの自主企画により宮城県気仙沼市の大島小学校との交流活動が展開されることとなりました。



 2012年度になると、年度当初から始められるプログラムが準備できることもあって、2011年度の地域活性化ボランティア「震災×学びプロジェクト」(震災P)を「減災×学びプロジェクト」(減災P)に継続・発展させることにしました。東北の支援のためには過去の災害からの学びも必要と考え、神戸の人と防災未来センターの見学、新潟県中越地震で大きな被害を受けた集落との交流も組み込み、神戸・新潟そして東北の「今」に携わりながら、仮に自らが被災者となった時の受援力向上を目指すこととしたのです。また、立命館災害復興支援室により、校友とのつながりや、新たなネットワークへの参画などにより、東北での活動先も充実したため、岩手県宮古市の仮設住宅での活動(2012年〜)、宮城県気仙沼市でのツリーハウスを制作を通じた拠点づくり(2013年〜)など、活動の幅も広がりました。この減災Pからは、受講生らが自主活動団体(「そよ風届け隊」)を組織し、学生オフィスによる「学びのコミュニティ集団形成助成金」を獲得して、福島県楢葉町に長期的に関わる取り組みも生まれています。
 先に述べたとおり、災害の支援の際には、困難な状況に置かれた方々を何とかしたいと、思いが先走ることがあります。これを「圧倒的な力を持ち込む密かな<暴力>」(渥美公秀『災害ボランティア』弘文堂、2014年、p.180)と指摘する研究もあります。2016年4月に発生した平成28年熊本地震もまた、減災Pでは活動先に盛り込みましたが、効果的な震災復興への視点だけでなく、よりよいプロジェクト型の学習システムやスタイルを追究していく必要があります。2016年度には、JR西日本あんしん社会財団の支援により、国際サービスラーニング・地域貢献学会(The International Association for Research on Service- Learning and Community Engagement)で積極的に研究発表を重ねるロバート・ブリングル博士(インディアナ大学・パデュー大学インディアナ校教授)を招聘して公開研究会を開催する計画であり、現代的な課題との関わりを通して民主主義と市民性をはぐくむプロジェクト学習を進める上で、センターのスタッフはもとより現場の方々とのよき連帯感をもたらすことができるよう、努めて参ります。


サービス・ラーニング|VSL研究会|防災|災害復興支援|山口 洋典
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