コラム

深呼吸でリラックス

 わたしたちの日常生活には何かとストレスがありますから、それに対処する方法をいくつか持っていると、その分だけ生きやすくなります。みなさんはどれくらいストレスを柔らげる方法を知っているでしょうか。たとえば、次のようなことをした経験がありますか?


 やけ酒を飲む。

 やけ食いをする。

 やけ買いをする。

 サンドバックを叩く。

 お皿や茶碗を床や地面にたたきつける。

 海に向かって「ばかやろおおお!」と叫ぶ。

 からだを動かして汗を流す。

 誰かに八つ当たりする。

 誰かに話を聞いてもらう。


 ストレス解消法にはいろいろなものがあります。それぞれがどのくらい効果があったりなかったりするかは人それぞれです。中にはあまり感心しないものもあるでしょう。上にあげた方法の中にも、お勧めできるものとそうでないものがあります。それなりに効果はあるけれど、いつでもどこでもできるわけではないものもあります。たとえば、信頼のおける人にじっくり話を聞いてもらうことは、しばしばストレス緩和に役立ちますが、そういう人がいつもそばにいてくれるとは限りません。また、適度な運動も一定のストレス軽減効果がありますが、したいときにいつでもすぐできるわけではありません。

 ストレス緩和に比較的効果があるのは、自分のからだを利用する方法です。その一つに(漸進的)筋弛緩法と呼ばれるものがあり、これはからだのどこか(たとえば腕の筋肉や腹筋)をいったん強く緊張させた後で力を抜くという方法です。やり方自体は簡単なものなのですが、言葉だけでそのやり方を正確に伝えるのはちょっと難しいので、ここではそれとは別の方法を紹介しましょう。

 それは呼吸を利用したものです。

 血圧を測ってもらったことのある人は覚えがあると思いますが、お医者さんや看護師さんは血圧を測るときにはたいてい「二、三回深呼吸をしてください」などと言います。それは、深呼吸をすると一時的に緊張が少し下がり、気持が穏やかな状態での血圧が測れるからです。このように、深呼吸には心を落ち着かせる効果があります。

 呼吸と心身の安定が深く関わっていることは大昔から知られており、宗教的な行法や健康法にはゆったり呼吸をするという部分を含んでいることが多いのです。簡単に言うと、息をゆっくり吐くときに、気持ちを落ち着かせる働きを持つ副交感神経の活動が活発になることがリラックス効果を生むのです。ただ深呼吸をするだけでも一定の効果がありますが、ゆったりした呼吸の心地よさを味わえる方法として次のようなものがあります。

 まず、人に邪魔されない場所を見つけ、椅子(または椅子状のもの)に座ります。室内ならあおむけに寝てもかまいません。次に、目を閉じてからだの力を抜きます。できる範囲で力を抜く、という感じでかまいません。また、目を閉じるといやなことが頭に浮かんでくる(または、浮かんできそうだ)というときは、目はあけたままでもかまいせん。さらに、「気持ちのいい空気を胸いっぱい吸える場所」を自由に思い浮かべてください。好きな場所でかまいません。その場所が思い浮かんだら、自分が今その場所にいるつもりになって(そこにいることを想像しながら)、ゆっくり深呼吸をします。そのとき、想像した場所に注意を向けるよりも、空気が胸いっぱいに広がったり鼻から出ていったりするからだの感覚に注意を向けてください。好きな場所を思い浮かべるのは気持ちのいい息をしやすくするための手段(一種の誘い水)であり、大事なのは呼吸そのものと、息が出入りする感覚を味わうことです。頭にいろいろなことが浮かんできたら、それに対しては「勝手に浮かぶがままにしておく」という態度をとってください。これも、できる範囲でかまいません。どれくらいの時間を続けるかは「自由」でよく、「いつまでたっても変化が起こらない」と思えば、今の自分には効き目がないとあきらめてください。ちなみに、からだの感覚をじわーっと味わいつつ、自分の心やからだの中で起きていることをただ眺めるというこの状態を、このごろではマインドフルネスとか呼んでいます。

 このような呼吸法をときどき実行してみることは、一時的なストレス緩和に効果があるだけではなく、自分の身に起こることに対して「適度に興味を持ちつつしかも適度に距離を置く」という心のあり方を育む効果が期待できます。もちろん個人差があって、いつでも誰でも必ず効き目があるというわけではありません。

 さて、気持ちのいい空気を胸いっぱいに吸えそうな場所として、あなたにはどんな場所が思い浮かびますか? 暖かな日差しが降り注ぐ花壇ですか? さわやかな風が渡る高原ですか? それとも…

学生サポートルーム カウンセラー