2016.11.28

しびれるほど好きなモーターの回転音。これで曲を作れないか?

▲電子回路を組む野村俊介さん

電車が動き出す時のモーター音。あのぞくぞくする音で曲を奏でるアイデアを思いついた

そもそも電車が好きで、モーターを学ぶために進んだ理工学部。研究室を選ぶ時の決め手は、川畑先生が見せてくれた一本の動画だった。その中ではなんと、電車の走行音がモーターで再現されていたのだ。モーターをインバータで思い通りに制御して音を鳴らす。そんなことができるのなら、音階を連続的にコントロールして、メロディーを奏でることも不可能じゃないはず。理論的に可能なら、なんとしても実現したい。ここからチャレンジが始まった。

仲間を集めて仕組みを考える。少しずつ見えてきたゴール

学部4回生の夏休みから、少しずつ取り組み始めた「メロディーインバータ」。お手本は、動き出すときにモーターがメロディーを奏でる京急電鉄だ。幸い研究室には、先輩たちが残してくれた資料もある。欠けているのは、自分の知識だから必死で勉強した。インバータを制御するマイコンの仕組み、回路の構築の仕方、すべてを制御するプログラムはC言語で組み上げる。やがて仲間ができた。研究科に進んだときに井上昌彦くんが加わり、修士2年になると柏木勇人くんが新たなメンバーになってくれた。

僕が入った頃には、ほとんど完成してたじゃないですか。それをオープンキャンパスで実演するんだって言ってましたよね。
高校生の前で実演するときに一人じゃ心細いでしょ。だから二人が来てくれて、とても安心した。研究の続きも任せられるしね。
僕なんか、まだ見ているだけです。まずハンダの使い方から練習していかないと、先輩たちのレベルまで行くのは大変です。

▲左から井上さん、野村さん、柏木さん。モーターを囲んだディスカッションが何度も繰り返された。

モーターを制御して、もう少し専門的に表現するなら、モーターの振動をコントロールして音を鳴らす。すなわち、モーターの振動が空気に伝われば、音として聞こえるのだ。そのためにはモーターを精密に制御する回路が必要。回路を流れる電流と電圧をコントロールするため、マイコンのプログラムも書かなければならない。ラの音の周波数が440Hz、これを基準に他の音の周波数を計算で割り出す。その周波数に合うようにインバータでモーターを制御すれば、出てくる音がメロディーを奏でるはずだ。

▲音楽を聴きながらドレミの音階を探る野村さん。

▲研究室には使えそうな部品がごろごろあった。

▲制御回路は完全に手作り。ハンダ付け一つ失敗しても音は出ない。

3人体制で繰り返す実験。ほぼ完成が近づいたと、ほっと一息つきかけたときに起こった思わぬトラブル

奏でる曲は、朝ドラに使われた某アイドルグループの曲と有名アニメのテーマソング。曲を聞いて採譜し、そのメロディーを奏でるようにコードを書いていく。一方で、半導体スイッチを組み込み、狙ったタイミングで、狙った振動音を出せるよう回路を組み立てていく。ハンダ付けの出来によっては接触不良が起こることもある。瞬間的に電流が流れすぎると、回路が壊れる危険性も。ほぼ完成に近づいたある日、最悪の出来事が起こった。回路の一部から破裂音とともに煙が出たのだ。

▲トラブルの原因を突き止めるため、川畑先生にアドバイスを受ける。

最初は何が起こったのかわかりませんでした。回路から煙が出るなんて初めての経験で、ひたすら凍りついてしまった。
回路のあの部分、トラブルの原因になったドライブを作ったのは僕ですよ。やってしまったと、先輩に申し訳なくて……。
いや、あれは僕のミス。オシロスコープをしっかり見ていたら、過電流の傾向はあったはず。それを見逃したんだから。

組み立てた回路を、もう一度きめ細かくチェックしていく。ハンダ付けの甘いところがあれば、そこが壊れることがある。回路自体に経年劣化が起こる可能性も見過ごせない。長く使っているうちに自然に壊れるのだ。3人で徹底的に見直し、組み上げたプログラムコードにも不備がないか調べた。一方では、メロディーを少しでも良い音で大きく鳴るように手を加え、モーターの動きが目でわかるよう赤い羽根取り付けた。そして迎えた初演奏の日、結果は大成功!誰が聞いても某アイドルグループのあの曲であり、アニメのテーマソングだとわかったのだ。

▲井上さんはプログラムのコードを一から再チェックした。

あとは2人に任せたからね。次の課題は、モーターを2台使ってハーモニーを奏でられるようにしてほしい。
それは一気にハードルが高くなるなあ。でも、先生ももっと進化させるようにっておっしゃってましたね。
来年は僕も、もっと戦力になれるように、まず苦手なハンダ付けの練習からしっかり取り組みます。

夢は、モーターを何台も使った「モーター・オーケストラ」です

見た目は、ケーブルやスイッチなどがごちゃごちゃしている感じで、あまり美しいとはいえないかもしれません。けれども、回路構成はかなり複雑です。しかも、そのほとんどすべてを手作りしていることがポイントです。要するに、モーターを制御して音楽を奏でる回路などは、どこにも売っていませんし、ハードをいくら緻密に組み立てても、それをコントロールするプログラムがなければ音は出ません。

とはいえ、実は私自身が先行研究を手がけていました。単純にドレミの音階を出すだけなら、この時開発した「ドレミファインバータ」を使えばよいのです。ところが、そのレベルから曲を奏でようとすると、一気に何段階も難易度が上がります。頻繁に半導体スイッチの切替を行うためには、高性能のマイコンで信号を瞬間的にコントロールしなければなりません。つまりプログラムが非常に複雑になるのです。

一方で、複雑なプログラムが組み上がると、今度は回路が酷使されるため、半導体スイッチなどの見直しが必要です。このようにハードとソフトのバランスを常に保ちながら、技術を高めたことで実験は成功しました。次はぜひモーター2台によるハーモニー演奏に挑戦してほしいし、その先には何台ものモーターを使った「モーター・オーケストラ」が実現することを期待します。
立命館大学 理工学部

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