2016.12.26

インターネットの盗聴をどうやって防ぐ?

メールを誰かにのぞき見される?

インターネットは、誰もが毎日使う便利な通信手段です。けれども、そこには大きな落とし穴があることを知っていますか。例えば、メールを誰かに盗聴されたり、買い物をする際に記入したパスワードやクレジットカードのナンバーを盗み見されると大変なことになります。ところがデータの盗聴そのものは、実はそれほど難しいことではありません。ただしデータが高度に暗号化されているので、簡単には解読されないのです。けれども、暗号が解読されてしまうと困りますね。

▲インターネット上の通信は、原理的に盗聴が可能

盗聴を物理的に防ぐ量子暗号通信

インターネットの仕組み上、盗聴そのものを防ぐことは不可能です。暗号が数学的なものである限り、コンピュータの計算能力が高まれば、いずれは解読される可能性があります。では、どうすれば盗聴を防げるでしょうか。通信データを送る前に、盗聴されているかどうかを確かめれば良いのです。盗聴されていなければ、そのままデータを送り、盗聴されている場合はやり直す。そのために開発されたのが量子暗号通信、量子の性質を活用して、途中で盗聴されているかどうかを見極める物理的な暗号です。どんな仕組みなのか、実験で説明しましょう。

▲これが今回の実験で使う装置

▲左からアリス役の櫻井広大さん、イブ役の小野田将人さん、ボブ役のDing Jingwenさん

アリスを担当する櫻井です。暗号研究の分野での決まりで送信者がアリス、受信者がボブと決まっているのです。量子を表す光をボブに向けて発信します。
盗聴者役のイブを担当します。アリスが発信した光を途中でキャッチして、ニセの信号をボブに送ります。
私はボブ役。届いた光が途中で誰かに盗み見されていないかをチェックします。

▲実験ではアリスが送った光を、イブが途中でキャッチして、ニセの光をボブに送る。

イブが覗き見すると光の偏光の角度が変わる

実験は、ポインターの光を使います。ポインターから発信した光を、光の進行方向に対してある角度の偏光板に通すことで,アリスは特定の角度に変更した光を送信します。途中で何もなければ、アリスが伝えたとおりの光がボブに届きます。ではイブが途中で盗聴するとどうなるか。アリスから発信された光を受けたイブは、盗聴していることがバレないように、同じ光をボブに送らなければなりません。けれども、イブにはアリスが送った光の偏光の角度がわからないのです。推測しても当たる確率は、光の性質により4分の1となります。つまり、イブがボブに送り直す光は、4分の3の確率でアリスが送ったものとは異なってしまいます。異なる光を受けたボブは、アリスに通信データの本文を送らないように連絡し、もう一度やり直せば盗聴を防げます。

アリスが発信した光の偏光の角度を推測して、ボブに送らなければ。間違っていたら、盗聴したことがバレてしまう。

▲アリスが発信した光を途中でキャッチするイブ

あっ!受け取った光は、アリスが送ってくれたものではないみたい。途中で何かあったんだ。データ本文を送らないようにアリスに連絡しなくちゃ。

▲受信者のボブはある角度に偏光板を置いて光が通るかどうかをチェックする

違う光が届いたということは、途中で誰かが盗聴したということ!

▲ボブとアリスが偏光板の置いた角度と光が通ったかどうかの情報を交換して途中で誰かが盗聴しているかをチェック

▲量子状態(光)は途中で観測すると必ず変化する。だから、のぞき見すると必ずばれる。

観測すると変わってしまう量子状態

ボブが受け取った光は、アリスが送ったものとは異なっていました。この実験が表しているのが量子状態の不思議な性質です。実際の量子暗号通信では、光を一粒送ります。発信された光は、観測された瞬間に上下左右のどちらかにその偏光の角度を変えます。つまりイブが途中で盗聴すると、最初に送られた偏光の角度とは異なります。盗聴を隠すには、イブは受け取ったのと同じ光をボブに送らなければなりません。けれどもイブは、自分の観測によって偏光の角度がどのように変わったのかを正確に知ることは絶対にできないのです。観測により光の変化する方向は4つだから、イブが変化した方向を当てる確率は4分の1となります。仮に光を2つ送れば、イブが正解する確率は(1/4)2=1/16、3つ送れば(1/4)3=1/64となります。1000ビット、つまり光を1000粒送れば(1/4)1000となり、イブが正解できる確率はほぼゼロとなるため、盗聴すると必ずバレてしまうのです。

光の性質を応用すれば空気中でも送ることが可能に

量子暗号通信は、一部では既に使われています。ただし、光の送受信機が高価なために普及はしていません。とはいえ今後、現状の暗号が破られた時には、セキュリティ確保が求められる銀行間の通信などで、量子暗号通信が採用される可能性があります。量子暗号通信のポイントは、量子の物理的性質を利用して、途中に盗聴者がいるかどうかをあらかじめチェックすることです。光の性質を活用すれば、空気中に光を飛ばしてデータを送ることも理論的には可能です。量子暗号通信が普及すれば、データを盗み見される恐れはなくなります。

立命館大学 情報理工学部

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