2016.11.28

日本の野菜は栄養不足って本当?痩せた土地を微生物で元気にする!

野菜って健康に良いと思いますよね。でも、それは昔の話。今の日本の野菜は、食べ過ぎるとかえって健康に悪影響を与えるかもしれませんよ。

生命科学部の久保先生の取材は、そんなショッキングな話から始まった。

その理由は、この100年で日本の農業がそれ以前と大きく変わったからです。約100年前までは、日本の農家はどこも微生物がいっぱいいる農地で野菜や米を作っていました。

土壌の中にいる微生物は、牛肥や鶏糞、大豆を搾った油かすなどの有機物を分解して、リンや窒素などの無機物に変えた。植物はその無機物を吸収し、光合成を行うことで成長することができた。

その自然に合致した農業のサイクルを大きく変えたのが、約100年前に登場した化学肥料です。化学的に合成したリンや窒素を農地に撒けば、微生物が必要ありません。植物の成長スピードを大幅に早められるのです。

化学肥料と害虫を駆除する農薬を組み合わせた化学農法は、それまでに比べて土地面積当たり何倍もの収穫を農家にもたらした。化学農法はその圧倒的な効率の良さから世界中に広まり、日本でもこの50年間で全国の農家が取り入れた。

ところがその結果、日本中の農地から微生物が激減することになりました。有機物というエサがなくなったことによって、土中1センチ立法あたり数億匹もいた微生物が、場所によっては10分の1以下に減ってしまったのです。

▲微生物の働きを解説する久保先生

微生物がいなくなった土は白っぽく固くなり、保水性も悪くなって痩せていく。痩せた土地にさらに化学肥料を与え続けることで、農地にもともとあった「地力」はどんどん衰えていった。その結果、化学肥料を与え始めた当初は大きく伸びた収量も、年を追うごとに減っており、その減少量を補うため、現在の日本の農地では平均してアメリカの2倍、ロシアの10倍以上もの化学肥料を使用していると久保先生は言う。

問題は収量の減少以上に、野菜の栄養分が少なくなったことです。化学肥料は基本的に窒素とリンとカリウムで構成され、微生物が作るビタミンや鉄分、カルシウムなどの微量元素を含んでいません。そのためできた野菜は『栄養失調』となり、味も美味しくなくなってしまうのです。

そう言って久保先生は、2つのトマトの写真を見せてくれた。

これは私たちが作った有機農法の土地で栽培したトマト(左)と、化学農法で栽培したトマト(右)を、研究室の棚に1カ月放置した比較写真です。

▲有機農法で作ったトマトは化学農法で作ったトマトとまったく違い、1か月間室温で放置しても、そのまま食べられるほどみずみずしい。

化学農法のデメリットはそれだけではない。農薬漬けの野菜を食べ続けることで、人の健康状態に大きな影響を与えると久保先生は言う。

農薬をたっぷり使った野菜を食べている人の尿を検査すると、残留農薬が明確に検出されます。私たちの腸の中には約3万種類、1000兆個もの微生物がいて消化や免疫機能を助けるなどさまざまな活動を行っていますが、農薬たっぷりの野菜を食べることによって、その腸内環境が悪くなってしまう可能性があるのです。近年の日本でアレルギーや免疫疾患が増えているのは、化学農法の広がりと密接な関係があるという学者の方も少なくありません。

日本の農地と、私たちの腸内は、微生物でつながっているのだ。

そうした日本の農業の状況を、根本的に科学の力で改善しようと久保先生が取り組む研究が、「微生物の力を用いた土壌改良」だ。

農業にとってもっとも大切なのは『土づくり』です。微生物が沢山いる土地は、見るからに黒々として栄養たっぷり、水を含んでしっとりしています。そういう土地には1グラム当たり6億匹もの微生物がいます。私たちは土地を微生物の量と種類、化学的性質(残留した肥料などの成分)、物理的性質(保水力、通気性等)の19項目で評価し、その状態別に最適な改善策を土地にほどこす方法を開発しました。

▲SOFIXによる土壌の診断表

久保先生はもともと、微生物を用いて医薬品を作ったり、石油で汚染された土地を石油分解菌によってきれいにしたりする研究を行っていた。その研究で蓄えた知見を、農地の改良に活かし、微生物が元気に育つ土地の「レシピ」を開発したのだ。
いわば『土地のお医者さん』となって、土地の「病状」を診断し、微生物の力を使って治療をするこの方法を、久保先生は『SOFIX』と命名。立命館大学の知的財産として特許をとり、大手商社などと組んで日本全国に広めていこうとしている。

微生物の力を活用した有機農法は、土地自体の力が強くなるため、害虫にも強くなります。微生物の発酵熱によって、土地の温度が1〜2度高くなることから、化学農法では必要なビニールシートなどが必要なくなるケースもあります。農家の人たちの収入を圧迫していた、肥料や資材にかかる費用を3割近く減らせると試算しています。SOFIXを導入することで、農家は儲かり、生活者は美味しく健康に良い野菜が食べられるようになる未来を作っていきたいと思っています。

▲SOFIX実験圃場でのトマト栽培の様子

久保先生は「地力は国力」と断言する。日本にもともとあった豊かな地力を取り戻す「土地のお医者さん」という役割に興味がある方は、久保先生の研究室の門を叩いてみてはいかがだろうか。微生物の探求を通じて、社会と人々の健康に役立つ大きなやりがいを感じることだろう。

立命館大学 生命科学部

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