2016.11.28

完全防水で連絡を待っていたスマホ。なぜ、つながらなかった?

▲鳴らなかったスマホを眺める鈴木暉人さん

インターン採用の連絡が来る予定の夏の日、僕はスマホを風呂に持ち込んだ

インターンはできる限り早いうちに済ませておく。これが僕の就活大作戦だ。そのために自分でせっせと応募し、先輩のコネも頼った。おかげで本命の一社から「電話で話しましょう」とメールが来た。その日は朝からずっと待っていたけれど、連絡が来ない。あまりの暑さに風呂に入ることにした。もちろん、いつでも出られるよう完全防水したスマホを持って。ところが、電話は鳴らず「電話に出てもらえず残念でした」とメールが届いた。

最近のスマホには、完全防水を売り物にしている機種もあります。だから水の中でも使えると思っていたのですが。
確かに防水機能は、ずいぶんと進化していますね。だからといって、水中で通信できるかどうかは別の問題です。
でも先生、確か水は導電性がほとんどないから、原理的には電波は届くはずではないでしょうか。
完全な純水なら電気をほとんど通しませんね。けれども、水道水などは金属ほどではないにせよ、一定程度電気を通しますよ。
では、水道水で沸かしたお風呂の中だと、電波が遮断される危険性があったということですか。
水の中まで電波が到達するかどうかを、簡単な実験で試してみましょう。

実験開始。万が一のときでもスマホが水に濡れないよう、ビニール袋で二重に包んで洗面器の中に入れた

実験に必要な道具は、洗面器と水を注ぐポット、そしてスマホを入れるビニール袋とこれを洗面器の底に固定するガムテープです。

まずはスマホを袋の中に入れて、できるだけ空気を抜きます。スマホの裏側の部分に輪っかにしたガムテープを貼り付けて、スマホを洗面器の底に固定。離れたところからテレビ電話で通話します。洗面器に水を入れていくと、最初はくっきりと見えていた相手の顔が、やがて見えなくなり、音声も途絶えて画面が真っ暗になってしまいました。

▲テレビ通話がつながっている状態。離れたところにいる鈴木さんが画面で確認できます。

▲ビニール袋にスマホを入れます。水に浮かないよう、できる限り中の空気を抜いておきます。

▲洗面器の底にビニール袋を固定し、少しずつ水を注いでいきます。

▲水をどんどん注ぎ足していくと、モニターに映っていた通話相手の姿が消えてしまい、やがてテレビ電話も終了してしまいました。

水中では電波が遮断されてしまうため、通信できなくなるのです

いくら機能満載のスマートフォンでも、電波が遮断されてしまうと、何の役にも立ちませんね。インターン先の企業から電話を受けるために、スマホを完全防水してお風呂に持ち込んだ鈴木さん、その発想にはちょっとした落とし穴がありました。

例えば、エレベーターの中では、スマホの通信が途絶えてしまいます。その理由は、エレベーターの金属が電波を遮断してしまうためです。一方で金属の特徴は、導電性つまり電気をとてもよく通すこと。このため金属の表面に電波が到達すると、その表面に集中して電波は流れます。とはいえ金属が電波をまったく通さないわけではありません。金属の表面のわずか数ミクロンくらいまでなら、電波は浸透可能です。このように電波が浸透する深さを「表面厚さ」と呼びます。

表面厚さと導電性には逆比例の関係があります。だから導電性の高い金属は、表面厚さが小さくなるのです。では、お風呂の水はどうでしょうか。純水なら電気は通しませんが、水道水はある程度電気を通します。ということは、お風呂のお湯も電波を遮断します。だから湯船の中にスマホを持って入ると、一定以上の深さになったときに電波が遮断されてしまいます。そのため鈴木さんは電話を受けることができなかったというわけです。

▲前田先生が電波遮断の仕組みを解説中

導電率と表面厚さの関係は、前田先生の講義でも習いました。ただ、水道水が電気を通すとは気がつかなかった。
海中を潜航して進む潜水艦と、陸上の基地局の交信の話を授業でしましたね。電波は水の中ではすぐに減衰してしまうので、地上での通信手段である短波や超短波は使えません。そこで潜水艦との通信には、目標到達深度によりますが、たとえば、周波数が3kHz以下、波長にして100km以上となる波長の非常に長い電波が使われます。ただし伝送速度が遅く大量のデータを送信できないことに加えて、基地局のアンテナは全長数十km以上と大がかりなモノが必要となります。
立命館大学 情報理工学部

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