コラム

2022.04.04

戦争と心の対話

 ここ1か月、ウクライナの戦争に心を痛めている方も多いかもしれません。毎日のニュースでは、目を覆いたくなる悲惨な現状が流れてきます。長引くコロナ禍に加えて、このようなニュースを目の当たりにするというのは、何か漠然とした無力さに打ちのめされるような、気持ちがしんどくなるようなこともあるかもしれませんね。

 この無力さから抜け出すには、募金などの具体的な支援で何かできることを実行に移してみるというのも手かもしれませんし、今の自分に何ができるのかについてちょっと考えてみるということも一つの手かもしれません。

 なぜ戦争が起こるのだろう、なぜ対話することが難しいのだろう、これは人類の大きな課題だと改めて感じさせられました。でも対話をすることの難しさということで言えば、国家間に限らず、身近な人間関係などにおいてもそうかもしれませんし、そして、私はカウンセラーをしているせいもあってか、私たちの自身の心の中においても、ときに本当に難しいことだと感じます。
 そして、何を言いたいのかというと・・・心理学的には、私たちの内側の世界が外側の世界に反映されると考えますが、私たち一人一人が、心の中のいろんな自分と語り合って、繋がりあっていけるようになれば、外の世界でも戦争なんて起こらないんじゃないかと。こう書いてみると、ごく当たり前のことのようでもあるのですが。

 例えば、私たちはみんな、心の中にある種の攻撃的な部分を持っているところがあるかもしれません。人に向けられれば、「あの人が嫌い」「あいつを許さない」「仕返ししてやる」といったものになるかもしれませんし、自分に向けられれば、「こんな自分なんて受け入れられない」「自分なんてダメだ」「いないほうがいい」というものになるかもしれません。そしてたいてい、このような部分は、自分の身を周囲から守るためにあって、傷つきやすい自分を守るために存在しています。
 このような自分は、できれば目を背けたいものかもしれませんが、そうすると、暴走したり爆発したりしてしまって、心の中が分断されてしまうかもしれません。そしてそれは、周りの世界や人との関係との分断につながることかもしれません。

 そこで、こんな風に自分の心の部分と対話をしてみるとするとどうなるでしょう。まず、そう思っている自分の部分に目を向けてみます。それをまるで一人の人のように思って、「なぜそう思うのかな?」「ほんとうは何を望んでいるのかな?」「どうしてそう思う必要があるのかな?」「どうしたらもう少し穏やかにいられそうかな?」などと、怒ったりしている自分の部分に声をかけてみる、対話をしてみます。

 そうすると、「ほんとうは~を望んでいるのにな」「こう思わないと、そこにいるのがつらいんだよな」とか、また別の気持ちがでてくるかもしれません。本当は守ってほしかった傷つきやすい自分のスペースが、心の中に少しできるかもしれません。すると、心の中のバランスが変化していきます。そして、それが目の前にいる人との関係や周りの世界の変化につながっていくかもしれません。

 ぜひ、みなさんも、いろんな自分の心の部分とつながって、語りかけてみてください。それが、身近な家族や友人たちと理解しあうこと、社会と折り合いをつけながらいろんな人とうまく共存していくことにつながっていくかもしれません。そしてそのようなことが、ひいては、世界で戦争をなくすことや平和を実現するということにもつながっていくかもしれないと、夢想したりしています。

 例に挙げたような攻撃的な自分とまではいかなかったとしても、なんか思うように動いてくれない自分や、進んでくれない自分がいる、やり場のない気持ちや、扱いに困った自分がいる、そんな自分一人では付き合うことの難しい心の部分を感じている方、きっとおられると思います。

 サポートルームでは、そんな自分を嫌ったり喧嘩したりせずに、ちょっとその自分が何を思っているか一回話し合ってみようよ、そんなことの手助けをしています。どうぞ訪ねてみてください。
学生サポートルーム カウンセラー

21.11.17

多文化共生

 コロナ禍は、案外長く続いていますね。海外に行ってみようと思っていた人、海外から学びに来ようと思っていた人、またふるさとが日本以外にある方には、大変な時間となっていると思います。そんな中、どうしてもリアルな事象にはかないませんが、ビデオ通話などは、相手の顔をみて話ができて、技術の進歩に驚かされます。
 この技術を利用して、最近、毎週末、ロンドンのある学校が主催している、オンラインでの哲学カフェに参加しています。ファシリテーターの先生が2人いらして、毎週の課題をお知らせしてくれますので、この課題にそって、古今東西、哲学者のいろんな言葉から学び、簡単なワークをしていきます。
 このワークでは、ブレークアウトセッションもつくられて、2人で、あるいは、3~4名で話し合います。参加している人のバックグラウンドは様々。出身国もさまざまで、あるときには、イギリス生まれ、イギリス育ちの方と話し合いましたし、あるときは、アジア出身の留学生と一緒に話し合いました。いろんな背景をもつ参加者と話し合い、「あ、その感覚似ている」と感じることもあれば、「このあたりは大きく違う、おもしろいな」と感じたりして、新しい発見の日々です。それぞれの背景より、個々人の人柄によることも多いなとも感じています。
 ところで最近、沖縄の方から、「万国津梁(ばんこくしんりょう)」という言葉を教えてもらいました。もともとは、首里城の正面にある鐘にかかれている、こんなことばから来ているそうです。「琉球国は南の海の良いところにあり、中国と日本の間にある蓬莱(ほうらい)の島で、船で万国の津梁(しんりょう)、いわば架け橋となって貿易を行い、国に宝物が満ちている」。
 これをみて、この大学が蓬莱の島となって、かけ橋になっていったら、素的だなあと感じました。まさに、Beyond Borders です。異なる文化に触れて、ひらかれていく、そんなことが起こって、自然と橋がかかっていったらいいですね。
 サポートルームでは、English café、中国語茶館、韓国語カフェなどの企画をしています。随時、ホームページやmanaba+Rに配信しています。よかったら、時間のあるときに参加してみてくださいね。

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学生サポートルーム カウンセラー

2021.09.06

気ままにめぐる、世界あちこち旅

 感染状況が長引き、予定していた旅行や留学に行けなかったという人も多いことでしょう。私もそうです。こうして行けなくなると、旅というのは、日常を抜け出してひと息つき、日常のことをみつめなおして戻るという、貴重な意味合いがあるなと感じます。
 あ~、つまらないと思いながら、代わりに旅行エッセイを読んでみました。ちびまるこちゃんの作者による「ももこの世界あっちこっちめぐり」(さくらももこ、集英社文庫)。中でも、父ヒロシとともに行った、アメリカ旅行の様子は、まるこちゃんが父ヒロシに冷静なつっこみ入れつつ、愛情もって行動していることが印象的でした。ほかにも、村上春樹さんの「遠い太鼓」(村上春樹、講談社文庫)を読みました。季節外れのギリシアの小さな島、そこでの滞在記。島で暮らしたらどんなかなと想像がふくらみます。
 もともと、私自身、田舎の小さな大学で学生生活を送っていたので、下宿にこもって、よく本を読んでいました。特にフランス文学にはまったことがあり、「フランス文学案内」(渡辺一夫、鈴木力衛、岩波文庫)をみて、古典文学から現代文学までたくさんの本を読み漁りました。ほかに、ピアノの先生が、ドイツ留学経験者でしたので、チャイコフスキーやシューマンの小品集のレッスンを通して聴く、シシリア島の農民の暮らしやドイツのクリスマスの様子などおもしろく、楽しんでいました。三国志が好きだったので、三都の様子や、シルクロード行きの旅行パンフレットを集めては、よくチェックしていたことも思い起こされます。こうしてふりかえると、田舎にいながらも、世界の様子をこころにとどめ、ある意味「旅していた」なあと感じます。
 社会人となって、ヨーロッパだけでなく、アジアやアフリカの国に行くこともできました。しかし、ロシアをはじめとするスラブ語圏の国々、南北アメリカ大陸、中東や南アジアなどはまだまだ行ったことがありません。いろいろ調べて、感染状況が落ち着いたら行ってみたいと思っています。現在、旅ができずにつらいですが、動画や過去のテレビ番組をチェックしつつ、行ってみたい国の様子をみて、本でその歴史や文化、そして語学の番組を楽しんでいます。せめて、簡単な挨拶ぐらいは覚えて、現地の人と関わるうえでのアイスブレイクになったらいいなと思いつつ。
 オンライン留学、動画をみながらの各国の様子のチェック、音楽や本など自分自身の興味関心に従っての調べもの、あるいは、いつか一緒に行こうと友だちと話し合いながら、おうちで楽しむ、気ままな世界あちこちめぐりは、いかがでしょうか。

学生サポートルーム カウンセラー

2021.06.28

セルフケアの道具箱

 昨年からはじまったコロナ禍、長引いていますね。オンライン授業と対面授業がおりまざって、みなさんの生活も、いろいろな変化をしいられていると思います。そこに、梅雨の蒸し暑さや、課題提出の時期など重なり、心身の不調をきたしている人も多くみうけられます。

 さてみなさんは、こうした状況にあって、どのようにこころとからだをケアしてきていますか。そんなことを考えているとき、新聞の読書欄で、「セルフケアの道具箱」という本について知り、読んでみたいなと、サポートルームの待合室用に購入しました。著者は、認知行動療法というアプローチで有名な、伊藤絵美先生。伊藤先生は、忙しい中、家族のケアにおわれることがあり、まずは、自分自身のためにケアが必要と思い、この本の内容を思いついたそうです。そして、自分でできることを全力で考えたのだそうです。

 内容は、とりあえず落ち着く、誰かとつながる、ストッレッサーに気づく、などあり、具体的にどのようにしたらよいかが、わかりやすい細川貂々さんのイラスト入りで説明されています。しんどいときでも目を通しやすく、簡単にできそうなのが、本書のいいところです。たとえば、とりあえず落ち着くために、大きな布やストールや毛布にくるまれるという項目があり、「こうしてると落ち着くね」ということばとともに、細川さんのほっこりしたイラストが描かれています。こうした方法を、ゆる~っとみているだけでも、なんだかなごんできます。サポートルームでは、どのキャンパスでも待合室にこの本を置いていますし、店頭でも手にすることができると思います。お勧めの一冊です。

 試験も近づき、ストレスも大きい今日この頃。自分なりにストレスとうまくつきあっていっていく方法がみつかるといいですね。

 このホームページにある「お知らせ」欄には、「ストレスとうまく付き合うには」という記事をあげています。また、みなさんからストレス対処法を募集し、「こころの健康」欄にあげています。よかったら、こちらもご覧ください。

学生サポートルーム カウンセラー

21.05.28

ほっとTEAのすすめ

20210528-1今年は梅雨入りが早く、びっくりですね。
じめじめする日もあれば、肌寒いような日もあり、体調もぐずぐずしてしまいがちです。

こうしたとき、室内で、ゆっくりお茶を淹れて飲むのはいかがでしょうか。

学生の頃、FMからおいしい紅茶の淹れ方が紹介されて、おいしそうだなと思い試してみました。

紅茶の淹れ方は、以下のようになります。
1.飲む直前に、汲みたてのお水をわかします。 じゃーっと水をいれて、空気を含ませるといいそうです。
2.カップやポットにお湯を注いであたためておきます。
3.茶葉をティースプーンで一杯ほどボットに入れます。
(一人分は一杯約2.5~3gが目安)
4.沸騰したお湯を高い位置から注ぎます。
(低い位置から高い位置にお湯をそっともっていくと安全です。) 茶葉が、ポットの中をぐるぐるまわることを ジャンピングと言います。
紅茶の葉っぱのうまみ、香りが抽出されます。
5.ポットの温度が下がらないように、厚めの布を かぶせたりしながら、2~3分蒸らします。
20210528-26.茶こしでこしながら、カップに注ぎます。 ベストドロップと言われる最後の一滴には、茶葉のうまみが凝縮されているそうですので、しっかり注ぐといいそうです。

*下宿の人など、茶葉を使いにくい人は、カップにお湯を注いでから、そこにティーバッグを入れて蒸らしましょう。
ティーバッグを振るのは、取り出す直前に少しだけでいいそうです。
お茶をわかして淹れる、蒸らす過程をゆっくりたのしみ、
さらに、のんびりお茶を飲む、オンライン授業の合間にいかがでしょうか。

緑茶、紅茶、中国茶、留学生の人は、自国のお茶をじっくりあじわう、
あるいは、ハーブティーを楽しむのもいいかもしれませんね。
蒸し暑い時期だからこそ、熱いお茶は案外すっきりします。

学生サポートルームでは、お知らせ欄やこころの健康欄で、
ストレスチェックやストレス対処法を掲載しています。

  ストレスチェックはこちら。
 ストレス対処法はこちら。

こうして自分の状態を振り返りつつ、
自分なりの対処法をみつけながら、
こころとからだを大事にしていってほしいと思っています。

学生サポートルーム カウンセラー

21.04.07

新入生のみなさま、ご入学おめでとうございます。

2020年度は、コロナ禍で、いつもと違った生活が余儀なくされ、新しい大学生活もどうなるのかと、将来について案じた人も多いことと思います。
そうした、いろいろな道のりを経て入学してくださったこと、とてもうれしく思いますし、こころよりお祝い申し上げます。

わたしたち職員も、昨年、学生不在のキャンパスを数か月経験し、胸が痛むような思いで過ごし、とてもさみしく感じました。
この度、3月には卒業式、4月には入学式がとりおこなわれ、感染防止に協力いただきながら、学生のみなさんが集う姿をみて、その華やかな姿と雰囲気に、心励まされるような想いです。

入学式の動画も拝見し、新入生代表の方たちの力づよい言葉の数々を聞いて、みなさんの学生生活をしっかり支え、応援していきたいと感じています。

コロナ禍は、あいにくしばらく続きそうですね。
学生サポートルームは、大学生活に関するあらゆる相談を受け付けています。
学生生活に関すること全般、人間関係、こころの問題、進路などなど、どんなことでもお話をうかがいます。
必要に応じて、適切な相談場所にもおつなぎします。
そして、しっかり悩み、じっくり考え、それぞれが安心して、充実した大学生活を送ることができるように応援しています。

また、学生サポートルームでは、個別の相談だけではなく、リラクセーション、おしゃべりの会、就職に関するイベントなどなど、いろんな企画を実施しています。
ほかに、HPの「こころの健康」欄には、リラクセーションのための音声ガイドや、コロナ禍での心身の健康に役立つ情報を掲載しています。

悩むこと、相談することを恥ずかしいと考える人もいますが、危機的な状況は、新しい道がひらけていく契機にもなりえます。
一緒によく考え、自分らしい道をみつけていきましょう。


学生サポートルーム カウンセラー

20.12.18

冬の読書

読書の秋、という言葉をよく聞きますが、
わたしは、子どもの頃、雪深い場所で育ったので、
寒い雪の夜に、炬燵にあたって本を読むことが好きでした。

ほんとうは、なんにもない田舎なので、冬だけでなく、
いつでも本を読んでいましたし、なんでしたら受験の直前でさえも、
勉強をさぼって本を読んでいたものです。

大学生になって、一人暮らしになり、初めて孤独な状況を味わい、
そこでもまた、本を読んでいました。
今でしたら、ゲームしたり、動画を観たりができますが、
なにもないと、そうして内面のことに関心が向かうのかもしれません。

漫画のキャプテン翼に、「ボールはともだち」というセリフがありますが、
今思えば、本はともだちのようなものだったかもしれません。
著者の考えに、へ~なるほどと感心しながら、
自分だったらどうするかな~と考えたり、
ありえないような状況を、小説の中で経験したり。
たのしいような、くるしいような、心の旅をしていたように思います。

自粛生活の過ごし方は様々かと思いますが、
そうだ、本でも読んでみるか~というのも、ありだと思います。
普段あまり読んでいない人は、ライトノベルや
ネット上にあがっている作品から読み始めたり、
あるいは、エッセイなどを読むのもいいかもしれません。

私自身は、「こころの処方箋」(河合隼雄著、新潮文庫)がすごく好きです。
ひとつひとつ短い文で読みやすく、書いてある内容と
こころの中で話し合うようなこともできるからです。

ほかに、図書館のHPには、学生サポートルームからのお勧め本も掲載されています。
冬の夜長に、なにか読んでみるのはいかがでしょうか。

学生サポートルーム カウンセラー

20.12.15

お散歩川柳

自粛期間など経てのwithコロナ生活、
みなさん、どのように過ごしていますか。

わたしは、ぶらっと近所を歩く時間がふえました。
近所の川の近くを歩いて、季節ごとの植物に目を向けたり、
朝昼晩、異なる光の具合を味わったり、
犬を連れたおばさんたちの様子をみたり。
まったりした時間をたのしんでいます。

とはいえ、歩く場所が決まってきて、
なんとなく、退屈な感じもしたりです。

そんなとき、たまたま目にした俳句や川柳をみて、
ああ、こういうのもいいなあと思うようになりました。
お散歩で目にした、季節のこと、街の様子、人の様子を
句にしていくのです。

とはいえ、俳句は季語や決まりごとがありますので、
ちょっと力が入ります。ですので、決まりごとなく、
自由に表現できる川柳をつくってみました。

With コロナ 自然がしみる さんぽ道
Web授業 お目目しばしば やすみどき

そうそう、こうして目がしばしばして乾いてきたら、
しばしば休みをとってくださいね。
そんな寒いめのおばちゃんジョークでコラムをしめたいと思います。

*オンライン生活でつかれたら、このHPのこころの健康をご覧くださいね。
自宅でできるリラクセーション法などが掲載されています。

学生サポートルーム カウンセラー

2020.09.24

自分らしさって何だろう?

 自分らしさって何だろう?という問いは、誰しも一度は抱いたことのあるものではないでしょうか。今回のコラムでは、そのことについて考えてみたいと思います。
突然ですが、まずここで皆さんに質問です。次の画像の真ん中の黒い丸は、左側と右側のどちらの方が大きく見えるでしょうか?

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 この問いに対して、「右側の黒い丸の方が大きく見える」と答える人が多いのですが、実際はそうではありません。驚く方もいるかもしれませんが、「大きさはどちらも同じ」というのが正解です。左側の画像では、大きい丸に囲まれているので真ん中の黒い丸が小さく見え、右側の画像では、小さい丸に囲まれているので真ん中の黒い丸が大きく見えるだけなのです。これは心理学の「錯視」と言われる現象です。これは、ひとの脳が、無意識のうちに周りとの比較で、物を見てしまうということを表しています。
なぜこのような例を挙げたかと言うと、私たちも普段ついつい誰かと自分を比較して、一喜一憂していないだろうかと考えてみたかったためです。この画像の真ん中の丸を、あなた自身だと想像してみてください。左側の画像のように、優秀な人に囲まれていると感じると自分が委縮して自信がなくなってしまうことはないでしょうか?一方、右側の画像のように、周りよりも自分の方が優れていると感じると態度が大きくなってしまうことはないでしょうか?この錯視の例のように、我々は、無意識のうちに、周囲の人との比較で自分を捉えてしまいがちなのです。周りと比較することなく、自分らしくありたいと思っていても、自信が持てずに誰かと比べてしまいがちですし、ついつい周りに合わせてしまうものです。それでは、自分らしくいるためには、いったいどうしたらよいのでしょうか?

 それを考えるために、今度はこの画像のうち、周りの丸を全て取り除いてみたいと思います。

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 すると、やはり真ん中の黒い丸は、どちらも同じ大きさの丸になることがわかると思います。加えて、もう一つ気づくことがあります。それは、その黒い丸が、大きいのか小さいのかどうかは、もはや判断ができなくなるということです。比較できる対象がないため、この黒い丸は、大きいでもなく小さいでもなく、「ただの丸」でしかなくなってしまうのです。

 あなた自身も、周りの人との比較をやめてみた途端、自分が優秀なのかそうでないのか、自分が明るいのかそうでないのか、自分が優しいのかそうでないのかなどが見えなくなり、自分が何なのかという手がかりがなくなるために、不安な気持ちに陥るかもしれません。誰かと大きさを競うことの方がずっとわかりやすく、単純なことに思えてくるかもしれません。ですが、それでも、周りの人との比較をやめて、自分自身を見つめていると、今のあなた自身の本当の姿が見えてくるのではないでしょうか?大きくもなく小さくもなく、「ただの丸」にしかすぎない自分自身の姿が浮かび上がってくるはずです。「ただの丸」でしかないという現実は厳しくもありますが、よい意味での諦めと軽やかな気持ちを同時に感じることになるのではないでしょうか?なぜなら、「ただの丸」でしかないということは、この先どんな形にもどんな色にもなりうる可能性も秘めていることに気づくからです。

 自分自身を見つめることは勇気がいる作業です。しかし、その作業を通して初めて、誰かと比べるのではない、「私だけの」「僕だけの」自分らしさを発見できるのかもしれません。同時に、自分が「ただの丸」でしかないことを確認できて初めて、そこに色付けをしたり形を変えたりして、自分だけの「何か」を作っていけるのかもしれません。学生サポートルームでは、悩みや困り事の相談だけではなく、こんなふうに自分らしさを見つけるためのお手伝いをさせていただくこともできます。いつでも足を運んでみてくださいね。

学生サポートルームカウンセラー

2020.07.28

外国語学習とカウンセリングの関係について

 私の趣味の一つは、外国語学習です。私は台湾人の友人と、毎週1回Skypeを用いてお互いの言語(日本語と中国語)を学び合っています。毎回、冒頭に近況報告や雑談をした後、自分たちで決めた本を少しずつ読んでいきます。歴史好きの友人が勧めてくれたのが、龍應台著「大江大海1949」(邦訳「台湾海峡1949」天野健太郎訳)という本です。このコラムではこの本について紹介します。

戦後日本の台湾統治が終わり、主権が中華民国に移譲されました。「国共内戦」*¹の戦火から逃れようと、中国大陸から多勢の人が台湾に押し寄せてきました。日本統治を経験した台湾人(本省人)と、戦後台湾に渡ってきた中国人(外省人)との間では、考え方や行動様式が異なり、言葉も通じませんでした。両者の文化の衝突は、やがて「二・二八事件」*²、そして台湾人が大量に虐殺された「白色テロ」*³へと繋がっていきます。歴史の大きな流れの中で、外省人である「国民党政権とその軍は、戦後台湾を権力と暴力で支配した強者」(訳者)として語られてきました。しかし、この本は、「故郷を失ったひとりひとりの弱者として」外省人を描くとともに、「受け入れた台湾人の痛み」をも描いたものです。

 作者は、戦後台湾に移ってきた中国人の両親の元に、台湾で生まれ育ちました。この物語は、中国を舞台に、作者の家族のストーリーから始まります。作者の母親は気丈な女性でした。ある日彼女はいつものように「すぐ戻る」と言って中国の実家を出ました。この時、二度と戻れないことになるとは夢にも思いませんでした。ましてや、数年後にダム開発によってその歴史ある美しい街全体が湖底に沈むとも。彼女は遠方で憲兵をしていた夫に会うため長い汽車の旅に出ます。車両はすし詰め状態で、幼い子どもを連れて行くには危険だったため、しばらく夫の実家に長男を預けました。半年後再び会いに行った時、作者の兄に当たる長男はすっかり母親のことを忘れ父方祖母に懐いてしまっていたため、自分を連れて行こうとする母親に抵抗して泣き叫び、どうしても離れなかったため、仕方なく長男を置いていきました。そして、軍隊と共に台湾に渡りました。内戦終結後は約40年に渡って台湾と中国の間の行き来が禁じられていたため、家族は離ればなれになったままでした。往来が解禁され台湾生まれの作者が中国にいる兄に会いに行った時、兄は、自分が学校で先生や同級生から内戦の敵の子だと言われたこと、悲しくても慰めてくれる母親がいなかったこと、かすかな記憶しかないが似た人を見ると母親ではないかと何度も思ったことを語り、泣きました。作者の父親は中国で戦争で命の危険に晒され、何とか難を逃れて台湾で家族と合流できました。父親は戦争の体験や祖母との別れの悲しみを子ども達に聞かせようとしても、平和な時代に生まれ育った作者やきょうだい達は誰一人真剣に聞こうとせず父親を茶化しました。作者はこの本の執筆のため様々な資料を読み込み、人の話を聞き、実際に中国で戦闘があった場所を訪れて、初めて父親が受けた心の傷が何であったのかを知ることとなりました。これは父親が亡くなって5年経ってからのことです。

 物語には様々な国籍、立場の人が登場します。その中から国共内戦中に疎開した学生の話を紹介します。中国では全寮制の学校が多いのですが、ある地方の、寮で共同生活を送っていた教師と中高生約5000人の集団が、疎開するため汽車に乗り込みました。車両に乗り込めずドアや屋根につかまっていた者も少なからずいました。トンネルを通過した時は、必ず何人かが亡くなっていました。生き残った者は、連結部などにひっかかった遺体を踏み台にしてよじ上りました。各地を転々としながら、落ち着いた場所を見つけては授業をしました。戦火が拡大し、移動するごとにどんどん人数が減っていきます。戦乱に巻き込まれ亡くなった学生は少なくありませんでした。生き残って何とか台湾に逃れられた学生の中には、強制的に軍隊に入れらた人達もいました。中国の家族には手紙を書くことすら許されませんでした。

 台湾といえば、東日本大震災の時多額の募金を送ってくれたり、コロナの際にも質のいいマスクを寄附してくれました。昨年流行したタピオカの原産地として知っている人も少なくないでしょう。その台湾には、一見しただけではわからない複雑な歴史的な背景があります。歴史の「敗者」だけでなく、「勝者」や「強者」と言われた人達もまた様々な心の痛みや悲しみを抱えて生きてきたことがこの本を読んでわかりました。

 筆者はできるだけ自身の熱さを抑え、冷静な記述に努めたといいます。内戦やその混乱で、おびただしい数の人々が亡くなりました。私はカウンセリングで家族や親しい人を亡くした悲しみを聞くことが少なくありませんので、「戦闘で数万人の若者が亡くなった」、「亡くなって列車の連結部に引っかかった遺体は同級生の踏み台にされた」というような記述を見た時、その一人一人に家族があり、どれだけの人が悲しんでいるのか、もしくは生死不明のため悲しむことすらできずにいるのかと想像せずにはいられません。

 子どもが言語を獲得する過程と大人の外国語学習は異なる点も多くあります。それでも、外国語を話していると、ふとした瞬間に、子どもの頃の気持ちを思い出すことがあります。外国人と一対一で話していたらわかるのに、外国人が複数でしゃべっていると聞き取れない時、子どもの頃大人達の話が難しくてわからなかった情景が浮かびました。また、言いたいことがいえなくてもどかしい時、先生や友人からそれを表すのにふさわしい言葉を教えられると、そのもやっとした気持ちに「名前がつけられた」とも言えます。私は幼い頃日本語を自然と身に着けたように感じていましたが、きっとこのようにして初めは家族から、その後は学校で学ぶことにより、自分の感情や考えを言葉で表せるようになってきたのでしょう。この過程は、カウンセリングにおいてカウンセラーと来談者の対話でも起こりうることです。来談者がそれまで誰にも言えないかった話をカウンセラーに話すことで、そこにある未知の考えや感情に名前がつき、言葉を得ることで、やがて来談者自身が自分で考えられるようになっていくのです。

 カウンセリングでは、一見「強い人」と思われる人の心の内にある弱さや、ある話題になると強い言葉や怒りを表現する人の心の中にある傷つきに触れることがしばしばあります。対話を重ねるうちに、相談者自身全く忘れていたような事柄を思い出し、驚くこともあります。相談者の親、祖父母の世代の顧みられていない傷つきや悲しみを相談者が気づかないうちに担っていることもあります。前述した、作者の父親が子どもたちに自分の傷つきを伝えようとした場面のように、その心の傷は誰かに聞かれ、理解されることを求めていたのでしょう。

心の不調を抱えた時、時には複雑に入り組んでいてわかりにくいかもしれませんが、もしかすると、それは誰にも読み取ってもらえない物語が心の中に潜んでいるサインかもしれません。そのような時には、学生サポートルームを訪ねてきてください。

 

*1 国共内戦 中国国民党と中国共産党の内戦。第一次(1927~37年)、第二次(45~49年)を経て、中華人民共和国政府が成立。(コトバンク)

*2 二・二八事件 第2次世界大戦後、日本に代わり台湾を統治した国民党による民衆弾圧事件。1947年2月27日夜、台北市でやみたばこ売りの台湾人老女を取締官が虐待したことを機に、民衆の国民党統治への不満が噴出。翌28日、抗議デモに警備兵が発砲し、各地で人々が蜂起したが、国民党が中国大陸から送り込んだ軍隊に鎮圧された。国民党の一党独裁と厳戒令で真相は封殺されたが、90年代以降の民主化や政権移行で追悼や賠償が進んだ。犠牲者は台湾当局の推計で1万8千~2万8千人とされている。(コトバンク)

*3 白色テロ 広義には1947年の二・二八事件から1987年に戒厳令が解除されるまでの期間を指す。台湾では二・二八事件以降、中国国民党は国民に相互監視と密告を強制し、反政府勢力のあぶり出しと弾圧を徹底的に行った。白色テロの期間、蒋介石率いる国民党に対して実際に反抗するか若しくはそのおそれがあると認められた140,000名程度が投獄され、そのうち3,000名から4,000名が処刑されたと言われている。大半の起訴は1950年から1952年の間に行われた。訴追された者のほとんどは中国共産党のスパイを意味する「匪諜」のレッテルを貼られ罰せられた。 国民党支配に反抗したり共産主義に共鳴したりすることを恐れ、国民党は主に台湾の知識人や社会的エリートを収監した。(ウィキペディア)


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