コラム

Column

都市の風景づくりに向けてUDCBKとSLCの連携を

立命館大学 理工学部 教授 武田 史朗
 アーバンデザインセンターびわこ・くさつ(UDCBK)は、草津の未来のまちのデザインを考えるために、大学の教職員や学生、企業の経営者や通勤者、国や県や市の行政職員の人々、そして草津に住む市民の方々と協働で取り組む、課題解決型=未来創造型まちづくりのための公・民・学 連携のプラットフォームとして201610月に設置されました。現在、UDCBKは草津市の事業として運営されており、立命館大学からは、センター長として理工学部の及川清昭教授が、副センター長として筆者が関わり、草津市の職員スタッフとともに運営にあたっています。また、その運営方針に関しては草津市と、まちづくりに関わる諸団体、立命館大学を含む6の大学の関係者と、商工会議所や民間企業の関係者、そして市民委員によって構成される事業運営懇話会で話し合われています。
 
  UDC」というのは、アーバンデザインセンターの略称で、200611月に千葉県柏市に開設された柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)がその最初のもので、「課題解決型=未来創造型まちづくり」のための公・民・学連携のプラットフォームとして、その後全国に展開し、現在各地に19箇所あります。2012年のUDC会議で採択した8か条のUDCアジェンダでは、各地のUDCが共有すべき理念として、公・民・学連携の拠点となること、明確な目標と戦略を打立て実行すること、③常に具体のフィールドで活動すること、④都市空間のデザインを担う専門家が主導すること、⑤新しいアイデアに挑戦し続けること、⑥一人一人が活動をエンジョイすること、⑦最新の情報を広く公開し、共有すること、⑧UDCネットワークを全国へそして世界へ、という8つの理念が共有されています。
 
 一方で、全国のUDCは地域の特性によってそのあり方も様々です。UDCBKは、柏の葉の場合とは大きく異なり、すでに成熟期を迎えつつある規制市街地である草津に開設されたことも大きな特徴です。また、課題解決型のプラットフォームがUDCの本来の姿であるわけですが、草津市はすでに住みやすい町としての評価も高く、住民もいまだに増加している状況にあります。そのため、ゼロからまちづくりを行う地域や、人口減少の課題などが顕在化している市町村と比べれば、一見して大きな課題がないように見えることも指摘されるでしょう。
 
 しかし一方で、パナソニックや立命館大学の移転によって人口が急増し、さらに交通利便性の向上によってベッドタウンとして急速に成長した草津市においては、学生を含め、ステークホルダーとしての住民の種類は多種多様であり、それぞれの立場から、より良い街として求められる要件は様々です。こうした状況の中で、一方では子育ての課題が、一方では高齢化の課題が、また一方では将来に渡って魅力的な街であり続けるための、観光目的を含めた地域資源の持続可能な保全と活用に関する課題も指摘され、即座には解決が難しい東西方向の交通計画の強化に関する課題も認識されています。こうした、現在だけでなく将来を考えたとき、また、単一のステークホルダーの視点からだけでなく、複合的な課題解決の視点でまちのデザインを考えたとき、今の時点から互いの理解を深め、公民学地による対話の促進とビジョンの共有を進めていくことは、とても重要な課題です。そして、こうした俯瞰的な価値共有やそれらを実現するための一貫性のある都市のデザインについての議論を深め、解決策も導き出すためには、アカデミックな視点は確かに重要であり、また、立場や分野を横断した議論が可能な、UDCのようなプラットフォームが果たす役割は大きいと考えます。
 
 こうした背景から、2016年の開設時におけるUDCBKでは、地域を知る・互いを知る、②未来のイメージ共有、新たな活動の創出、という3つのステップを想定して活動を開始しました。もちろん、これらは一直線上に進むものではなく、これまでの1年半での活動では、それぞれのステップが少しずつ進めれているのではないかという状況です。今後、行政と連携した所轄を横断した都市デザインへの技術支援やそのための議論の場の提供、地域住民との協働による公共空間の活用促進など、より具体的な活動へと進展していきたいと考えています。
 
  特に、このような次のステップの活動において、UDCBKの視点ではSLCとの連携を明確に行うことで、がおおきな相乗効果を発揮するのではないかと考えています。これまでにSLCが、地域をケースとした正課の授業への住民の参加などを通して培われて来た地域との繋がりは、貴重な社会関係資本の蓄積であり、本格的な公民学地連携のまちづくりにおいて重要なインフラとなり得るものと考えます。また、SLCにとっても、より具体的で現実の政策や取り組みとの関連性を持ち得るフィールドをケースとして採用することや、その成果をより広く発信することは、これまでの蓄積を生かしたさらなる展開としての価値を有するのではないでしょうか。新しい都市の風景づくりに向けて、UDCBKSLCの連携を実践していけることを期待しています。
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